若者向けのブランドが、Snapchat(スナップチャット)を活用していても、誰も驚かないだろう。「マークジェイコブズ(Marc Jacobs)」のブランド舞台裏動画や、ファストフード「タコベル(Taco Bell)」のスポンサーレンズなどがいい例だ。これが保険会社のスナップとなると、かなり意外な組み合わせである。Snapchatが「若者向け」の象徴であるのに対し、保険は「若者向け」とは程遠い。
しかし、デンマークの保険会社「アルカ(Alka)」では、Snapchatでライブストーリー投稿と懸賞キャンペーンを毎週3カ月に渡り展開、これまでリーチが困難だった若年者層への訴求に成功したという。
「保険会社は、若年者層とはあまり縁がない。若者は、保険になんかお金を出す意味がない、と思っているのが普通だ」と、キャンペーンを担当した広告代理店ファイヤボール(Fireball)のクライアントディレクターであるハンス・フォン・ハフナー氏は述べている。「しかも、アルカは、特典でもない限り、フォローして面白いようなブランドでもない。Snapchatでの有償広告は選択外だ」。
デンマーク・ラジオ(Denmark Radio)によるメディア消費調査によると、デンマークでは、12歳から29歳の48%が毎日Snapchatを使用しており、もっとも急速に伸びているソーシャルメディアプラットフォームだという。アルカの新商品、月額12ユーロ(約1500円)の家財保険は、21歳から30歳の層を対象にしており、アルカでは押し付けがましくない自然な方法でオーディエンスにリーチする方法を模索していた。「ユーザーの邪魔をせず、かつリード(見込み客情報)を得る方法はないかと考えた」と、ファイヤボールのコミュニティマネージャであるウーリック・ヌーア氏は米DIGIDAYに語った。
1月から4月までの毎週水曜日、コミュニティマネージャ1人とクリエイティブディレクター2人から成るキャンペーンチームは、ショートビデオのストーリーを考え、簡潔にまとめた動画を撮影し、午後2時に投稿。合計で12本の30秒動画を作成した。内容はすべて、バイク、ノートパソコン、ハンドバッグなど、持ち物を盗まれた(または失くした)というものである。
踏み潰されたオレンジの花
名前と電話番号とともに、動画のなかのオレンジのアイテム(アルカのブランドカラー)のスクリーンショットを送ってきたフォロワーには、抽選で賞があたる、という仕組みだ。このキャンペーンで、アルカでは774件のリードを獲得した。
「若者世代が所有している家財は少ないかもしれないが、彼らは所有している数少ないモノに大きな愛着を抱いている」と、ヌーア氏。「ストーリーは、Snapchatというプラットフォームと関連付けた。つまり、無くしてしまったモノは、Snapchatのコンテンツと一緒でもう戻ってこない。保険がないと困るよね、という筋書きだ」。
ダイレクトマーケより「効率が良い」
774人というリード数は、比較的小さいものだが、エンゲージメントは高いという。このうち半数(49%)がブランドと対話を行なっており、アルカのエージェンシーチームでは、懸賞に応募したすべてのユーザーに返答をしている。重要なのは、実際に保険の購入に至ったケースもある点だ。アルカでは、商品購入へのコンバージョン率については口を閉ざしているが、ほかのダイレクトマーケティングやソーシャルメディアよりも「効率の良いコンバージョン」であったという。
「どの程度の人数が実際にエンゲージしてくれるかは、未知数だった。実際にフォローしてくれた人がいたというだけでも、すごい」と、アルカのマーケティングコンサルタント、トーマス・フリガー氏は述べている。「キャンペーンに反応してブランドと対話がはじまる様子は、見ていて素晴らしかった」。
Snapchatのストーリーでおなじみの課題は、いかにブランドをフォローしてもらうか、という点だ。アルカのソーシャルメディアは弱く、Twitterのフォロワーが少々と、Facebookの「いいね」が1万4000件あるだけだ。自社アカウントの代わりに、アルカでは、HKなどデンマークの労組と一緒にSnapchatキャンペーンのプロモを行い、労働組合員をターゲットにFacebook広告キャンペーンを実施した。
この夏、アルカでは再びSnapchatで懸賞を展開するという。夏休みやフェスティバルなどで、「保険がないと困るシチュエーション」を題材にしていく予定だ。
Lucinda Southern(原文:訳 / 片岡直子)
(2016年5月31日「DIGIDAY」より転載)