はじめてのSDGS
2019年12月17日 13時10分 JST

リゾートホテルと農業?! 星野リゾートの新たなコンセプト「アグリツーリズモ」とは

「観光農業の収穫体験だけでは、いまの消費者の価値観に追いついていない」中瀬勝之・総支配人が思いを語った。

©️星野リゾート
62平米のデラックスメゾネットは、なんと「田んぼビュー」

星野リゾートは栃木・那須町にリゾートホテル「リゾナーレ那須」をオープンした。同ホテルは農業と観光を組み合わせた「アグリツーリズモリゾート」をコンセプトに掲げる。ラグジュアリーな宿泊施設でありながら土づくりや野菜の間引きなど、本格的な農業の工程をアクティビティとして提供し、宿泊客の自然や環境への関心や取り組みを促す。中瀬勝之・総支配人は「観光農業の収穫体験だけでは、いまの消費者の価値観に追いついていない」と時代を分析し、「一次産業が盛んな那須町の農家と、訪れる人をつなぐハブを目指す」と地域への思いを語る。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=沖本啓一)

リゾナーレ那須の温室「グリーンハウス」

栃木の一大リゾート地、那須高原が広がる那須岳の山麓、標高約500メートルまでJR那須塩原駅から車で40分。道中の車窓からは左右に豊かな田畑風景を望むことができる。水源の近い那珂川を渡り、勾配を登って一層「里山」の雰囲気が濃くなった森の中に、ふと瀟洒(しょうしゃ)な建物が目に入る。星野リゾートが11月にオープンしたリゾートホテル「リゾナーレ那須」のエントランスだ。

­­­「那須町は一次生産が盛んな町です」とリゾナーレ那須の中瀬勝之・総支配人は話す。総土地面積に対する耕地面積は全国で11.9%のところ那須町では14.9%。農家のうち、経営耕地面積30アール(3000平米)以上または農産物販売額50万円以上の「販売農家」が占める割合は全国で61.7%だが那須町では77.4%にのぼる。那須塩原駅からリゾナーレ那須に到着するまでに見る景色は、数字以上に土に触れることを生活の糧としてきた人の多さを感じさせる。

 

リゾナーレ那須が掲げるアグリツーリズモとは

Ⓒ星野リゾート
アクティビティ施設「POKO POKO」には託児機能も

「アグリツーリズモ」はイタリアで発祥した、農家が空いた部屋などを旅行客の宿泊場所として提供し農業を観光とする、日本の「農泊」に近いツーリズムだ。農泊とは違い、近年では高級ホテルのような施設やサービスを提供するケースも見られる。リゾナーレ那須は「日本で初めてアグリツーリズモリゾートをコンセプトにした宿泊施設」だという。

4万2000坪の天然の森の中に43室の客室が点在し、敷地内には那珂川支流の自然の小川が流れる。農園「アグリガーデン」では野菜が栽培され、滞在客は収穫期以外の時期にも「間引き」や「土づくり」といった工程でいつでも好きなときに農業を体験することができる。

 
Ⓒ星野リゾート
施設内と近隣農家で獲れた約30種の野菜を使用した前菜

農作業をレクチャーしてもらえる「ファーマーズレッスン」や「ハーブティづくり」などのほか、焚火での「焼き芋ミッション」で集めた落ち葉は農作業の温床や肥料に利用されるなど、施設全体で「自然」や「環境とのふれあい」を意識したプログラムを組む。「グリーンハウス」と名付けられた温室でも野菜、ハーブを栽培しているため、天候に関わらず体験が可能。ディナーやアクティビティ拠点「POKO POKO」で提供される、施設内や周辺の農家で獲れた旬の野菜をふんだんに使った料理も魅力的だ。

いまの価値観に沿う農業体験

豪華なリゾートホテルのブランディングと農業はどのように結びついたのか。「高級であれば良いわけでなく、自分らしい暮らしや環境への配慮、ライフスタイルの実現といった価値観を求める方が増えていることを実感していました」と中瀬総支配人は話す。リゾート観光の視点から農業にアプローチするアグリツーリズモリゾートというコンセプトは「那須町で提案する新しい旅のスタイルとして星野リゾートらしく、ぴったり」だったという。

