サイボウズ式:複業を認めた会社は、社員の保険や年金をどう調整すべきか?——サイボウズ人事に聞いてみた

複業するなら知っておきたいリスクとは
サイボウズ式

地方でNPO法人を運営しながら、サイボウズで副(複)業している竹内義晴が、実践者の目線で語る本シリーズ。今回のテーマは、複業者の「保険と年金」。複業するとき、保険や年金ってどうなるの?

私がサイボウズで複業(メインとサブの「副業」ではなく、複数の仕事を同時にこなすパラレルワークの「複業」)を始めた当初、実は社員ではなかった。個人事業主として業務委託契約を結んだのである。

なぜか。複業を始める上で、それがもっとも手っ取り早いと思ったからだ。

もちろん、最初から社員になることもできた。だが、保険と年金の手続きが気になったのである。

サイボウズでの複業を業務委託にすれば、「個人(今までの仕事)+個人(サイボウズの業務委託)」となり、今まで通り保険は国民健康保険、年金は国民年金のままでよい。仕事はすぐに始められる。

一方、「個人(今までの仕事)+会社(サイボウズの社員)」の場合はどうなるのか。私の場合サイボウズでの勤務は週2日だ。

そもそも、こんなに短い勤務時間で社会保険や厚生年金に加入できるのか。できたとしても、さまざまな手続きが必要で、仕事を始めるまでに時間がかかるのではないか。

このような不安から、複業を業務委託で始めることにしたのである。

私の場合は「個人+個人」と「個人+会社」の選択で悩んだが、これをお読みの多くの方は、きっと会社員の方も多いのではないかと思う。

会社員が「会社+個人」「会社+会社」のスタイルで複業を始める際、保険や年金はどうなるのか?

「正直、よく分からない」という人が大半ではないか。

そこで、サイボウズで人事や労務にかかわっている浅賀佑子さんに、複業社員の保険や年金の扱いについて聞いてみた。

複業社員の保険や年金はどうなるの?―サイボウズ人事に聞く

竹内:浅賀さんは複業採用や、「複業したい」という社員の労務に関する相談にのっていらっしゃるのですよね。

浅賀:はい、そうです。

竹内:複業採用って、働き方や契約形態に関係なく、一緒に働く仲間を採用するわけですけど、初めて聞いたときびっくりしませんでした?

浅賀:そうですね。サイボウズは元々、社員の複業を認めていました。でも、「これからは複業する人を社外から採用するんだ」とびっくりしました。

竹内:そりゃあびっくりしますよね。

浅賀:と同時に、ちょっとした不安もありました。

竹内:不安というと?

浅賀:他の会社で働いている方がサイボウズで複業するということは、その方が働いている会社の人事と私たちとの間で、保険や年金などの調整が必要なんじゃないかと思ったんですよね。

「これからは、相手先の人事と直接やりとりする時代が来るんだな」と思いました。

竹内:それは......大変そう。

浅賀:あと、会社によっては、社員の複業を歓迎していない企業もあるかもしれない。

「同じ感覚で複業の話ができるのかな? それはハードル高いな」とも思いました。

竹内:複業を歓迎していない会社の人事との調整は、かなりハードルが高そうですね。

ところで、実際に複業採用がはじまってみて、複業を希望している方の会社の人事と、保険や年金の調整をすることはあったんですか?

浅賀:それが、予想に反して直接会話をすることはなかったんです。「複業したい」というみなさんはマインドが自立しているからか、「人事にお任せ」という人はいませんでした。

竹内:確かに「人事にお任せ」という気持ちでは、複業はできないかも。

浅賀:働き方やキャリアのことを真剣に考えている人が多いんじゃないかなーと思います。必要な調整は自分でしてくれましたね。

複業者の保険や年金の手続きはめんどくさくないの?

竹内:とはいえ、複数の企業にまたがって働くと、複業する人にとっても、人事にとっても、保険や年金の扱いが面倒臭くなる気がするんです。実際のところはどうですか。

浅賀:そうですね。「やるべきことをやれば、それほどでも」という感じでした。

竹内:具体的にはどんな感じですか。

浅賀:労務的にみると、保険や年金のほかに、雇用保険や労災も合わせて考えた方がいいので、一緒にみていきましょう。

健康保険・年金

浅賀:まず、健康保険と年金ですが、雇用形態が正社員か、契約社員か、パート・アルバイトかにかかわらず、加入要件を満たしていれば会社で入ることができます

竹内:「加入要件」とは?

浅賀:「1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務に従事している一般社員の4分の3以上」です。

竹内:なるほど。一般社員と比べて4分3以上働いていれば、社会保険と厚生年金に入れるんですね。本業と複業の会社でその要件を満たす場合はどうなるんですか?

浅賀:どちらの会社をメインとするかを複業する方が選んで、年金事務所に「健康保険・厚生年金保険 所属選択・二以上事業所勤務届」という書類を提出します。

竹内:保険料を二重取りされることはないんですか?

浅賀:保険料は、2つの会社の給与を合計して決定した後、それぞれの会社の給与割合で割り振ります。

竹内:そうか。給与の割合で割り振るから問題ないんですね。

浅賀:そうなんです。ちなみに、サイボウズで複業している社員は、「サイボウズの社会保険を抜けます」というケースはほとんどありません。

「他社での稼働は少しなので、サイボウズの社会保険の加入を継続したまま」という方がほとんどですね。

竹内:そうなんですね。じゃあ、私のケースについて教えてもらっていいですか?

