【解説】ESGの専門家・夫馬賢治が語る「菅政権が2020年末に発表した“報告書”」の衝撃

2020年末に政府が発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」。ESGの専門家・夫馬賢治さんは、「読めば読むほど驚きの内容になっている」という。

「2050年までにカーボンニュートラルを実現する」

菅義偉首相の所信表明演説は、日本の経済界に驚きと衝撃を与えた。

その2カ月後、菅政権は2050年までにCO2排出量を実質ゼロにするため、各産業が取り組むべき目標を具体的に示した「グリーン成長戦略」を発表。エネルギーや自動車産業のみならず、金融やIT、食料や農林水産業など14もの分野で「高い目標」を提示した。

2050年カーボンニュートラル」はいまや菅政権の看板政策だ。

ESG投資の専門家・夫馬賢治(ふま・けんじ)さんは、「書かれている内容は、衝撃です。みなさん、ぜひ見てほしい」という。

一体、何が“衝撃”なのか?そして、この報告書の意義は?

衆院本会議で所信表明演説をする菅義偉首相。2020年10月26日午後。
衆院本会議で所信表明演説をする菅義偉首相。2020年10月26日午後。
時事通信社

報告書のインパクトとは?

経済産業省が関係省庁と連携して策定した「2020年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」。

夫馬さんは、まず報告された場所がポイントだという。

報告されたのは、政府の成長戦略会議。国の重要な経済政策について、具体的な方策を議論する場だ。

「成長戦略会議で報告されたということは、書かれている目標は絶対に達成しないといけないくらい、各省庁にとって非常に重要な政策になってきます。これから各省庁は、報告書にしたがって税制や具体的なルール決めなどを決めていくことになります」

解説する夫馬賢治さん
解説する夫馬賢治さん
HuffPost Japan

今の技術では達成できないくらい“高い目標”

2つめのポイントとしてあげたのは、政策の対象となる産業の多さ。

資料には「成長が期待される産業」として14の産業が書かれている。エネルギー産業だけではなく、農林水産業やIT、住宅、ライフスタイル関連など、幅広い産業が対象となっている。

「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」14の対象
「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」14の対象
HuffPost Japan

そして、衝撃的なのは、それぞれの産業で掲げられている「目標」だという。

例えば、住宅・建築物産業。

現在、すでに一部の住宅・建築物に導入されているZEH(Net Zero Energy House)やZEB(Net Zero Energy Building)の普及について、細かく目標が設定されている。

ZEH・ZEBとは、再生エネルギーの利用や省エネに配慮し、年間のエネルギー消費量の収支がゼロになるような仕組み。

成長戦略では、2030年までに新築する住宅や建物について、全体で使用するエネルギーの量と生み出す量をプラマイゼロにする(ZEH/ZEBを達成する)という目標が設定されている。

さらには、建物を建築・使用・解体するサイクルを通じてCO2削減に取り組み、再エネや省エネを組み合わせることでCO2排出量をマイナスにするカーボンマイナス住宅(LCCM)の推進まで言及している。

それだけではない。

現在、非住宅や中高層の建物のうち木造のものは1割に満たないが、今後は「木造建築物」の普及を進めると書かれている。

製造過程で大量のCO2を排出する鉄筋やコンクリートで作るよりも、木材で作った方がCO2の排出を抑えることができるためだ。樹木は、二酸化炭素を吸収し、伐採された後も内部に炭素を留めておける性質から「炭素の貯蔵庫」とも言われる。

一方、中高層の木造建築物を普及するには、新たな工法や技術、設計者の育成が必要になる。報告書には、2025年までに先導的な設計・施工技術の実証を行うと盛り込まれている。

本当にそんなことが可能なのだろうか?

「できない」とは言っていられない日本の現状

夫馬さんは「この報告書に書かれていることは、今の技術では達成できない目標も書かれている」という。

報告書は今後、夏に発表される「成長戦略実行計画」に向けて、アップデートされる予定となっている。担当者によると、内容は現在調整中とのことだが、昨年末にこの報告を政府が出したことが大きなインパクトであり、全産業が向かうべき方向が示されたと夫馬さんは語る。

だからこそ「できないとは言っていられない」日本の現状があるという。

「カーボンニュートラルが日本で話題となってきたのはここ2〜3年ですが、アメリカやヨーロッパでは10年以上前から続くトレンドです。インドや中国、ASEANでも、こういう話はでてきていて、どこの地域でも向き合わないといけない課題です。

『できない』と言っていては、本当に日本だけが取り残されて行くことになってしまいます。みなさんが思っている以上に、企業は大きな変化を迫られるようになりますし、変化に対応できない企業は持続していくのが難しくなっていきます」

まだまだ先に思える2050年。しかし、現状と目標を考えれば「待ったなし」の状態だ。企業で働く人たちにとっても、いずれは目の前の仕事として取り組むべき時がくる。

まずは、自分に仕事に関連している産業の目標をぜひチェックしてみてほしい。

<動画の解説者>

夫馬賢治(ふま・けんじ)

ニューラルCEO。ESG・サステナビリティ専門家。ハーバード修士。環境省や農林水産省等の有識者委員。

Sustainable Japan編集長。国際NGO理事。著書に『ESG思考』『データでわかる2030年地球のすがた』。

夫馬賢治さん
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