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2018年10月23日 16時15分 JST | 更新 2018年10月23日 16時15分 JST

サイボウズ式:人生の選択肢がありふれる今、選択肢が狭まることは「ラッキー」かもしれない──桜林直子×紫原明子

シングルマザーであるからこそ、現在のキャリアをスタートさせ、構築しています。

サイボウズ式


"結婚をして子どもを産んだら、もし離婚をしてシングルマザーになったら──。時間とお金が制限されて、仕事でバリューを出すことは難しく、キャリアに良くない影響が出るんじゃないか。"

情報があふれ、多様な結婚や家族のかたち、多様な働き方に触れるなか、そんな"不自由"を想像して、選択肢がありすぎて選べずに、二の足を踏んで迷っている人もいるかもしれません。

SAC about cookies」というクッキー屋を経営する桜林直子さんと、『家族無計画』ほか家族にまつわるエッセイを執筆する紫原明子さんは、シングルマザーであるからこそ、現在のキャリアをスタートさせ、構築しています。

シングルマザーであるおふたりの活躍は、勝手に想像する"不自由"から解放してくれます。桜林さんと紫原さんは仕事と家族とどう向き合っているのか? それぞれの「仕事と家族の関係性」に迫る対談をお届けします。


「半分の時間で、2倍稼ぐ」ために、クッキー屋を開業

徳:桜林さんは、クッキー屋さんを経営されながら、他店舗のコンサルティングといったようなお仕事もされていますよね。現在は、どんな働き方をされているんですか?

桜林:うーん、説明が難しいんだけど......。お金になる仕事とならない仕事、誰かに頼まれた仕事と頼まれていない仕事、その両方をしています。

桜林直子(さくらばやし・なおこ)。1978年生まれ 東京都出身。2002年に結婚、出産をし、ほどなく離婚してシングルマザーになる。洋菓子業界で12年の会社員を経て2011年に独立し「SAC about cookies」を開店する。現在は自店の運営のほか、店舗や企業のアドバイザーなども行なっている。noteにて「シングルマザーのクッキー屋の話」などを投稿している。娘のあーちん(現在15歳)は、2012年(9歳)より「ほぼ日刊イトイ新聞」にてマンガ、イラストで連載中。

徳:だいたい、お金と時間は何割ずつくらいですか?

桜林:収入の7割はクッキー屋さんで、それに使う時間は3割くらい。残り7割の時間を使って、お金にはならない仕事をしています。

紫原:すごい! 少ない時間で必要な生活費を稼ぐって、シングルマザーだけじゃなくて、すべての人にとっての理想ですね。

紫原明子(しはら・あきこ)。1982年、福岡県生まれ。男女2人の子を持つシングルマザー。 個人ブログ「手の中で膨らむ」が話題となり執筆活動を本格化。BLOGOS、クロワッサンweb、AMなどにて寄稿、連載。その他「ウーマンエキサイト」にて「WEラブ赤ちゃん」プロジェクト発案など多彩な活動を行っている。著書に『家族無計画』(朝日出版社)、『りこんのこども』(マガジンハウス)がある。

徳:桜林さんがnoteの「続・シングルマザーのクッキー屋の話」で書かれていた「半分の時間で、2倍稼ぐ」という働き方には衝撃を受けました。

私自身、子どもを産んで仕事に使える時間が圧倒的に減って、限られた時間のなかで価値を出すことは難しいと思っていたので......。

徳 瑠里香(とく・るりか)。1987年、愛知県生まれ。一児の母。出版社にて、若者向けの働き方書籍シリーズを創刊、WEBメディアでの企画・編集・執筆を行う。その後、著者の会社でオーガニックコスメのPR・店舗運営等を経験。現在は、フリーランスで編集・執筆を行っている。HUFFINGTONPOST,soar等に寄稿ほか。この日は娘が取材に同行。

桜林:私は7年前にお店を始めたんだけど、お店を始めるまでの2年間考え続けて、自分のなかで働くうえでの4つの優先順位を決めて、その目標を立てました。

その優先順位とは、生活費を稼ぐこと、時間を自由に使えること、子どもと一緒に夏休みをとれること、子どもに学校以外の居場所をつくること、この4つです。

徳:家族との生活に根付く、明確な目標ですね。

桜林:私は23歳で結婚をして、24歳でシングルマザーになりました。その頃はお菓子屋さんで働いていたんですが、自分の能力や価値がわからなかったから、とにかく働く時間を増やすしか収入を増やす方法はないと思っていて。

紫原:うん、うん。

桜林:でも、子どもが小学校に上がって、40日間の夏休みを暇そうにしているのを見て、この先6年間この状態はまずい、と危機感を覚えたんです。

私が働いてばかりだと子どもと過ごす時間がなくなるし、でもお金がないと子どもの選択肢がなくなってしまう。このままでは、お金も時間も足りない、と。

徳:それで、少ない時間でより多くのお金を稼ぐためにクッキー屋さんを開業されたんですね。

でも実際に、開業されて、子育てをしながら、軌道に乗せるのは並大抵のことではないと想像するのですが......。

桜林:シングルマザーの意地ですね。ほかにどうにもならないから本気で考えた。

自分にはこれしかできないし、時間も限られていてお金も必要だし、他に選択肢がなかったから、やるしかなかった。意地になれたのは、「シングルマザーだから」かもしれませんね。

専業主婦だったことが「物書き」という仕事を生んだ

徳:紫原さんは作家活動を中心に、PR業等もされていたんですよね。現在はどんな働き方をされていますか?

