深刻な病気を抱える患者さんを助けるための医薬品を開発、提供しているバイオファーマのブリストル マイヤーズ スクイブ(以下、BMS)。
同社は、がん研究の促進とがん患者さんとそのご家族を支援するためのチャリティバイク(自転車)イベント「Continent 2 Continent 4 Cancer」(以下、C2C4C)を世界規模で実施しています。
日本で5回目の開催となる今年は、約60人の社員が参加。10月7日から21日まで、日本各地、約1,800キロメートルの距離をリレー形式で走行します。ライドチームが集めた募金とBMSからの寄付金を合わせた支援金は、認定NPO法人「マギーズ東京」へ届けられます。
製薬企業がなぜ、バイクイベントを開催するのでしょうか? C2C4Cに込められた思いについて、BMS日本法人・代表取締役社長の勝間英仁さんとマギーズ東京・共同代表の鈴木美穂さんに話を聞きました。

がんと関わる人びとの思いを紡ぐ。チャリティバイクイベント「C2C4C」
―「C2C4C」とは、どんなイベントなのでしょうか?
勝間英仁さん(以下、勝間):「C2C4C」は、1人の社員の思いから始まったチャリティイベントなんです。
当時、アメリカのBMSで働いていたその社員は、残念ながら、母親をがんで亡くしてしまいました。その個人的な経験や思いと仕事への使命感から、「何かもっと自分にできることはないか?」と考えた彼は、アメリカを自転車で横断し、がん患者さんを支援するイベントを発案。そうして2014年に始まったのが、C2C4Cです。
がんに影響を受ける人びとに寄り添ったり、がんと社会が対峙することを促したり――。C2C4Cには、さまざまな思いが込められています。イベントが開始してから12年の時を経て、がんと関わる人びとの思いが繋がり、紡がれ、ここまで来ているのです。
日本で5回目の開催となる今年のC2C4Cに私も参加するのですが、2014年から紡がれたストーリーの一端を担えることを大変嬉しく思っています。

また、C2C4Cには、社員それぞれが働く意義について考えるきっかけになるという側面もあります。
そもそも、私たちのミッションは、深刻な病気を抱える患者さんを助けるための革新的な医薬品を開発し、提供することです。
一方、がん患者さんのペイシェント・ジャーニーは、予防、診断、治療から終末期まで、当事者や家族の感情の起伏はさまざまにあります。また、闘病期間が長期に及ぶケースも少なくありません。
薬を創り、安定的に供給するという目の前の仕事だけに注目していては、見えない世界もたくさんあります。だからこそ、C2C4Cを通じて患者さんやそのご家族について考える時間を作ることは、私たちにとって大事なことなんです。
先日も、鈴木さんに全社員向けのミーティングで登壇いただき、マギーズ東京の活動や思いについて話をうかがいました。個人的にも、非常に感銘を受けました。
鈴木美穂さん(以下、鈴木):ありがとうございます。BMSの社員の皆さんには熱心に話を聞いていただき、貴重な機会でした。
「マギーズ東京」は、がんを経験している人や家族や友人、遺族、医療者など、がんに影響を受けるすべての人が、無料で利用できる場所です。
運河や緑を眺められる環境のなか、がんに詳しい看護師、心理士と友人のように話しをしたり、グループプログラムに参加したり、また、お茶を飲み、ゆっくり過ごしながら、自分の力を取り戻す支援を無料でおこなっています。
実は、以前は私自身が、このような場所を必要としていたんです。
2008年、当時24歳の時に乳がんが見つかって。それまでは、恋愛や結婚、出産も当たり前のようにできると思っていました。だけど、もう生きていくことすらできないかもしれない。本当に目の前が真っ暗になりました。
その後、2014年に国際会議でマギーズセンターの存在を知って。無料で医療の知識が豊富な専門家に相談したり、ゆっくりお茶を飲んだり、さまざまなニーズに合わせたグループプログラムに参加したりすることができる。そうしたセンターのあり方を目の当たりにして、運命を感じたんです。「これこそ、私の求めていたものだ」と。それから、共同代表としてマギーズ東京の設立に携わりました。
私ががんになってから17年。そして、マギーズ東京がオープンしてから9年になります。そのなかで強く感じるのが、医療の進歩なんです。