アグリツーリズモリゾートを掲げ開業するにあたって、周辺の農家に指導を仰ぎながら、スタッフ総出で開墾し、種を植えて敷地内の畑をつくりあげた。その中で「収穫体験を提供するだけの観光農業では、いまの消費者の価値観に沿う農業体験に追いついていない」という思いが強まったと中瀬総支配人はいう。

Ⓒ星野リゾート
アグリガーデン

「種を植えるときには土に触れ、そこに虫がいる意味や、どうして野菜を間引くのかといったことまで農家さんに教わりました。それを少しかみ砕いて、お客様に興味を持っていただけるように伝えることは、これまで星野リゾートがしてきたことの延長でもあります。

収穫以外の工程にこそ、求められている価値観の表れがある気がしています。農業の価値、農作物の価値、農家さんの思いをきちんと宿泊客に伝え、地域の農家さんにも嬉しいと思ってもらえる施設をつくりあげたいと考えています」(中瀬総支配人)

環境の課題へ多角的なアプローチ

星野リゾートは2011年、軽井沢事業所(※)でホテル業界初のゼロ・エミッションを達成した。「星のや軽井沢」では自家水力発電と地熱利用設備の導入、温泉排熱利用設備の導入によってエネルギーの約7割を自給自足する。2019年には全施設でのホテルアメニティの詰め替え式への変更を進め、ペットボトルフリーへの挑戦を開始するなど、環境経営の施策を積極的に進めている。(※星のや軽井沢、軽井沢ホテルブレストンコート、星野温泉 トンボの湯、村民食堂、ピッキオの計5施設)

そうした中で「環境への思いを伝える」ことを掲げ開業したリゾナーレ那須だが、これまでの取り組みとは少しアプローチが違う。「環境への思いを表現する方法のひとつとして、那須町で、このスタートラインから、と考えたときには、本質的な農体験を通じてお客様に環境への関心を持って頂くという方法をとりたいと思いました」と中瀬総支配人は説明する。将来的には軽井沢事業所での取り組みをリゾナーレ那須に取り入れたり、那須町での取り組みが軽井沢事業所に反映されることも考えられるという。

「リゾートホテルにおいて、自然や環境が資源だと星野(星野リゾート 代表 星野佳路氏)も普段から話しています。多角的な切り口、アプローチのうちのひとつという位置付けです」(中瀬総支配人)

リゾナーレ那須の中瀬勝之総支配人

那須町でリゾナーレ那須が一次産業に関わることで、地域の農家の活性化を促すことも狙いのひとつだ。「星野リゾートを通じて周囲にたくさんいらっしゃる地域の農家さんの良いところをお客様に知ってもらうという、ハブの役割をすることで地域に貢献できるのではとも考えています」と中瀬総支配人は明かす。

収穫時期は農家の繁忙期だ。観光客のために時間を用意することが負担だという声は、地域の農家から多く聞くという。そこで農業に密接した取り組みをし、スタッフ自らが土に触れているリゾナーレ那須の強みを生かすことが考えられる。

今は敷地内での農業体験プログラムにとどまるが、「私たちが率先してお客様を農家さんへご案内し、例えば収穫できずに破棄されてしまう農作物を収穫、パッキングする工程までをアクティビティとして提供し、野菜を出荷できる状態にすることができれば、農家さんも嬉しいしお客様にも喜んでもらえる。そういった取り組みも考えられます」と今後の展開に意欲を見せる。

「星野リゾートは人が集まるところに宿泊施設を建てるという『宿泊業』のホテルとは一線を画しています。『観光業』を行い、その手段が宿泊だ、と思っています。地域の観光を盛り上げるということが私たちの使命だと、強く意識しています」(中瀬総支配人)

星野リゾートが環境課題や地域の課題解決につながる事業を行う原動力は、その矜持なのだろう。