紫原:もともと物書きだけでは食べていけないから、物書きとそうではない雇われの仕事の2本の柱を立てていました。

週2くらいで会社に通って、それ以外の時間を執筆にあてていたんですが、今年の3月から、物書き1本でやっていこう、と働き方を変えたんです。

桜林:そのきっかけは何だったの?

紫原:家計の安定のために週2で物書き以外の仕事を入れていたけれど、疲れて、お惣菜を買って帰ろうとか、マッサージを受けようとか、仕事をするためにお金を払っているところがあるなあ、と。

必要な労働とお金のバランスを合わせるために、物書き以外の仕事は辞めました。

でもまだ実験的で、どれくらい働いていくら稼ぐとバランスがいいのか、働き方を探っているところです。

サイボウズ式

徳:子育てをしながら働いていると、使える時間と稼げるお金を意識せざるを得ないですよね。そのバランスが難しい......。

紫原さんは、19歳で出産して以来ずっと専業主婦をされていて、離婚を意識した31歳の頃にはじめて就職をされたんですよね。

紫原:はい。

徳:ご自身のキャリアをスタートさせ、選択していくなかで、家族の存在はどう影響していますか?

紫原:私が物を書く動機は家族にあるので、その影響は大きいですね。高校を卒業して専業主婦をしていた私にとっては、家族の問題が一番身近で、当事者として感じたことをブログに書いていたら、仕事につながった。

今は社会の転換期で、専業主婦でもサラリーマンでも置かれた場所にいろんな課題があって、そこに気づいて、変えていこうとすることが仕事の種になる。私は、専業主婦だったことが社会とつながるきっかけになりました。

徳:なるほど。

紫原:今でも変わらず「家族」をテーマに執筆をしているので、シングルマザーであることや息子と娘の存在は、物書きとしての私に、大きく影響していると思いますね。

そもそも働いたことがないことをずっと負い目に感じてきたけれど、社会に出てみるととても多くの人が、自分の心身の基地になるものを探していることを知り、暮らしや、家族の大切さにあらためて気付かされました。

離婚して家族の形が変わったけど、それでも何とか子どもと私にとって居心地の良い基地を維持し続けなくちゃいけなくて。実生活の中で得た気付きは、社会の人にほんの少しでも必要とされているものなんじゃないかなって思えました。

「あなたを助けることで幸せになる人がいる」。だから、もっと頼ってもいい。

桜林:子育てをしながら働くというときに、大事なのは「仕事」をどう捉えるかだと思うんです。

お金を稼ぐための仕事なのか、誰かに喜んでもらいたい仕事なのか、仕事のなかにもいろいろある。私の場合は、お店を始めた当初はお金のために仕事をしていて、今は、お金にならない仕事もしています。

紫原:お金にならない仕事をして得られるものは?

桜林:友だちができることですね。これまで、仕事はお金を生み出すためのもので、自分の「たのしい」にはつなげられなかったから。

友だちの役に立てて、喜んでもらえる仕事がたのしい。お金にならない仕事に時間を使っているから、仕事=稼ぐことという概念がなくなればいいのになって思います。

サイボウズ式

紫原:ああ、なるほど。私も、ホームパーティを開いて、友だちに喜んでもらうことから始めて就職したからなあ。

徳:ホームパーティを開いて就職活動をするのは、斬新ですよね。

紫原:当時の私は、専門学校中退で、社会人経験もない専業主婦、二児の母だったので、普通に就活をしても難しいだろうと、そこに賭けたんです。実際に、ホームパーティが招いた人の縁で就職ができました。

仕事と子育てをするうえでも、人に頼ることができたらいいなと思います。両親だけでなく、ある程度制度を利用しつつ、ほかの人にも頼る。

私はシッターさんに合う人が見つけられなかったので、お金を払ってママ友に見てもらうこともありました。ただ、人に頼るのにもある程度コミュニケーション力が必要なので、子育てが親だけに委ねられているところに、制度の不備があると感じます。

桜林:人に頼るのって、難しいよね。

紫原:私もはじめは人に頼るのが苦手だったんだけど、昔、ある人に「あなたを助けることで幸せになる人がいるんだよ」って言われて。

すぐにできるようになったわけじゃないけど、頼っていいんだ、と思えた。それまでは自分に負荷をかけて、ぎりぎりのところまで頑張らないと、誰かを頼っちゃいけないと思っていました。自分もぎりぎりまで頑張らないで、人にもそれを許容したい。

