はじめてのSDGS
2019年11月14日 11時46分 JST | 更新 2019年11月19日 16時04分 JST

飛行機に乗るのは「恥」? グレタさんの国、スウェーデンでは「飛び恥」「鉄道自慢」の新語が流行中

自分ひとりが飛行機に乗らないぐらいで何も変わらない、と思っていませんか?

16歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリさんが、ニューヨークで開かれた国連の気候変動会議に出席するためにヨットで大西洋を横断したことが大きな話題になった。12月にスペインで開かれる会議でもヨットを利用するという。

飛行機ではなくヨットを使うのは、フライトによる大量の温室効果ガス排出を大幅に抑えるためだという。

こうしたアクションは、グレタさんのような活動家だけのものではない。彼女の母国・スウェーデンでは今、飛行機に乗ることが温暖化を悪化させてしまうという知識が広まり、鉄道で移動する人が増えているのだ。

自分ひとりが飛行機に乗らないぐらいで本当に意味があるのだろうか?

スウェーデンでNPO「Vihållerosspåjorden(私たちは、地面にとどまる)」を立ち上げ、飛行機利用を減らす呼びかけを続けるマヤ・ロセーンさんに話を聞いた。

マヤ・ロセーンさん提供
スウェーデンのNPO「Vihållerosspåjorden(私たちは、地面にとどまる)」創設者のマヤ・ロセーンさん

ーー飛行機の利用がそんなに地球に悪い、ということを知りませんでした。

温暖化について考えた時、飛行機はとても重要な要素です。

自転車通勤とか、肉を食べないとか、古着しか買わないなどと環境に優しい生活をしているつもりの人がいますが、実は1度の空の旅だけで全て台無しになると言っても過言ではありません。

スウェーデン人は平均して1年に1回程度、飛行機での海外旅行をします。片道の平均が約2700キロ(名古屋から香港ぐらい)で、その温室効果ガス排出量は二酸化炭素換算で1トンに達します。これは自家用車の1年間の排出量とほぼ同じなんです。

スウェーデン人の一人当たり温室効果ガス排出量は年間10トンですが、当然これを完全にゼロにすることは不可能です。人間であれば、食べなければいけないし、住宅も必要。全て二酸化炭素を排出する行為です。

でも旅行は、絶対に飛行機である必要はないですよね。ここは努力ができるところだと思います。

データを元に筆者作成
(図)クリスマスシーズンの旅行でスウェーデン人がよく行く旅先・交通手段別の温暖化ガス排出量をグラフ化。国内の人気スキー場スポット「オーレ」、国外の人気都市「ロンドン」「東京」に4人で出かけた際の往復で比較。データ:Jonas Åkerman KTH(スウェーデン王立工科大学)研究員

ーー自分ひとりが飛行機に乗らないぐらいでは何も変わらない、という気がしてしまうのですが、どうでしょうか?

私はいま、2020年の1年間飛行機に乗らないと宣言する人たちを募る「Flygfritt2020(飛ばない 2020)」というキャンペーンをFacebookで展開しています。

もちろん、自分が排出量を減らしても何も変わらないと思っている人もたくさんいますが、もしこのアクションが10万人に広がったら?  明らかにインパクトのある削減量になりますし、世界的に注目されるに違いありません。

今、参加してくれているのは6000人。スウェーデン人は一度約束したことに対してすごく真面目だから、まだまだ躊躇している人もいるのかなと思いますが、2020年までにはまだまだ増えると思います。国内の機運もかなり高まっていますしね。

2019年は、10月まででスウェーデンの国内線フライトの運行が昨年と比べて8%減りました。そのかわり、列車に乗る人が増えていて、旅行のハイシーズンである7月〜9月は前年比15%アップしています。

多くのスウェーデン人にとって、飛行機での旅行は自慢の対象ではなくなりました。ヨーロッパを移動する際には、鉄道を利用するのが一種のトレンド。

「飛び恥(Flygskam/ 英語ではflight-shaming)」「鉄道(列車)自慢(Tågstolthet/英語ではTrain Pride)」という言葉ができているくらいです。

個人旅行だけでなく、ビジネスでの出張を減らそうという動きもあります。年間の出張を半分にしようと読者に呼びかけるビジネス誌もありますし、私の周りのビジネスパーソンたちも、国際会議を減らしたり、なるべくスカイプに切り替えたりすればいくらでも対策できそうだと話しています。

ーーローセンさんがこの活動を始めたのはなぜですか?

私はもともと飛行機に乗るのがとても好きだったから、ずっとこの問題に目をつぶってきました。

でも2007年にノルウェーのロフォーテン諸島を訪ね、溶け始めている氷河を目の当たりにした瞬間、雷に打たれる思いがしました。

目の前に広がる大自然を見ながら、私が飛行機に乗ってここまで来たことで、この美しさを壊していると気づき、非常に居心地が悪くなりました。

その翌年、飛行機には2回乗りましたが、罪悪感が湧きすぎて…。それで、もう乗らないと決意しました。それ以来どこかに行く時には、電車に乗るか、どうしても電車がない田舎などでは仕方なく、車で行くようにしています。

OLIVIER MORIN via Getty Images
ノルウェーのロフォーテン諸島

とはいえ長い間、他の人にまでアクションを呼びかけるには至りませんでした。

飛行機に乗るのはすごく楽しいことですし、旅行を楽しみにしている人に、環境への悪影響について話すことで空気を壊すのをずっとためらっていました。

でも2017年の秋ごろから、少しスウェーデンの風潮が変わったきたように感じたんです。

「飛行税」を導入する法案が審議され始めて、飛行機の影響に気づき始めた人が多かったと思います。

その後、スウェーデンの有名人10人が「なぜ飛行機に乗らないか」というコラムを書きました。そのうちの一人は、グレタ・トゥーンベリさんのお母さんでもあるオペラ歌手のマレーナ・エルンマンさんです。

