高校生3人が、神宮外苑の樹木伐採に反対の声をあげ続ける理由「私たちの未来を奪わないで」

これは私たちの未来のためにも本当に良くない計画――そう訴える3人の高校生。オンライン署名やSNSやビラ配りで見直しを求めています

「もう黙ってはいられない」

そんな思いを抱く3人の高校生が、約1000本の樹木が伐採される、明治神宮外苑の再開発見直しを訴えています。

3人は、東洋英和女学院高等部の楠本夏花さん、秋山舞耶さん、安藤舞花さん。

オンライン署名には、3月3日午前7時時点で3962人が賛同しています。

再開発計画で失われるもの

2月26日には3人で神宮外苑で再開発見直しを求めるビラを配ったところ、用意していた200枚が3〜4時間でなくなりました。

神宮外苑の再開発計画では、神宮球場と秩父宮ラグビー場を建て替えるほか、ホテルや、高さがそれぞれ185メートル、190メートルある高層ビルの建設が予定されています

主な事業者は「三井不動産」「伊藤忠商事」「明治神宮」「日本スポーツ振興センター(JSC)」で、東京都が計画の内容を審査します。

しかし、神宮外苑は1926(大正15)年に制定された風致地区(良好な景観を維持する場所)であり、条例で「既存樹木は極力残存させるもの」と定められています。

中央大研究開発機構の石川幹子教授は、再開発によって「日本を代表する文化的景観」が失われ「歴史・文化が破壊される」と計画を強く批判しています

都心に森のような空間を作っている神宮外苑
都心に森のような空間を作っている神宮外苑
HuffPost Japan

「これは黙って見ていられない」

再開発見直しを求めるオンライン署名を立ち上げたのは、楠本さんの叔母の楠本淳子さんです。

楠本夏花さんは叔母から再開発の問題を聞いて、「これは黙って見ていられない」と危機感を感じ、秋山さんと安藤さんを誘って署名活動を手伝い始めました。

神宮外苑では、オリンピックで新国立競技場を建てる時にすでに約1500本の樹木が伐採されています。

楠本さんは「それにも関わらず、今回また約1000本を伐採するといいます。東京にはすでに多くの高層ビルがあるのに、これ以上木の命を犠牲にして建設するのは、私たちの未来のためにも本当に良くないと思いました」と、活動にかける思いを語ります。

さらに、再開発の建設過程で多くの二酸化炭素が排出されるのを知り、行動しなければという気持ちがますます強まったといいます。

18歳の楠本さん、秋山さん、安藤さんにとって、温暖化などの気候変動は自身やその子どもの世代が、大きな影響を受ける深刻な問題です。

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2021年8月、今後数十年の間に、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を削減するための大胆な努力がなければ、気温が上昇して熱波や豪雨や干ばつなどが増えるとする報告書を発表しました。

さらに2022年2月の報告書では、「人類が引き起こした気候変動は、自然に対して危険で広範囲にわたる崩壊を及ぼし、世界中の何十億もの人々に影響を与える」と警告しています。

楠本さんは「私たちの未来は、温暖化で深刻な問題が起きるとすでにわかっています。その状況でこんなことをされるのは許せません」と訴えます。

イメージ画像。IPCCは温室効果ガス排出量を大幅に削減をしなければ、多くの地域で洪水や干ばつが深刻化すると指摘している
イメージ画像。IPCCは温室効果ガス排出量を大幅に削減をしなければ、多くの地域で洪水や干ばつが深刻化すると指摘している
by Marc Guitard via Getty Images

若い世代の行動で変わる社会

3人はビラ配りで、近隣に住んでいる人たちから「再開発に反対している」という声も聞くことができました。

同時に、再開発について全く知らない人もいて、改めて「この問題をもっと広めていかなければ」と感じたといいます。

楠本さん、秋山さん、安藤さんは、気候変動対策を求める世界的なムーブメントを起こした、グレタ・トゥーンベリさんと同じ世代。

トゥーンベリさんの活動は3人にも影響を与えており、秋山さんは「グレタさんのような私たちと同世代が声を上げるているのを見て、小さい声でも集まれば何かできるんじゃないかと思いました。私たちもやってみようかという思いから、今回動きました」と説明します。

若い世代として、国や知事に伝えたいこと

3人は集まった署名と要望書を、3月7日に東京都の小池百合子知事に提出する予定です。

楠本さんは知事に、「自然保護というのは、人間に都合のいい自然を作ることではなく、まずは現存する緑を守ることだと思います。言葉だけで『自然保護』とか『SDGs』とかいうのではなく、私たちの未来のことも考えて決めてほしいと伝えたい」と話します。

また、3人は計画の矛盾も感じています。

東京都は、再開発で神宮外苑を「人々が集い、スポーツに触れられるイベント等による交流などを通して、スポーツ振興の育成拠点の場を提供する」と説明していますが、今ある軟式野球場は再開発計画で解体されます。

楠本さんは「小池さんは誰もがスポーツに親しめる場所を作ると言っていましたが、軟式野球場を潰したら、プレーできなくなります。矛盾しているなと思います」と指摘します。

18歳の3人は、東京や国にどんな街づくりを望んでいるのでしょうか。

秋山さんは「未来のために今あるものを守ってほしい」と訴えます。

「今も、商業施設などをどんどん作ろうとする姿勢があるように思えます。でも、今ある資源や自然などをちゃんと守ってほしい。作ることにもメリットはあると思いますが、この先の未来のためには、守るべきものを守らないといけないと思います。作る姿勢より守る姿勢に重点を置いてほしい」

安藤さんは、未来に目を向け、市民の声に耳を傾ける政治のあり方が必要だと感じています。

「今のことばかり考えるのではなく、100年後など未来の美しさを考えるべきだと思います。必要な建設もあると思いますが、過度な伐採や明らかに必要ないと思えるものもある。それに反対の意見をしっかり聞いてほしいと思います」

楠本さんは「これからの社会は自然との共生が大事だ」と強調します。

「私たちのやるべき生き方は、自然との共生だと思います。東京の美しさは、高層ビルの立ち並ぶ景色ではなくて、都会のど真ん中の神宮外苑に、あれだけ大きな木がたくさんあるということ。近代性と自然との共生を守る生き方は、どこの国にとっても必要だと思います」

外苑前の再開発計画に対しては、他にもオンライン署名が立ち上がっており、5万人以上が反対しています。

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