新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
2020年04月10日 18時52分 JST | 更新 2020年04月11日 09時35分 JST

アメリカでは、黒人が新型コロナウイルスで死亡する割合が圧倒的に高い。一体なぜか

『息ができない」というセリフ、前にも聞いたことがあるのではないでしょうか

親しい知り合いが7人新型コロナウイルスで死んだ時点で、グレッグ・ボーエンズ氏は数えるのをやめた。その後も毎日、新しい死者の名前をソーシャルメディア上で目にした。

「なぜこれほどたくさん知り合いが死ぬということが、起こりうるのでしょうか?」とボーエン氏は嘆く。

広報のプロとして働くボーエンさんは、NAACP(アメリカ有色人種地位向上委員会)ミシガン州グロスポイント&ハーパーウッズ支所の創設者でもある。

その後の4月2日、ミシガン州の保健社会福祉省が人種別の死者数の内訳を発表した。

同省が発表したデータによると、ミシガン州の黒人人口は14%を占める一方で、新型コロナウイルス感染者の黒人が占める割合は33%(白人は25%)、死者数は41%(28%)だった。

ボーエンズ氏やデトロイトに住む黒人の人たちにとって、それは驚きの数字ではなかった。彼らは身近にいる人が体調を崩し、数週間で亡くなっていくのを目にしていた。

デトロイトで、新型コロナウイルスで最初に亡くなった著名な黒人は、有力なコンサルタントのマーロー・ストゥーダマイヤ氏だった。その後、有名な高校のバスケットボールコーチ、学区の職員、そして市のバスドライバーが亡くなった。そのドライバーは乗客の咳が自分にかかることの恐怖を、ソーシャルメディアで訴えていた。

叔母を失った女性は、それと同じ日に母親と祖母を救急外来に運ばねばならなかった。祖母は1週間後になくなった。母親は人工呼吸器をつけて治療中で、回復に向かっている。

ミシガン州のデータは完全なものではない。30%のケースで、人種が書かれていなかった。しかし、ほぼ完成している同州ウォッシュトナウ郡のデータと同じような傾向を示している。ウォッシュトナウ郡では、アフリカ系アメリカ人の人口は12.3%である一方で、入院している患者の割合は49%にものぼる。

アフリカ系アメリカ人の感染が高い傾向は、ミシガン州ではデトロイトだけではない。さらに、貧しい人だけが感染しているわけでもない。デトロイトは約80%が黒人で、貧困層は35%を占めるが(アメリカ全体の3倍以上)、もっと豊かな郊外に住むアフリカ系アメリカ人も、多くの人たちが感染拡大の影響を受けている。

「中流階級や上位中流階級の黒人の人たちも、新型コロナウイルスに感染して亡くなっています。サウスフィールドやデトロイト、イーストポイント、ハーパーウッズやその他の地域に住む人たちの共通点は、黒人だということです」とボーエン氏は話す。

ミシガン州だけではない。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、人種別の新型コロナウイルスの感染者のデータを発表していないが、各州や市のデータは、新型コロナウイルスの感染ケースが、黒人に大きく集中していることを示す。

イリノイ州シカゴは、黒人が住民に占める割合は30%だが、死者の割合は68%にものぼる。ウィスコンシン州ミルウォーキーは、黒人の割合いは約3分の1だが、新型コロナウイルスの感染者は約半数になる。ルイジアナ州では、今のところ新型コロナウイルス感染者の10人に7人が黒人だ。

新型コロナウイルスのホットスポットには、ニューオーリンズやデトロイト、そしてニューヨーク市クイーンズ地区やブロンクス地区といった、マイノリティが多数を占める都市や地区が多数含まれている。 

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ミシガン州の人口のうち、黒人が占める割合は14%だが、新型コロナウイルス感染者の33%、そして死者の41%が黒人地域に住む人たちだ