複業をはじめた当初は業務委託でした。でも、業務委託はなんとなく「外の人」みたいな感じがしたので、2017年8月に正社員に切り替えてもらったんです。

浅賀:竹内さんは、正社員になったとき、社会保険の加入手続きをとりましたね。

竹内:はい。それで今、週2日勤務の正社員なんですけど、労働日数は一般社員の4分の3以上じゃありません。でも、健康保険と年金はサイボウズで入っています。なんで入れたんでしょう?

浅賀:サイボウズでは元々週3日勤務など勤務日数が少ない正社員もいて、柔軟な働き方ができるようになっています。

短時間正社員の場合、保険や年金に入る要件が別にあって、それを満たせば加入手続きが取れるようになっているんです。

竹内:なるほど。短時間勤務でも正社員であれば加入できるんですね。じゃあ、逆に、会社に所属したまま個人事業主になるときはどうするのですか?

浅賀:その場合は、先ほどの、社会保険に加入する要件を満たしていれば会社で加入します。要件を満たさない場合は、国民健康保険・国民年金に加入することになりますね。

雇用保険

竹内:雇用保険について教えてください。私、サイボウズの雇用保険に入っていないんですよね。雇用保険に入れないと聞いたとき、最初、なんとなく不安になりました。何か条件があるんですか?

浅賀:雇用保険の加入は、雇用形態にかかわらず、週20時間以上となっています。

竹内:なるほど。週20時間以上という決まりがあるから、私は入れなかったんですね。

浅賀:そうですね。

竹内:よく考えてみたら、私は元々個人事業主として起業していて、雇用の保障は求めていなかったことを思い出しました。

もし、サイボウズを辞めても、ハローワークに行って失業保険をもらうつもりもないので。

労災

浅賀:最後に労災ですが、労災は雇用形態にかかわらず、すべての労働者に適用されます。2社で働いていれば、両方の会社で入ります。複業か否かは、特別関係ありません。

1つの会社に社員として雇用されていて、1つは個人事業主になる場合も、会社の業務分は労災が適用になります。

竹内:まぁ、労災に入るのは、会社としては当然ですよね。

複業するなら知っておきたいリスク

竹内:保険や年金については基準が法令で決まっているので、確かに「やるべきことをやればOK」って感じですね。

私自身「複業だから」といって、特別難しい手続きがあった印象がありません。複業したい人が、自分で「どんな形で働きたいのか」を決めて、あとは人事と相談しながら、やるべきことを進めていけばよさそうです。

浅賀:そうですね。

竹内:複業する人にとって、労働時間や健康も気になるところです。人事として気にしていることはありますか?

浅賀:複業採用が始まるときに、弊社の社労士にリスクを聞きました。そのとき、人事担当者としては、「社員の健康管理と労働時間の管理」「労災の補償」を知識として入れておいたほうがいいとアドバイスされました。

健康管理・労働時間管理

浅賀:健康管理と労働時間の管理について、サイボウズでは、フルタイムで働くほかに複業するような社員には、週1回の休みを確保するように伝えています。

竹内:そうなんですね。

浅賀:また、サイボウズ社内の労働時間のほかに、複業先の労働時間も報告してもらうケースもあります。

社員に健康管理や休日の確保を意識づけながら、労働時間を把握するためです。記録しないと、本人も知らず知らずの間に働いてしまいますしね。

竹内:時間を申告するのはちょっと面倒ですけど、健康管理も大事ですからね。

労災の補償

浅賀:次に労災です。労働災害が原因で休業しなければならなくなったとき、収入の補償を国が保険から支給してくれます。でも、複業の場合「十分に補償されないリスク」があります。

竹内:えっ!そうなんですか?

浅賀:労災の補償額は、働いている会社の収入が基準になりますが、複業の場合、働いている会社によって、収入の差がある場合がありますよね。

例えば、A社とB社で複業していて、B社に関する仕事で労働災害にあったとします。

竹内:はい。

浅賀:この場合、B社の労災が適用されますが、A社とB社の収入割合が8:2の場合、補修額の計算基準は全収入の2割となり、十分な額にならないリスクがあります。

しかも、働けなくなるほどの事故の場合、A社の仕事もできなくなりますよね。

竹内:それは......怖いですね。

複業者と人事のコミュニケーションが大切

竹内:いやぁ、保険や年金って、なんとなく難しい感じがして、ちょっと避けて通るみたいなところがありました。よく分からないし。

浅賀:そうですよね。

竹内:でも、複業するなら、保険や年金、働く上でのリスクはちゃんと知っておいたほうがいいなと改めて思いました。知らないからといってリスクがなくなるわけじゃないし。

浅賀:複業に関しては、世の中の法整備がまだ追いついていないところもあるので、複業したいという方と人事がコミュニケーションを取りながら「一緒に解決していく」という気持ちで取り組むのがいいのかなと思いますね。

イラスト:マツナガエイコ

」は、サイボウズ株式会社が運営する「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトです。本記事は、2018年5月25日のサイボウズ式掲載記事
より転載しました。

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