ミシガン州では、季節によって天候がかなり激しく変化する。2014年型日産「370Z(日本名:フェアレディZ)Nismo」に試乗する一週間ほど前は、気温が18度から21度という秋晴れが続いたが、翌週はどうなったか想像がつくだろうか?
風は吹き荒れ、湿度は高く、気温はせいぜい13度前後と肌寒く、おまけに数日間も土砂降りが続くという最悪の天気。370Z Nismoのための一週間は、まさに秋特有の天気に散々悩まされた。そんな中での試乗は正直大変だったが、地面が乾いていると判断できた時には一目散にガレージに駆け込み、すぐに運転を始めるといったやり方で試乗を続けた。だが、その熱意も日を追うごとに萎えてしまった。
他の自動車評論家などに言わせると、370Z Nismoは筆者好みの車で、確かに一切の妥協がないスポーツカーだ。しかし私は、この車にもう少し妥協があってもいいと思ったし、370Z Nismoのような高性能な車との生活は、時間が経つにつれ、"ありがた迷惑"だと感じるだろうということだ。
所感
・370Z Nismoは、改良された日産の3.7リッターV6エンジンを搭載し、最高出力は350hp(355ps)/7,400rpm、最大トルクは38kgm/5,200rpm。回転数を注意深く保ってやればこのエンジンはかなりの力強さを発揮する。ベースとなっている370Zと比べ、エグゾーストはリチューンされ、ECUのプログラムの変更によってパワーが向上(18hpアップし、トルクは1kgmダウンした)した。ぎこちない印象はあるが、適切なギアに入れ適切なエンジン回転数を維持すればダイナミックな走りをもたらすことも確かだ。筆者はこれらの点について批判に値するとは考えないが、ともかく積極的に運転を楽しもうと思ったらエンジンの回転数には常に気を配らなければならない。
・しかし、エグゾーストを改良したにも関わらず、エンジンノイズは相変わらず荒っぽくて不快だ。乗車中はずっと耳障りなノイズが響いているので、オーナーの耳を煩わせないためにも、アフターマーケット品のマフラーに交換するべきだ。ただし例外として、3,500rpmから4,500rpmの間でスロットルを全開にした時に限り、心地よい音を聴くことができるだろう。
・370Z Nismoのトランスミッションは6速マニュアルのみ。各ゲートのストロークが短くシフトチェンジには少しばかりの力を必要とするが、先ほども言ったように、筆者はスポーツカーの美点を見つけることに関しては人一倍労力をつぎ込むので、この点はあまり気にしない。クラッチは癖がなくペダルの重さも適切で、つながるポイントが明確で予測しやすい。しかし残念なことにスロットル・レスポンスが鈍いため、クラッチを操作することは楽しくない仕事になってしまっている。
・2014年型370Z Nismoの外観は美しく生まれ変わっており、マグマ・レッドが廃止されてソリッド・レッドが追加されるなど、ボディ・カラーは配色を引き立てるように設定色が見直された。今回の試乗車はパールホワイトということもあり、そのコントラストがよく映えていた。グレーのエアロキット、ミラー、スポイラー、そしてホイールがよりポップな印象を与え、フロントやリヤなどに施されたレッドのラインがアクセントになっている。
・リスタイルされた外観とは対照的に、キャビンが改良されなかったことは残念だ。本革とアルカンターラを使ったステアリングホイールが装備され、わずかに高級感が演出されてはいるが、フレッシュさを与えているとは言えない。時代遅れのラジオ、空調や計器盤は、この車よりも日産「ヴァーサ(日本名:ティーダ)」に適しているように感じた。何より、370Zシリーズの頂点に君臨しているにも関わらず、ナビゲーションシステムがないなんてもってのほかだ。
・370Z Nismoのキャビンは、ドライバーにとって使い勝手がいいとは言えない。NISMOブランドのシートは思うような調節ができない上に、固定式のランバーサポートも何の役にも立たない。その証拠に、私は運転しながら45分もの間、座る位置を変えたり身体をくねらせたりして、ちょうどいいシートポジションを見つけるために格闘した。ステアリングと計器盤は一体となって動き、テレスコピック機能がないので、180センチを超える長身の筆者は、ステアリングホイールに膝をぶつけながら、我慢するか、力いっぱい腕を伸ばして何とかハンドルを握るか、いずれにしろキツイ姿勢での運転を強いられた。
・NISMO仕様にチューンされたショックアブソーバーやスプリング、そしてレイズ製19インチ鍛造ホイールの組み合わせは、街中における乗り心地を固すぎるものにしている。ミシガン州の路面状態が悪い道では、まるで垂直運動をしているかのように跳ね回り、大音量のエンジンノイズを轟かせながら車が暴れた。裏庭にレーストラックがある、もしくはまるでシルクで出来たような道があるような土地に住んでいない限り、日常での使用を考えると370Z Nismoの足回りは固すぎるだろう。
・ブリヂストン「ポテンザ S001」のタイヤサイズは、前245/40R19、後285/35R19。コーナリング時には強力なグリップを発揮するが、普段流して走行しているときにはロード・ノイズがひどい。サスペンション同様、運転中に苛立たしさを覚える。日常の使用に適しているとは言えない。
・370Z Nismoの基本価格は43,020ドル(約426万円)で、諸経費790ドル(約8万円)は含まれていないが、決して安くない。今回の試乗車のように、味気ない4スピーカーのステレオをオプションでBOSEサウンドシステムに変更する場合はさらに1,350ドル(約13万円)かかる。370Z Nismoの最低価格となる44,000ドル(約436万円)という価格帯には、多くのライバルたちが名を連ねている。例えば、よりパワフルなフォード「マスタングGT」(オプションでトラックパッケージとレカロ製レーシングシートを装備して価格39,885ドル(約395万円))、シボレー「カマロ SS 1LE」(2013年モデルの価格は40,535ドル(約402万円))、そしてヒュンダイ「ジェネシスクーペ」(33,895ドル(約336万円))。また、アウディ「TTS」(48,700ドル(約482万円))、シボレー「コルベット・スティングレイ」(51,000ドル(約505万円))という超強力なライバルたちだ。
・しかし370Z Nismoにとって最大のライバルは、何と言ってもベースモデルである「370Z」の「スポーツパッケージ」付きだ。基本価格33,830ドル(約335万円)の370Z スポーツパッケージは、恐らく370Z Nismoの85パーセント程度にあたる性能を発揮すると思われ、価格は10,000ドル(約99万円)ほど安く、生活の中で日常的に使ってもはるかに耐えられる。日産ディーラーに足を運んで370Zシリーズに心を奪われた時は、370Z スポーツパッケージを選ぶことをお薦めする。
【基本情報】
エンジン:3.0リッターV型6気筒
パワー:最高出力350hp/最大トルク38kgm
トランスミッション:6速マニュアル
0-60mph:5.3秒(推定)
駆動方式:後輪駆動
車両重量:1,518kg
座席数:2
荷室容量:195ℓ
燃費:市街地18mpg(約7.7km/ℓ)、高速道路26mpg(約11.1km/ℓ)
ベース価格:43,020ドル(約426万円)
試乗車価格:46,370ドル(約459万円)
By Brandon Turkus
翻訳:日本映像翻訳アカデミー
監修:日下部博一
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(こちらは2013年11月16日のAutoblogの記事「【短評】「褒めるべき点がほとんどない...」 日産「370Z(日本名:フェアレディZ)Nismo」」を転載したものです)