桜林:みんながそうなるには、まだまだ時間がかかるよね。

紫原:シングルマザーとか、お母さんとかって、自分が一番頑張ってないと周りから認められないという重圧があるじゃないですか。

お母さんと子どもをジャッジする社会の目がなくなったらいいなと思っていて、「WEラブ 赤ちゃんプロジェクト」を始めました。子どもたちが成長して0.5歩くらい子育てが他人事になったからできることだと思います。

サイボウズ式

仕事も家族も全部含めて「時間をいかに使うか」。自分のやり方を見つける

徳:振り返ってみて、おひとりで子育てをしながら働いていて、大変だったエピソードはありますか?

桜林:私はせっかちだから、大変になってから考えることはあまりなくて。お店を始める時も2年間考え尽くしていたから、ある程度想定内でした。

紫原:すごい! 私は逆で、大変になって慌てるタイプ。最初に就職した会社では、イベント立ち会いなど夜間の仕事もあったんですが、その日になって、子どもたちどうしよう、と慌てていました(笑)。

徳:家族無計画』でも「すべての決めごとは(仮)でいい」と書かれていますね。

紫原:私は「家族無計画」だけれど、サクちゃんは「家族計画」ができている...!(笑)

桜林:どっちがいいというわけじゃなくて、私のやり方は、私の性格と、私のキャリア、家族構成も含めて、プラスとマイナスの私の持ち物を洗い出してやっている"私用"のもの。

だから、無理して真似はしないほうがいいと思う。明子さんは、明子さんのやり方で、真似できないところがある。

"仕事と家族"とか"仕事と休み"とか「仕事とそれ以外」に分けて考えないで、「時間をいかに使うか」という視点で、それぞれが自分の持ち場と持ち物でやっていくのがいいと思います。

サイボウズ式

「選べない」不自由。時間とお金が制限されるシングルマザーだからできたこと

紫原:私は、世の中には誰しも生まれ持って「偏愛の人」と「博愛の人」がいると思っていて。

なんでも器用にできるけれど、特別好きなものがあるわけじゃない博愛の人が自分の仕事を見つけるのは難しい時代だな、と感じます。

徳:今は情報も選択肢もあふれすぎていて、仕事も結婚も「選べない」不自由があるかもしれません。

たくさんあるなかから何をどう選んだらいいのか、ひとつに絞る怖さがあるような気がします。

桜林:たしかに、今の時代に、同じ年齢で、同じ選択肢を選べたかというとできなかったかも。

私がお店を開業した時は、ほかの働き方を知らなかったし、情報がなかったから、自分の頭で考えるしかなかった。ほかを見ていたら、自分の能力にないものも選択肢に入れて、選べなかったかもしれない。

あとは、やっぱりシングルマザーで時間とお金に制限があったことは大きいですね。

紫原:シングルマザーになると、選べる道が少なくなるから、ある程度の覚悟も決まる。メインのレールから外れたことで、王道でなくてもいいんだと、社会の重圧から解放されて、私はすごく楽になりました。

桜林:誰かに相談しなくても、自分で決めることができますし。

紫原:今の時代、選択肢が狭まっていくことはラッキーなことなのかも。

子どもがいたら、シングルマザーだったら、制限されることがあるけど、選択肢が狭まるから、決めやすくて生きやすい。自分に枷をかすことは、自分を楽にすることでもあります。

サイボウズ式

桜林:何を選択するかって難しいよね。自分がどんなときに嬉しくて、何に幸せを感じるか、つまり自分の「欲」がちゃんとわかれば選択しやすいんだろうけれど、それすらよくわからないことが多いし、たどり着くには時間がかかる。

徳:だからこそ、選択して、やってみるしかない。

紫原:ある程度は、成り行きでいいんじゃない? じゃないと制限がない限り、選択ができない。今、結婚以外の選択肢はない!というタイミングはなかなかやってこないですよ。

桜林:私も結婚はそうだった。一回やっておくか? という感覚。一生は誓いませんよ、と。案の定というか想定内で離婚をしたけど、合うかどうかはやってみないとわからないことだから。

一番つらいのは、選択肢を広げすぎて、選べないまま、結局何もできないこと。人生に使える時間は限られているので。

紫原:最大公約数を残しておこうと思って、特色のない無難な選択肢を取っていっても、結局選べないなら、一回選んで失敗したほうが、生きやすくなると思います。

徳:仕事も結婚も一回の選択ですべてが決まるわけじゃないですもんね。

紫原:置かれた場所で面白くすることが次につながっていく。どんな場所でも、自分の人生を面白くするという意気込みと工夫が大事!

文:徳瑠里香/編集:明石悠佳/撮影:三浦咲恵



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