処理水とは何?汚染水と言わない理由は?危険じゃないの?福島第一原発【3分でわかる】

処理水とは何か。なぜ科学的な根拠に基づく報道が必要なのか。3分でわかる長さにまとめて、改めてご紹介したいと思います。
福島第一原発
福島第一原発
STR via Getty Images

東京電力福島第一原発では、8月24日から「処理水」の海洋放出が開始されました。

処理水に関する科学的な安全性は国際原子力機関(IAEA)も認めていますが、SNS上では危険や不安を煽る発信もいまだに多くあります。

処理水とは何か。そして、科学的根拠に基づく報道がなぜ重要なのか。3分でわかる長さにまとめて、改めてご紹介したいと思います。

処理水って何?トリチウムは残ってるの?

Q1、汚染水って何?処理水って何?

2011年に事故が起きた東京電力福島第一原発では、溶けて固まった核燃料を冷やすために水を入れているほか、地下水や雨水が原子炉建屋に流れ込むことで「汚染水」が発生しています。

それを多核種除去設備(ALPS・アルプス)などで処理し、トリチウムを除く62種類の放射性物質を安全基準を満たすまで除去した上、さらに海水で薄めて放出するのが「処理水」です。

処理水の海洋放出の安全性については、東京電力や日本政府だけではなく、IAEAも2023年7月、『人や環境に与える放射線の影響は無視できるほどである』とする包括報告書を公表しています。

Q2、トリチウムはなぜ残ってるの?処理水に放射性物質がまだ入っているなら「汚染水」と言うべきじゃないの?

トリチウムは、日本語で「三重水素」と呼ばれています。

水分子に含まれる形で存在するものが多く、大気中の水蒸気や雨水、海水、水道水にも含まれています。

つまり、トリチウム水は水と同じ性質を持っているため、除去することは技術的に難しいとされています。

一方、トリチウムが出す放射線のエネルギーは非常に小さく、紙1枚でさえぎることが可能です。

フランスや中国、韓国など世界中の原子力施設から海に放出されていますが、周辺からトリチウムが原因とされる影響は見つかっていません。

福島第一原発の処理水も、トリチウムが国の安全基準の40分の1、世界保健機関(WHO)飲料水基準の約7分の1(1リットルあたり1500ベクレル)未満まで薄められ、海洋放出されています。

安全基準を満たした上で、放出する総量も管理して処分されているので、環境や人体への影響は考えられません。

福島県いわき市の小名浜港
福島県いわき市の小名浜港
PHILIP FONG via Getty Images

「科学的根拠に基づいた報道が大切」

Q3、トリチウム以外にも放射性物質が残っているんじゃないの?

放射性物質は、存在そのものが問題なのではなく、人や環境に影響を与えない水準(規制基準以下)であることが重要です。

日本の原発などから環境中に放出される放射性物質の規制基準は、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に基づいて定められています。

複数の放射性物質の影響が考えられる場合、廃棄中に含まれる全ての放射性物質による影響を統合して「告示濃度比総和」という考え方が用いられ、この告示濃度比総和が「1」を下回るように規制が行われます。

2020年9月より東電が実施したALPSなどによる再浄化の性能試験では、トリチウム以外の各種の「告示濃度比総和」は0.35でした。

また、東京電力「ALPS処理水に関するサンプリング」を見てみると、9月21日に測定・確認用タンク水の排水前分析結果が発表されており、測定・評価対象核種(29種類)の告示濃度比総和は0.25で、規制基準の1未満と確認されたとあります。

なお、処理水を海洋放出した際の1年間の放射線影響は、0.000002〜0.00003ミリシーベルトと言われています。

日本人が宇宙などから受ける自然放射線は年平均2.1ミリシーベルトのため、約100万分の1〜約7万分の1の値になります。

飛行機や健康診断のCT検査などでも浴びることになりますが、東京ーニューヨーク間の飛行機移動(往復)は0.11〜0.16ミリシーベルト、CT検査は2.4〜12.9ミリシーベルトとされています。

Q4、安全でも処理水を放出することによって風評被害が生じるのでは?

処理水の海洋放出が始まって以降、福島県産の水産物の取引価格に影響はなく、風評被害と呼べるような現象は起きていないと言えます。

沿岸部のいわき市では「ふるさと納税」が好調で、放出日が決定した8月22日以降、通常の約7倍にのぼる寄付が応援メッセージと共にあったといいます(8月31日付の朝日新聞)。

処理水の海洋放出を受け、中国が日本産水産物の禁輸に踏み切ったため、ホタテなどに影響が出ていますが、国内ではホタテの積極的な消費を目的とするイベントも開かれています。

Q5、処理水は安全だとメディアが言うことは、原発事故の恐ろしさを軽視することにならないのでしょうか?

福島第一原発の事故後、「奇形児が生まれる」「がん患者が多発している」などと、科学的根拠に基づかずに危険を誇張する言説が広まりました。

人々は不安を掻き立てられたほか、それは福島に対する差別にもつながりました。

福島では、多数の震災関連死が発生しています。未来を悲観して自死した人もいます。

原発事故の被害を伝えることは重要です。

しかし、科学的根拠に基づかない、イメージで危険を煽る言説を広げることで起きる被害もあります。

私たちは、科学的根拠に基づいた報道が大切だと考えています。

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