■ 「私たちはまだ、社会の不平等に対応できていない」

社会学者や疫学者は、患者の新型コロナウイルス感染が悪化しやすくなる疾病のほとんど(喘息、糖尿病、そしてHIVなど)が、黒人の人たちに高い割合で見られると話す。

「私たちは、アメリカの社会的な不平等に対応できていません。教育、仕事、そして収入。健康上の問題を抱えた人が、亡くなりやすいことはわかっていましたが、それでも実際に統計を目にすると、愕然とします」と、ワシントン大学セントルイス校で健康の人種格差を研究するヘドウィグ・リー教授は話す。

アフリカ系アメリカ人の人たちは、心臓病、脳卒中糖尿病の割合が、白人に比べて2倍高い。心不全、喘息、高血圧の割合も高く、人生の早い時期に発症している。  

そういった不均衡が何十年もかけて事態を悪化させ、寿命にも影響している。黒人アメリカ人の平均余命は白人に比べて4歳低くなっている。

「教育と就業の機会の違いが、慢性的な健康上の問題を引き起こすことがわかっていますが、新型コロナウイルスは、健康の問題が短期間で起きることを示しています」とリー氏は話す。

それ以外にも、黒人のコミュニティが新型コロナウイルスに感染しやすい様々な理由が考えられる。アフリカ系アメリカ人は、自宅でできる仕事に付いている割合が低い。そして、公共交通機関を使う割合が高い。

黒人の家族は、多世代で暮らすことが多く、それが高齢者をウイルスにさらす危険性を高めているかもしれない。そして、黒人の住む地域は「医療砂漠」、つまり医師や病院が不在であることが多い。そのことが、感染拡大初期に検査を受けられなかった原因だったかもしれない。

「多くの人たちが、サービス業に従事しています。そして賃金が低い。人々は生活を成り立たせるために、同じ家に住んでいます。子供はすでに成人しているかもしれませんが、皆が同じ家にいるのです。だから一人が感染すると、それが全員に広がってしまう」と、デトロイトのアイランドビューで、多くの教区民が感染するのを目にしてきたバリー・ランドルフ牧師は話す。

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住民のほとんどを黒人とラテン系アメリカ人が占めるブロンクス地区では、住人が新型コロナウイルスに感染する可能性はニューヨーク市の他の地域と同じくらいだが、死ぬ割合は約2倍高い

 ■複合的な脆弱さ

現段階で明らかになっている新型コロナウイルス感染拡大に関するデータが示すのは、アフリカ系アメリカ人が新型コロナウイルスに感染する割合はわずかに高い一方で、死ぬ割合はかなり高いということだ。

前述したミルウォーキーでは、アフリカ系アメリカ人の感染者は約半数だが、死者の81%を占める。住民のほとんどを黒人とラテン系アメリカ人が占めるブロンクス地区では、住人が新型コロナウイルスに感染する可能性はニューヨーク市の他の地域と同じくらいだが、死ぬ割合は約2倍高い。

「新型コロナウイルスは、様々な困難に対処している人たちにとって、最悪の事態を引き起こす」と話すのは、ハーバード大学で人種と健康の研究をしているデイヴィッド R・ウィリアムズ教授だ。

新型コロナウイルス死者における人種の不均衡は、他の病気とほぼ同じパターンを示している。

黒人と白人で比べた場合、たとえ同じ割合で病気になったとしても、アフリカ系アメリカ人の方が合併症などで死亡率が高い。

例えば、黒人で糖尿病を抱えている人は、白人の患者よりも合併症で死ぬ割合が高い。アフリカ系アメリカ人の高血圧の割合は、白人に比べて約30%高いが、脳卒中で死ぬ割合は300%高い。

心の病についても同じことが言える。黒人の人たちは重いうつ病にかかる割合が白人に比べて少ない。しかし彼らの症状はより深刻で、治療を受けていない人が多い。

不均衡の多くが医療にアクセスできるかどうかで説明がつくだろう。

ウィリアムズ氏によると、アフリカ系アメリカ人は健康保険に加入している割合が低く、たとえ入っていても高い自己負担金を払わなければいけない。

そして、黒人の患者は予防スクリーニングを受けられる割合が低く、がんやHIV、食生活に関連する病気で陽性と診断された場合に、治療をより長く待たなければならないという。認可外の医師の診断を受ける割合も高い。

