米国IACグループへのバイアウトで話題のエウレカ。主力事業であるオンラインデーティングサービス≪pairs≫のプロデューサーであり、執行役員を務める中村裕一さんへのインタビューです。元々パソコンもロクに使えないダメ大学院生だった中村さんは、いかにして今日のポジションを掴んだのでしょうか。
≪pairs≫プロデューサーの意外な経歴
2015年5月11日、WEB業界に大きなニュースが流れた。
「エウレカ、米国IACグループへバイアウト」。
自社サービス開始から2年半というスピードで幕を開けたエウレカの新たなステージ。このM&Aを語るうえで欠かせないのが、主力事業であるオンラインデーティングサービス≪pairs(ペアーズ)≫だ。pairsのプロデューサーであり、執行役員を務める中村裕一さんは、サービスの立ち上げから関わり、国内はもとより台湾での利用者獲得を主導し、サービスを急成長させた立役者。Facebookページのいいね!数を国内トップクラス(約250万いいね!)へとグロースさせた存在でもある。
しかし、中村さんのキャリアを紐解いてみると、少し意外だ。大学院で財政学を専攻...と記すと聞こえはいいが、実態は大学時代に留年を経験。就職活動に失敗し、大学院へモラトリアム進学した自称"ダメ大学院生"。WEBの知識も浅く、PCもせいぜいエクセルが操作できるレベル。大学院在学中も内定を得ることができず、「インターン」という言葉の意味もわからないまま、インターンとしてエウレカへジョインしたという経歴の持ち主だ。
果たして彼はいかにして今日のようなポジションを掴んだのか。中村さんのサクセスストーリーに迫ってみたい。
【Profile】
株式会社エウレカ 執行役員 pairs事業責任者
中村裕一 Hirokazu NAKAMURA
横浜市立大学卒。公務員を目指して横浜市立大学大学院進学後、修士2年のときにWEBの知識ゼロ、パソコンもロクに使えない状態で、エウレカでのインターンをスタート。1ヶ月後に中退してエウレカへジョインする。2014年、執行役員兼pairsプロデューサーに。愛称は「とんかつ」。
「インターンシップ」の存在を知らなかった学生時代
― 公務員を目指していたとのことですが、どのような学生・院生だったのでしょうか?
サークル活動に明け暮れて、年間10単位もいかないような大学生でした。なので、2年のときに当然のように留年。留年した後には就職活動をしたんですが、エントリーシートも通らない状況。「仕方ないので、大学院でも行くか」くらいのノリでした(笑)。大学院では学部の延長で財政学を専攻していたので、漠然と公務員を目指していたんです。
― 公務員志望だったのに、なぜエウレカへ?
公務員試験の直前に、少しだけ就職活動をしたんですよ。それでもやっぱりエントリーシートは通らないまま。公務員どころか、「そもそも自分は、社会で生きていけるのか?」という不安が芽生えてきていました。ちょうどそのタイミングでサークルの後輩がエウレカでインターンをし始めたんです。僕はそのときに初めて世の中に「インターン」というものがあることを知ったんですけど(笑)。そこで「俺も連れて行ってよ」と声をかけたら、「明日面接に来ていいらしいですよ」と話が進んで、翌日早速面接に行きました。
― それまでとは行動力がまるで違いますね。
大学の同級生は卒業して普通に働いているわけじゃないですか。大学院生の僕とは、話が合わなくなってきているような感覚に覚えていたんです。コンプレックスというか、劣等感というか。そういった負の力が、当時の僕を突き動かしていたのかもしれません。
面接では「どうすれば正社員になれるんですか?すぐになれますか?」と聞いたんですが、代表の赤坂には「何もできないんだから、今すぐ正社員にはできないよ」と今思えば至極真っ当な指摘をされて(笑)。でも、最後に「インターンで頑張って結果を出せば、正社員にする」という話をされ、「とりあえず始めるしかない」と腹を括り、インターンをスタートしました。
― インターン中はどのようなことを意識していたんですか?