「あの薬があったおかげで今、私が生きている」ということだけでなく、実際にがんと共に長く生きられる人が増えてきました。その意味で、製薬のお仕事は尊いと思っています。
さらに、普段のお仕事に尽力するだけでなく、がん患者さんに寄り添う気持ちを自転車に乗せて届けていらっしゃる。その姿勢が本当に素晴らしいと感じます。
余談になりますが、私自身、学生時代に自転車で日本縦断をしたことがあるんです。だから、もしBMSの社員だったら、絶対にC2C4Cに参加したいです。
患者さんやご家族の居場所を作る。マギーズ東京を支援する理由
―マギーズ東京を支援する理由について教えてください。
勝間:C2C4Cでは、社員によるライドチームが集めた募金とBMSからの寄付金を合わせた総額を、マギーズ東京に支援金として届けます。
なぜ、マギーズ東京なのか? を一言で言うと、自分たちだけではできないことに取り組まれているからです。
製薬企業が関わる投薬や治療のフェーズは、患者さんやご家族がたどるジャーニーのなかの一部に過ぎません。だからこそ、私たちの力が及ばないところ、つまり、がんに影響を受けるすべての人が、安心して話したりお茶を飲んで一息ついたりするような「居場所」を作っている、マギーズ東京へ寄付をすることは重要だと考えています。
また、マギーズ東京の活動や思いに触れることは、社員が患者さんやご家族の視点に立って考えるきっかけになります。やはり、患者さんへの思いは、私たちが前に進んでいくための非常に重要なエネルギーです。その意味でもマギーズ東京とご一緒させていただくことは意義があります。

鈴木:実は、2年ほど前にがん医療フォーラムでC2C4Cの取り組みついて知って、それ以来ずっとご一緒させていただきたいと思っていたんです。だから、このお話をいただいた時は、とてもありがたかったです。
マギーズ東京は、医療の専門家、看護師、心理士、ソーシャルワーカーや栄養士などがいて個別に相談を受けたり、さまざまな方のニーズに合わせてグループプログラムを開催したりしています。それらは、すべてチャリティ(寄付や協力)で支えられていて、今回のご支援はこの日々の運営を持続し、発展させていくために使わせていただきます。
また、マギーズ東京は豊洲にオープンしてから今年の10月で9年になるのですが、実は今も土地は暫定利用なんです。そのため、私たちには恒久的なセンターを新たに建てるという目標があります。今回のご支援はそのための大きな力となります。
患者さんへの「思い」を胸にペダルを漕ぐ。C2C4Cへの意気込み
―最後に、C2C4Cに向けた意気込みを聞かせてください。
勝間:今回のC2C4Cでは60人のライダーがチームを組み3日間で300キロメートル、合わせて1800キロメートルの距離を走行します。なかには自転車に乗り慣れていない社員もいますので、5ヶ月のトレーニング期間を経て、10月に本番を迎えます。
実際にライドするのは60人ですが、私たちを応援しサポートしてくれる人たちも大勢います。C2C4Cには60人の輪にはとどまらない、たくさんの思いが詰まっているんです。

自転車を漕いでいると、苦しい時があります。諦めたくなる時や、自分の体力に失望する時もある。だけど、横を見ると一緒に並走している仲間がいて、心強く感じる。そして、自分では無理だと思っていた角度の坂を上り切った達成感。自分の成長を感じる瞬間――。ライドには、そんな喜怒哀楽が詰まっているんです。
これって、もしかすると、がんの闘病に近いのかなと思っています。私も血液がんで父親を亡くしていますが、彼が最初に診断を受けて、病院に行って先生と話をした時、治療方針を聞いた時、治療が始まった時、その時々で喜怒哀楽が常にありました。
C2C4Cのトレーニング期間だけを切り取っても、成長、失望、仲間への感謝、そうしたアップダウンが常にあって。それは、まさにがんと共に生きていくジャーニーに重ね合わせることができる。そう感じています。
また、トレーニングを続けていくと、「どういう思いで300キロ走るのか?」と考える機会が度々あります。そうしてトレーニングを重ねるにつれ、この活動が患者さんのために力を尽くすという、私たちの企業理念や価値観に共鳴しているということを実感しています。

「患者さんのためにもっとできることを」という思いで繋がったBMS社員たちが、今、2014年から紡がれたストーリーの一員になる。そして、一つのゴールに向かっていく――。そんな気持ちでこのチャリティイベントに取り組んでいきたいです。
(撮影:西田香織、ヘア&メイク:大和佳子、取材・文=大橋 翠<ハフポスト日本版>)