そしてついに私も2018年の”新年の抱負”として、友人との会話で飛行機旅行の話が出たら必ず環境への影響について話す、と自分に誓ったんです。

ある時、ベトナムに行くという友人に緊張しながらも「そのフライトによる温暖化ガスの排出量を知ってますか?」と聞きました。彼はその瞬間は戸惑った様子でしたが、あとからGoogleで調べたみたいで、奥さんと一緒に私の家を訪ねてきてこう言ったんです。

「これはひどい。このままじゃダメだ。私たちももう飛行機には乗らないと決めた」。

彼らはもう少しで定年退職して、世界旅行する予定だったのですが、それもやめると決めたそうです。

自分も周りも変わり始めている。そう感じて20181月、「Flygfritt2019(飛ばない 2019)」キャンペーンを始めました。最初は空き時間に関連するニュース記事などをシェアすれば自然と人は集まってくるかな、と甘くみていましたが、そうではないと気づき、NPOを立ち上げ、2018年8月からこの活動に専念しています。

マヤ・ロセーンさん提供

ーー地球規模の気候変動は、自分の生活にはなかなか直結しづらく、アクションを起こしにくい人もいると思います。

世界を見渡せば、酷暑や水害など、気候変動による死亡者が出ています。日本でも相次ぐ台風で各地で大きな被害が出ていますよね。

因果関係を感じにくいのか、「飛行機に乗らないなんて極端だ」と言う人もいますが、私は全くそうは思いません。ほとんどの科学者が二酸化炭素の排出量を大幅に減らさないとダメだと言っているのに、何も行動を変えずにそのままでい続けることの方が、ずっと極端だと思います。今から10年、20年後には、気候危機の真っ只中で飛行機に乗っていたことがとても信じられなくなると思います。

気候変動を説明する時に、人をあまり脅かさない方がいいと考えている人が多いようですが、私はそう思いません。子どもたちの将来がかかっています。自分の子どものことを思えば「自分とは直接関係ない」と目をそらすことはできないんじゃないでしょうか。

マヤ・ロセーンさん提供

ーーグレタ・トゥーンベリさんも国連で「若い世代は大人たちの裏切りに気づき始めています」と怒りのスピーチをしましたね。

今、アクションを起こしていない大人たちは皆、グレタさんを恐れていると思います。トランプ大統領が彼女を痛烈に批判していますが、想定の範囲内です。化石燃料が必要な生活をしている人ほど、温暖化に関する事実は受け入れがたいものです。

ただ、注目したいのは彼がグレタさんを個人攻撃している点。メッセージを批判できないからでしょう。彼女の主張は、全然物議をかもすような内容ではなく、単に科学者の意見を聞いてくださいと言っているだけなのです。このまま権力者がグレタさんを見下した行動を続ければ、逆に彼女の支持者を増やす結末になるのではないでしょうか。

一方で、私は環境問題を政治家に任せすぎてはいけないと感じています。地球規模の問題ともなれば、多くの人は政治家に任せようと思うでしょうし、そんなに深刻な問題なら政治家が何とかしてくれるに違いないと自分に言い聞かせているようなところもあるのでしょう。

私も昔はそうでした。ごく一般的な家庭に生まれて、自分が何か影響力のあることができるなんて思いませんでしたし。

でも今は違います。キャンペーンを通じて、自分一人のアクションが他人に影響を与えることができるとわかりました。

キャンペーン参加者が一部の環境意識が高い人たちだけではないことに私自身、驚いています。みんな環境に関心がない訳ではない。今までの生活に慣れていて、周りの人が行動パターンを変えない限り、動き出さないというだけです。

飛行機に乗るのがとても好きで、たくさん乗ってきて、そして今、1年間飛ばない、あるいは気候危機が解決するまでは乗らない、と決意している人がたくさんいます。そう考えると希望に満ちています。

ーー将来、この危機は食い止められるでしょうか?

人類には、ものすごい適応能力が備わっています。

今、アメリカの奴隷制度撤廃に関する本を読んでいるのですが、これを環境危機と照らし合わせて読むととても興味深いです。奴隷制度撤廃運動を立ち上げたのは、たったのは12人に過ぎなかったんだそうです。

機械化が進む前の時代で奴隷の力で社会が成り立っていたので、この制度をなくすのはとても難しいことだったと思いますが、今となっては奴隷制度が存在していたことを想像するのが逆に難しいくらいです。

私たちも化石燃料なしの社会を作れると思います。私たちには絶対にそういう力があると信じています。

飛行機に乗らないことで生じる損ばかりにフォーカスを当てるのは良くないと思います。得るものを見るべき。私たちの世代は、まだ温暖化を引き止めるチャンスがあるんです。まだ人類を救えるなんて、ワクワクする挑戦ではないでしょうか?

(取材・文:クリス・クランツ @kris_desu / 編集:南 麻理江:@scmariesc

*二酸化炭素換算とは?

温室効果ガスの代表的なものは、二酸化炭素ですが、それ以外にもメタンなども存在します。

「地球温暖化係数」とはある一定期間にそれぞれの温室効果ガスがおよぼす地球温暖化の影響について、CO2の影響を1としたときの係数を用いて計算した数値です。例えば、「メタンは、同じ質量の二酸化炭素の25倍の温暖化を引き起こす」と仮定した場合、メタン4トンは「二酸化炭素換算100トン」となる

【訂正】当初、「鉄道」「列車」と表記すべきところを、「電車」と記載している箇所がございました。訂正してお詫びいたします。(2019年11月19日16:00)

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