反中絶派の博士の講演を、医学生たちがボイコット。「私たちは団結して立ち向かう」

医師に向けて新たな一歩で学生たちが訴えたのは、中絶の権利擁護だった

アメリカ・ミシガン大学医学部で7月24日、白衣授与式に参加した学生たちが基調講演をボイコットして、中絶の権利擁護を訴えた。

白衣授与式とは、臨床実習の資格を得た医学部学生たちが、白衣を受け取る式典だ。

基調講演の話者は、この大学で准教授を務めるクリスティン・カリアー博士だった。これまで、キリスト教への信仰から中絶に反対する立場を表明してきた。

SNSには、カリアー氏の講演が始まった途端に、白衣を着た多くの学生たちが会場を去る様子が投稿された。

投稿したScorpiioさんは、約170人いた学生のうち、70人ほどが席を立ったとNPRに説明している。友人や家族なども加わり、会場にいた35〜40%が離席したという。

署名活動でも訴えていた

カリアー氏はミシガン大学医学部の卒業生で、教員として17年勤務している。大学は基調講演の紹介で、同氏を「教員そして医師として人気がある」と讃えている。

そのカリアー氏は、6月に掲載されたカトリック系ニュース「ピラー」のインタビューなどで、「キリスト教徒であり、中絶反対派だ」と、反中絶の立場を示してきた。

5月には中絶を「迫害」とツイートし、「すべての女性や女の子、中でも弱い立場の女性の権利のために闘うというフェミニズムの観点を大切にしています。(体の)自治という名の下に、出産前の妹たちに、中絶という暴力が向けられるのをただ嘆いていることはできない」と述べている。

一方、アメリカ最高裁が6月に、中絶を憲法が保障する権利と定めた「ロー対ウェイド」判決を覆した後、ミシガン大学は「必要とする患者に、中絶治療を提供する」という声明を発表。中絶の権利を擁護する姿勢を示した。

学生たちは、カリアー氏の言動はこの大学の立場に沿っていないと指摘。白衣授与式の登壇者変更を求める署名活動を立ち上げていた。

その中で、カリアー氏の発言について「中絶規制は、白人以外の女性や取り残された女性、トランスジェンダーの人々に偏って影響を与えるものであり、リプロダクティブジャスティス(性と生殖の公正)の信条の対極にある」と訴えた。

さらに「私たちは言論と信教の自由を支持しますが、中絶反対の人物が代表となることは、中絶に関するミシガン大学の立場に悪影響を及ぼし、医療にとって欠かせない中絶を規制する、非普遍的で神学に根ざした考え方を支持することになる」と問題視。

「これは、単なる個人の意見の相違ではありません。私たちはこの要求を通して、人権を奪い、医療を規制しようとする人々に団結して、立ち向かいます」と述べ、自らの方針に沿った人を選ぶよう大学側に求めた。

署名ページによると、学生や卒業生、医師など400人以上が賛同。しかし最終的に、講演者は変更されなかった。

この決定についてミシガン大学は、「白衣授与式は、議論を呼ぶ問題について話し合う場所ではありません。新しい学生たちを、医師という職業に迎え入れるためのものです。カリアー博士は、講演の中で争いを生じさせる発言をする予定はありませんでした。ミシガン大学は、個人的な信条に基づいて、講演依頼を取り消すことはありません」とニューズウィークなど複数のメディアにコメントしている。

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