アートプロボノの概要とニーズ(2)アートプロボノの普及に向けて

アートプロボノの概要とニーズ(2)アートプロボノの普及に向けて

アーツカウンシル東京のカウンシルボード委員や有識者などによる様々な切り口から芸術文化について考察したコラムをご紹介します。

今回は、前回に引き続き一般社団法人芸術と創造代表理事 綿江彰禅氏に執筆いただきました。

(以下、2018年3月16日アーツカウンシル東京「コラム&インタビュー」より転載)

前稿では「アートプロボノの可能性 〜芸術文化団体のイノベーションに繋がるか〜」として、アートプロボノに係る専門人材と芸術文化団体のそれぞれのニーズについて述べた。

前稿でも一部触れたが、ここで改めて、アートプロボノを促進することの意義を考えたい。

そもそも芸術文化を仕事にしたいと考える時に、「厳しい労働条件を受け入れてアート業界で働く」か「芸術文化に関わる仕事を諦める」という2元論のなかで選択しているように感じる。本来、芸術文化の関わり方は、より細かなグラデーションのなかで選択されるべきであり、アートプロボノはその有力な選択肢の1つとなりうる。様々な人々が関わることで、当人達の自己実現にも繋がるであろうし、芸術文化業界の底力は確実に上がる。

また、文化庁をはじめとした行政では芸術文化の振興において、その基礎となる芸術文化団体の経営力のレベルアップを図るため、アートマネジメント教育に注力してきた。この多くは業界内部の人々(もしくは内部での就労を考えている人々)の意識改革を促すものである。このような意識改革においては、芸術文化団体に必ずしもアート業界の価値観に染まっていないビジネスパーソンを受け入れることも1つの有効な手段となりうる。

さらには、文化芸術基本法(2017年6月施行)では、芸術・文化の「観光、まちづくり、国際交流、福祉、教育、産業」などとの連携が強調されている。このような多様な分野との連携を推進するにあたっては、業界内部の専門性だけでは限界があり、むしろ既にその専門性を持った人材を受け入れていくことが有効である。

アートプロボノにこのような可能性を感じ、今年度、文化庁と一般社団法人芸術と創造はアートプロボノの普及促進に向け、セミナー「アートプロボノってなんだ?」(2017年12月12日、約100名参加)や、プロボノワーカーと芸術文化団体、プロボノを仲介するプラットフォーマーと芸術文化団体のそれぞれのマッチングを促すイベント「アートプロボノってどうやるの?」(2018年1月20日、約80名参加)を開催した。

セミナー「アートプロボノってなんだ?」(2017年12月12日)
セミナー「アートプロボノってなんだ?」(2017年12月12日)
イベント「アートプロボノってどうやるの?」(2018年1月20日)
イベント「アートプロボノってどうやるの?」(2018年1月20日)

特にセミナーに関しては、参加者の募集開始から数日で受付枠に達し、締め切らざるを得ないほどの反応があった。

両イベントともに、プロボノワーカーと芸術文化団体のそれぞれに周知、参加を呼びかけたが、プロボノワーカーの参加者は芸術文化団体の参加者の2倍以上と、プロボノワーカーの反応が芸術文化団体のそれを上回った。

また、プロボノを仲介するプラットフォーマーへの(認定NPO法人サービスグラント、SVP東京、NPO法人二枚目の名刺等)聞き取りにおいても、そもそも他分野と比較して、プロボノ受け入れに向けた芸術文化団体の要望が少ないことが把握されている。

そのような意味では、昨年度調査※1 も含めプロボノワーカーがアートプロボノを行いたいというニーズは十分に存在すると検証されており、アートプロボノの普及促進に向けた課題は芸術文化団体によるアートプロボノの認知及び受け入れに関するニーズの掘り起こしであることが明らかになった(プロボノワーカーの支援ニーズは以下のような業務にあることも分かった)。

出所)一般社団法人芸術と創造
出所)一般社団法人芸術と創造

昨年度調査※2 における芸術文化団体ヒアリングや今年度のイベントの参加に向けた芸術文化団体への働きかけを通して、そもそもプロボノといった概念が芸術文化団体にほとんど認知されておらず、またプロボノを認知している芸術文化団体でも「芸術文化団体と十分に経験・価値観を共有していないプロボノワーカーを受け入れること」、「プロボノワーカーのサポートを受ける業務の切り出し」、「プロボノワーカーとのコミュニケーションに割かなくてはならない労力」、「プロボノワーカーの持つ専門性の質」などについての不安を抱えていることが分かった。

後者に関しては、文化庁や弊社のような団体が、アートプロボノに係る成功事例を把握し、それを積極的に発信していくことで、これらの不安を解消していくことが必要であるし、前者に関しては、芸術文化団体に加え、そもそも芸術文化団体を支える中間支援団体、行政、文化施設の職員ですらプロボノへの理解が進んでいないことがアートプロボノの普及の障害となっている。まずは、これらの方々も含めアート業界を発展させる手法の1つとして「アートプロボノ」を認識し、その活用の可能性を検討することが重要であると考えられる。

※1:文化庁「専門人材による文化団体における社会貢献活動調査」(受託:一般社団法人芸術と創造)にて行ったインターネットアンケート調査では会社員等の有職者のうち約10%がこれまでに「専門的知識や技術を活かしたボランティア活動(プロボノ等)」を経験しており、約24%が(経験したことがないが)今後経験してみたいとしている。また、プロボノ経験者や希望者のなかで「今後支援する可能性のある分野」として、「芸術文化」は上位に位置づけられている(19項目中、「子どもの健全育成」、「まちづくりの推進」、「地域安全」に次ぐ4位)

※2:文化庁「専門人材による文化団体における社会貢献活動調査」(受託:一般社団法人芸術と創造)

(2018年3月16日アーツカウンシル東京「コラム&インタビュー」より転載)

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