グリーンランドとは? アメリカが購入検討、氷の大地が「緑の土地」と呼ばれた理由

米軍基地が置かれ、冷戦下でソ連を警戒する最前線に。豊富な地下資源で知られ、現在では中国も食指を伸ばしています。
グリーンランド周辺の世界地図
グリーンランド周辺の世界地図
fpdress via Getty Images

アメリカは、世界最大の島「グリーンランド」をデンマークから購入することを真剣に検討している。

トランプ大統領は8月18日、記者団に対して「アメリカにとって戦略的に興味深い」「大きな不動産取引になる」と述べ、グリーンランドの購入構想があることを認めた。しかし、デンマークのフレデリクセン首相は「ばかげている」と一蹴。トランプ大統領は「むかつく」と不快感を露わにして、9月に予定していたデンマーク訪問を延期する事態となった。

渦中のグリーンランドとは、どんな島なのか。調べてみた。

■グリーンランドがデンマーク領になるまで

グリーンランドの首都「ヌーク」の街並み
グリーンランドの首都「ヌーク」の街並み
KimKimsenphot via Getty Images

グリーンランドは、北アメリカ大陸の北東にある世界最大の島。面積は日本の6倍で、サウジアラビアやメキシコに匹敵する。小学校などで掲示されるメルカトル図法の世界地図では北極点に近いために拡大されて、オーストラリア大陸より大きく見えることで有名。実際にはその3分の1程度だ。

北極に近く寒冷なため、氷が全土の85%を覆っている。デンマーク王国の一部だが1979年に自治権が与えられ、独自の議会を持つようになった。

デンマーク大使館によると、グリーンランドの人口は約5万7000人。世界でもっとも人口密度の低い地域の一つだ。日本大百科全書によると人口の7割が、北欧系とイヌイットのミックスである「グリーンランダー」だ。

もともと狩猟民族のイヌイットが住んでいたが、10世紀にはアイスランドからヴァイキングが移住してきた。ヴァイキングたちは、13世紀にノルウェー王国支配下に入った。

ヴァイキングの定住地は気候の寒冷化などで15世紀にはなくなったが、18世紀にはノルウェー人の宣教師らが再入植した。これが現在の首都ヌークの始まりだ。

当時、ノルウェーはデンマークと同君連合を組んでいたが、1814年のキール条約でデンマークから分離し、スウェーデンと同君連合を組むことになった。ただし、グリーンランドに関してはデンマーク領とされ、今に続いている。

■温暖化が追い風に。資源採掘や航路開発が容易に

島のほとんどが氷に覆われたグリーンランドだが、気象温暖化が追い風となっている側面がある。

北極圏の氷が解けたことで、北極海航路という新たな物流ルートが生まれているほか、石炭や亜鉛、銅、鉄鋼といった豊富な天然資源が採掘しやすくなっているからだ。

グリーンランド自治政府の鉱物資源相エリック・イエンセンは「温暖化で氷河が後退して氷が薄くなったおかげで、鉱物資源の開発がしやすくなったのは確かだ」とGlobe+の取材に認めている。

■冷戦下の最前線。米軍基地があるが中国も食指

北米大陸から見たグリーンランドの位置
北米大陸から見たグリーンランドの位置
Encyclopaedia Britannica via Getty Images

また、グリーンランドは大西洋と北極海の間に位置するために戦略的にも重要だ。

日本大百科全書によると、第二次世界大戦中のドイツのグリーンランド侵入に対し、アメリカが進駐して反撃にあたり、各地に基地をつくった。

グリーンランドの購入計画はトランプ政権が初ではなく、大戦直後の1946年にも、当時のトルーマン大統領が1億ドルでの購入を提案したが、デンマークに断られている。

その後も米軍は、大戦後の1953年にグリーンランド北部のカナークに世界最北の米軍基地「チューレ空軍基地」を建設。当時のソビエト連邦から北米大陸を守る拠点とされ、ICBM(大陸間弾道ミサイル)が撃たれても、いち早く警戒できるように「弾道ミサイル早期警戒システム」のレーダーが設置された。冷戦下の最前線となったのだ。

このように米軍の強い影響下にあるグリーンランドだが、近年では中国も食指を伸ばしている。

ニューズウィークによると2016年には、グリーンランドにある古い基地を買収しようとしてデンマークに阻止された。デンマークの当局者はメディアに対し、阻止はアメリカの意を受けてのことだったと語っている。2018年にも中国企業がチューレ空軍基地の近くに空港を建設しようとして失敗したという。

グリーンランドのチューレ空軍基地
グリーンランドのチューレ空軍基地
Mario Tama via Getty Images

■寒冷地なのに「グリーンランド」と命名。その理由は?

「グリーンランド」という名前だが、10世紀のノルウェー人「赤毛のエイリーク」(別名:赤毛のエイリークル)が命名したと、アイスランドに伝承される中世文学「サガ」には書かれている。

それによるとエイリークは、ノルウェーで殺人を犯した後に、アイスランドに移り住んだが、ここでも事件をおこして追放された。西に向けて航海をしている最中に、グリーンランドを見つけて探検した。

エイリークはアイスランドに帰還後、グリーンランドへ植民する仲間を募った。25隻の船で出発し、14隻が辿りついた。「グリーンランド(緑の土地)」と命名したのは、緑豊かな土地をイメージさせることで、植民者を募りやすくするのが狙いだったという。

「サガ」では以下のように伝えている。

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<赤毛>のエイリークルのサガ

その夏、エイリークルは自分が発見し、グリーンランド(緑の土地)と命名した土地に入植するために出航した。それというのも彼が言うには、その土地の名前の響きがよければ、人を強く引きつけるだろうということからであった。(東海大学出版会『アイスランドのサガ 中篇集』)

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グリーンランド人のサガ

彼は自分が発見した国をグリーンランドと呼んだ。この国によい名がつけられたら、人々はきっとそこに行きたがるだろうと考えたからである。(東海大学出版会『サガ選集』)

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ただし、ナショナル・ジオグラフィックによるとエイリークが入植した当時のグリーンランド南部は現在よりもずっと暖かかったことが示唆されているという。当時は「グリーンランド」という名前も、全くのウソだったわけではないようだ。

グリーンランドの集落にある「赤毛のエイリーク」の像
グリーンランドの集落にある「赤毛のエイリーク」の像
Himagine via Getty Images

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