新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
2020年04月27日 09時56分 JST

コロナ後の中国に生まれる「新しいシェアエコ」。日本企業の“中国撤退”に備え、400万人の雇用を救う

「他人のものに触りたくない」意識が高まった新型コロナ。シェアリングエコノミー がこの逆境を乗り切る工夫とは?

新型コロナウイルスの感染拡大で、電車のつり革やドアノブなどを触れるのも気になる...という方も多いだろう。

多くの人が「衛生」に気を使うことになった影響を、もろに受けている分野がある。使わない住宅や車などを人に貸し出す、シェアリングエコノミーだ。

シェア自転車、カーシェア、民泊などは、外出の自粛や衛生観念の強まりで大きな打撃を受けている。雨後の筍のようにシェアビジネスが勃興した中国では特に深刻だ。一方で、これまでにはなかった新しいシェアの概念が、コロナによって誕生しつつある。

■百花繚乱の中国シェアエコ

中国は、シェアリングエコノミーの種類が豊富だ。 街にはメーカーごとに違う色のシェア自転車がずらりと並び、自転車に貼り付けられたQRコードをスマホで読み込めば解錠され、すぐに乗れる。

配車アプリの「DiDi」などを使えば誰かの車に乗せてもらうことも可能だし、中国国内を旅行するときは「途家(トゥージア)」アプリなどで民泊を探すこともできる。

さらには、口紅やファンデーションなど一式が揃い、外出先で簡単に化粧直しができる「シェア化粧ボックス」なども話題になったし、街中にはスマホを充電できるバッテリーも設置されるようになった。

たきさん@ちゃいなブログさん提供
上海市に設置されたシェア化粧ボックスの「17Beauty」(2019年)

これらのサービスは新型コロナで外出制限が続く間、当然ながら利用は激減。制限が解除され、通勤などが再開されるにしたがって、だんだんと明暗分かれた実態が明らかになってきた。

まずはシェア自転車だ。

シェア自転車サービスを提供する「美団単車」の発表によると、全国的な外出制限が実施された1月や2月は例年と比べて大幅に減少。しかし3月末には一部の都市で利用が平年並みに戻るなど、早くも復活の兆しを見せている。

筆者撮影
中国の街に並んだシェア自転車(2019年・北京)

さらに、4月に入るとショッピングエリアや観光地などの利用も盛り返しているという。別のシェア自転車「ハローバイク」も新型コロナの影響を含めても100%の成長率を見込むなど強気だ。

シェア自転車は、中国ではもともと、地下鉄駅から職場や自宅などへ向かう時に使われることが多く、短い距離を手軽に移動できる社会インフラとして定着している。

通勤客が戻れば利用が戻るのは当然の流れで、コロナ禍を乗り切る公算は高い。

一方で苦しんでいるのは民泊だ。

旅行者に自宅などを宿として提供する民泊は、日本でも外国人観光客向けに参入する事業者が相次いだ。民泊は中国でも盛んで、旅行者と民泊のマッチングサイトとしては「途家」が有名だ。

その「途家」の統計によると、4月上旬にあった休暇シーズンの予約数は、前年の30%ほどに落ち込んだ。少ない客を取り込むため、宿泊代も大幅値下げを余儀なくされた。今年の宿泊代の平均は280民元(約4200円)と例年の8割程度だったといい、民泊事業者を圧迫している。

途家公式サイト
「途家」が紹介する民泊。値引きを示す物件も多い

中国では新型コロナで46万社以上が倒産したとされ、実際に失業率も跳ね上がった。この先、旅行需要が戻るかは不透明で、民泊にとって厳しい状況が続くのは必至だ。

■製造力をシェア

こうした状況のなか、専門家は「新たなシェアエコ」が広がる可能性があると指摘している。

中国経済が専門の対外経済貿易大学(北京)の西村友作教授は、シェアエコ業界の苦境について「自分の所有物を他人と共有しようと思う人が減るのは自然。一方、民泊やライドシェアのようなサービスは根強い需要はあるため、コロナ後に経済活動が正常化すれば復活するとみている」と語る。

そのうえで西村教授は、今後注目される分野として、工場が生産設備などをシェアする「製造のシェア(シェアリング・マニファクチャー)」をあげる。

「簡単に言えば、稼働率の低い工場の製造能力をシェアしようという試み」と西村教授。仕事が大量に舞い込んだ工場が、仕事がない別の工場に仕事を回せば、お互いが得をするという仕組みだ。

Getty Images
SUIXI, CHINA - APRIL 17 2020: People work in a factory of motorbike and scooter parts in Suixi county in central China's Anhui province Friday, April 17, 2020.

この取り組みはコロナ以前から中国政府が推進していた。2019年10月には「製造業の発展には欠かせない措置だ」とする文章を発表。国を挙げて広めていく意向を示していた。

新型コロナはこの流れを加速させそうだ。新型コロナの影響で、中国では工場の生産がストップしてしまい、その影響は日本の自動車やアパレル業界などを直撃した。

このため、日本政府は中国などに生産を頼っている業界について、国内回帰や東南アジアへの移転を後押しする方針で、企業に補助金を出すことにしている。どこまでの企業が応じるかは不明だが、日本からの注文を受けていた中国の工場が移転したり、仕事がなくなったりする可能性があるのだ。

西村教授は次のように解説する。

「今回の新型コロナにより、多くの製造業でサプライチェーンの分断が起こり生産停止に陥った。コロナ後においては、世界レベルでの製造拠点の分散が起こる可能性がある。その場合、中国国内における工場の稼働率が下がることが予想される。

その一方で、中国国内では『新型インフラ(※)』など新しい分野の投資が期待されている。このような新しい分野における需要増によっても製造のシェアが促進される可能性もある」

※新型インフラ・・・中国政府が推進する次世代のインフラ。5G基地局や半導体関連、AIやブロックチェーンなど幅広い。

生産設備や工場だけでなく「人材のシェア」も進みそうだ。

新型コロナの影響で、中国でも一時期、飲食店やホテル、映画館などで仕事がなくなってしまった。こうした事業者を対象にIT大手・アリババグループが提唱したのが「従業員シェア」だ。

余った従業員を期間限定でアリババが引き取り、コロナの影響で注文が増えたフードデリバリーなどの仕事に就かせる。

仕事がなくなった側からすれば、払えなくなった従業員の給料をアリババが肩代わりしてくれる。アリババからすると、仕事が急増したところにパッと新しい人出が手に入り、しかも新型コロナが収まり仕事が減れば元の企業に帰ってくれる。まさにウィンウィンだ。

この取り組みは他の企業にも広がり、中国政府の発表によると、新型コロナの感染拡大中でおよそ400万人が「従業員シェア」を活用したという。

西村教授はこの「人材のシェア」についても「今後従業員も含めた様々なシェアリングが実現する可能性はある」と、コロナ後も引き続き発展するとみている。

新型コロナは、これまで好調に続いてきたビジネスさえも飲み込み、変化についてこられないものを淘汰しようとしている。「シェアエコ」の前には、衛生観念が今後も壁として立ちはだかる。これからは一般の消費者とは関係のない、事業者同士のシェアに重点が置かれ、進化していくかもしれない。