「アフリカ系アメリカ人は医療へのアクセスがなく、アクセスできたとしても、医療の質が低いのです」とウィリアムズ氏は話す。

ストレスが原因の一つになっている可能性もある。過去の多くの研究で、人種差別に対する恐れが神経系の反応を引き起こし、マイノリティの人たちの慢性疾患にかかりやすさを増していると明らかになっている。

「差別されることに対する警戒が、体を消耗させます。それが心と体の健康、そして免疫機能に影響し、それが新型コロナウイルスに感染して合併症を引き起こすリスクを高める可能性があります」とリー氏は話す。

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教育や住む場所を分離してきた政策が、多くのアフリカ系アメリカ人が感染した原因になっている可能性もある

■息ができない

新型コロナウイルスは、アフリカ系アメリカ人の健康が、何十年にもに渡って意識的にないがしろにされてきた最新の例だと言えるだろう。

ウィリアムズ氏は、1950年代は黒人と白人の冠疾患の割合はほぼ同等であり、がん生存率は黒人の方が高かったと説明する。しかし、白人の死亡率が改善する一方で、アフリカ系アメリカ人の死亡率は停滞したままだった。

「これは、社会的政策が意図した通りに動いた結果です」とウィリアムス氏は述べる。同氏によると、デトロイト、シカゴ、ミルウォーキーといった新型コロナウイルス感染が拡大している多くの都市は、ただ黒人の割合が多いだけではなく、人種間で大きな分離がある。

「人種間で見られる違いは、その地域で彼らがどれだけのリソースに恵まれているかということと結びついています。アフリカ系アメリカ人は遺伝子のせいで感染しやすいのではなく、政策によってリソースへのアクセスが阻まれているのです」とウィリアムス氏は言う。

前デトロイト保健所長のアブドゥル・エル・サイード氏は、今回の新型コロナウイルス感染拡大で、アメリカの人たちに、不平等な歴史と社会政策がもたらした誤りだけではなく、徹底した個人主義が招いた誤りにも気付いて欲しいと話す。

「『誰かが他の人よりも苦しむのは、その人の選択のせいだ』と言う考え方から、私たちは抜け出さなければなりません。私たちはしばしば特権階級の人たちが言うことを、受け入れます。特権階級の人たちは選択肢のせいにすることがありますが、しかし貧困は選択肢を奪うのです」

ボーエン氏は、州や地方自治体の政府が、積極的にアフリカ系アメリカ人のコミュニケーションに介入すべきだと考えている。

彼は地元ニュースサイトのオピニオン欄で、新型コロナウイルス対策として、携帯電話の会社を使ってコミュニティーにメッセージを送信したり、教会やラジオ局と協力して新型コロナウイルス対策のメッセージや対策を伝えるよう、ミシガン州知事に求めている。

人種間のギャップを解決するためには、記録を残すことも重要だ。

法律による公平を実現するための団体「 Lawyers’ Committee for Civil Rights Under Law」理事長のクリスティン・クラーク氏は、4月6日に開かれた電話会議で、CDCは新型コロナウイルスの人種に関連する情報を収集しているが、公表していないと述べた。

そのほかのレポートも、地元の保健機関が組織的に死者の数を少なく報告している可能性があると示唆している。そこに、人種の問題も含まれている可能性は高い。

リー氏は、医療機関に行かなかった人や検査を拒否された人たち、もしくは緊急治療室で断られた患者は統計に含まれていないと話す。

「マイノリティの人種や民族の人たちは、医療機関で異なる扱いを受けている可能性があります。特に今のような緊迫した状況で、緊急な決断をしなければいけない時にはその傾向が強まることが考えられます」

新型コロナウイルスが人種に与える影響を理解するためには、黒人コミュニティ固有の問題を知り、そしてなぜその問題が存在するかを知ることが必要だとリー氏は述べる。

「黒人の人たちは今、新型コロナウイルスで亡くなっています。しかしそれ以前に、彼らは置かれている状況のせいで亡くなっているのです」

「今、新形コロナウイルスで苦しんでいる人たちが発している『息ができない」というセリフを考えてみてください。以前にも聞いたことがあるのではないでしょうか」

ハフポストUS版の記事を翻訳しました。