やると決めたからには、とにかく本気で一度やってみよう、という気持ちでした。面接の次の日に家から着替えを全部持ってきて、それから1ヶ月間で帰宅したのはたぶん1~2回くらい。当時、オフィスにはシャワールームや寝袋もあったので、昼夜関係なく仕事していました。会社にいれば、赤坂・取締役の西川に食事をご馳走になれたのでお金も浮くし(笑)。何より、2人と長時間一緒にいることで、仕事の話を色々と聞けますからね。
プロデューサーもディレクターも営業を経験すべき
― 知識もスキルもないと毎日しんどかったと思うんですが、何がモチベーションだったんですか?
同じ時期にインターンを始めた大学4年生がいたんですが、大手企業からいくつも内定をもらっていて、インターン経験も豊富で、いわゆる"意識高い系"の学生でした。インターンを始めたタイミングが同じなので、修士2年の僕からすると2歳年下なんですが、同期扱いでタメ口なんですよ(笑)。しかも当時赤坂と西川が営業ロープレを僕と彼にいつもやってくれていたんですが、僕は一度も勝てなかったんです。2歳年下に完敗したのが単純に悔しかったですね。
でも、同時に自分がWEB業界の底辺にいることを把握できたんです。だから、とりあえず成長しないと話にならない、成長したいと心底思えてきて。今思い返しても、かなり極端だったと思います。当時は「友達と遊ぶのは、時間のムダ。とにかくあらゆることを学んで成長したい」と、ずっと仕事をしていました。
― ずいぶん思い切りましたね!実際1ヶ月間会社に寝泊りし、ガムシャラに働く姿勢が評価されて正社員として入社されたわけですが、当時印象に残っているエピソードってありますか?
最初は広告代理事業の営業で、赤坂のアシスタントとして提案していた案件があったんですが、全く結果が出なかったんです。「効果出ます!」と断言して発注してもらっていたのに。で、先方から「どういうことか説明に来てくれ」と言われたんですが、訪問直前になって赤坂が「中村一人で行ったほうが成長になるから」と一人で行くことになりました。当然めちゃくちゃ怒られるわけですよ。しかも、当時正社員になったばかりのタイミングだったので、補填案を出したくても決定権がないじゃないですか。そもそも「補填」という言葉も知らなかったし(笑)。とにかく謝り続けました。
でも、今思い返すと、ビジネスの意思決定に携わる人たちが、結果に対してどれだけ本気で考えているかを最初の段階で知れたのは大きかったですね。
― その後の仕事ぶりにも活きている、と。
今でこそ執行役員、pairsのプロデューサーをやってますが、目標達成できているのは営業経験があったからだと思います。逆に経験がなかったら、pairsが順調なので少しくらい目標に届かなくても、「まぁ、売上は伸びているし、いいんじゃない?」くらいのゆるいチームができ上がっていたのでは、と思います。最近、プロデューサーやディレクターは全員営業を経験すべきだと思いますね。いくら企画が優れていても、結果を残せなければ意味がないので。
結果が出るまで愚直に取り組む。この"当たり前"をできない人が多い
― 結果を残し続け、その後広告代理事業のトップというポジションを手にした中村さん。ご自身は、pairsのプロデューサーに抜擢された要因って何だと思いますか?
2つあると思っていて、1つ目は結果を残していたこと。もう1つは、タイミングが良かったということだと思います。元々、2013年は会社として受託で得た利益を自社プロダクトに投資すると決めていたタイミングだったんです。ちょうどそのとき営業としてトップの成績を収めていた僕に声がかかった。
― そう考えると、結果を残すことって重要ですね。改めて、というか。
そうですね。結果を残すことが抜擢するかどうかの判断基準になりますからね。
一般的なベンチャーやスタートアップって"一事業一企業"、"社長=プロダクトオーナー"みたいなところもありますよね。でも、エウレカは昔から「サービスガレージになる」と言っていて、今後もpairsやCouplesだけに留まらず、新しいサービスを出していきたいと考えています。サービスガレージをつくっていくためには、会社としてもポジションを任せられるメンバーを育てなきゃいけない。そうなると、結局「結果」が求められるんですよね。
― メンバーも、結果を残しているトップのほうが信頼できると思います。
人として信頼されているかどうかはわからないですけど、"あの人の目指す方向が正しいんだろうな"くらいの感覚は持ってくれていると思います(笑)。残し続けてきたので、ついてきてくれたのかな、と。
― それほどまでに"結果にコミット"できているのって何が背景にあるのでしょう?中村さんが考えるWEB業界で活躍できる人材の要件というか。
やっぱり「WEBが好き」ということはポイントだと思います。WEB業界にも、意外とWEBがそこまで好きじゃない人が多いんですよね。好き、もしくは好きになれるってことは大切ですね。
あと、実体験をふまえて話すとやっぱり「愚直にやれる」ということでしょうか。時間をかけてでも。エウレカの広告代理業のひとつで、ブログプロモーションをやっていたんですが、年代も属性も全く違うモデルのブログ1年分の記事を読者数ランキング1位から150位まで全部読んで、「この人はこういうトーンのブログを書くから、こういう商材のプロモーションと相性が良さそう」などを徹底的に頭に叩き込みました。そうしないと、クライアントに適切なプロモーションプランが提案できないからです。つまり「結果を出すために必要なこと」だったので、地味な作業ですが興味のない記事をひたすら読み続けていました(笑)。
一方で、僕の後に「営業をやりたい」と入ってきた学生インターンたちにも同じことを課題としてやらせたんですが、「こんなことしたくない」「もっと楽しそうな仕事ができると思っていた」「頭を使っている感じがしない」という子が多かった。
WEB業界って頭の良い人が多いと思うんです。頭が良いからこそロジックを固めるのはうまいんですが、結局、結果を出すための地道な、泥臭いことができない人も多いと思っています。WEB業界ほど入ることが簡単な業界はないですが、自分は頭が良いからと、理論武装だけしていても結果をださなければ、頭が良くなくても、地味に努力する人に抜かれる可能性はあるな、と。僕の場合、結果を出すために、愚直に努力することを徹底したので、3~4年でプロデューサーや執行役員にまでなれたのかなと思っています。
― とはいえ、ツラい時期もあったと思います。
月曜日がツラくて出社しなかったことも結構ありました。まだ自分だけで仕事の結果が確実に出せる状態じゃなかったので「あの案件、失敗したらどうしよう」というプレッシャーで、「会社に行きたくない」と。失敗すると、赤坂、西川にもクライアントにも怒られるし(笑)。でも、休んでも結局やらなきゃいけないことが増えるだけで、何も解決しない。それに途中で気付いて。
あとは、怒られたくなかったので、とにかく時間がかかっても、徹底的に考える、わからなかったら恥も外聞もなく上の人に聞いて教えてもらう、それでやってみる。もし、失敗したら同じ失敗を二度としないようにまた徹底的に考える...。それの繰り返しで、少しずつできることが増えていっただけです。手品のように、ある日突然、何でもできるようになるなんてことは、あり得ない。地道な、愚直な努力の積み重ねのうえにしか結果は出ないと、改めて思います。そして、愚直な努力の積み重ねができる人材の集合体が、成長する企業だとつくづく思います。
でも、「愚直」って何かカッコ悪いと思っている人が、この業界には多い気がするのと、愚直に頑張るのは実は難しいんです。だからこそ、この業界は、愚直に努力できることだけが実は大きな差別化ポイントだと思います。
― 実体験を交えてのお話、ありがとうございました!今WEB業界で壁に直面している人にとっては励みになると思います。pairs、ひいてはエウレカのさらなる躍進を楽しみにしています!
[取材・文]田中嘉人
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