シンガポールで新型コロナ感染者と接触があった私 これが彼らの迅速な対応だ

職場から感染者との接触の可能性があると電話を受けた後、1時間もしないうちに保健省からの電話。息切れがあると話すと、すぐに家に救急車が来て、検査のために感染症センターに送られた。
新型コロナ感染者に接触の可能性があると初めて知って2時間後には、家の前に救急車が来た。
新型コロナ感染者に接触の可能性があると初めて知って2時間後には、家の前に救急車が来た。
DOMINIQUE MOSBERGEN

【シンガポール】3月26日木曜日の午後4時。パートタイム・インストラクターとして働いているヨガスタジオから、私の携帯電話にメッセージが届いた。1週間前私のクラスを受けていた生徒が、新型コロナウイルスの検査で陽性の結果を受けたというのだ。「隔離される準備をしておくように」とスタジオの上司は私に話し、「あと、保健省から君にもうすぐ連絡がいくから」と加えた。

それは冗談ではなかった。1時間もしないうちに、新型コロナウイルス感染者の接触者追跡を行う保健省の職員から私の携帯電話に連絡があった。この2日間に息切れを感じていたことを話すと、すぐに家に救急車が来て、新型コロナウイルスの検査のために国立感染症センターに送られた。午後8時半までには、胸のX線検査を行い、鼻から検体を採取され、救急室の医師から短い診察が終わっていた。

医師は、X線検査では肺炎の症状は見られないと話した。私は、喘息があるものの、他の持病がなく他に新型コロナの症状もないため、ストレスによる喘息発作だったのではないかと思う、と話した。それでも医師は私に、家に帰って自己隔離し、検査結果を待つように指示した。

私は夜9時ごろ家に着いた。感染者に接触した可能性があると最初に知ってから、たった5時間後だ。36時間以内に携帯電話へのメッセージで検査結果が届いた。陰性だった。

私のこの体験は、シンガポールで感染者と接触した可能性がある人にとって珍しくないものだ。東南アジアにある小さな都市国家であるシンガポールの新型コロナウイルスの感染拡大防止策は、専門家からも高く評価されている。

世界中でもとても忙しい港や空港があり、人口密度が高く、新型コロナウイルスの感染拡大が最初に始まった中国との親密な関係にあるため、シンガポールは常に新型コロナのホットスポットになる高いリスクがあった。実際に、パンデミックの初期には、シンガポールは世界の中でも感染者数が多い国の1つだった。

しかし、ここでの感染拡大から3カ月たった今、シンガポールの感染者数は比較的低く保たれている。これは、早期に施された渡航制限や、厳格な接触追跡、大規模な検査や制限的な国境管理などの対策によるものだ。

4月7日から、シンガポールは、ヨーロッパやアメリカで見られるような厳重なロックダウン状態にある。当初は、規制を増やしソーシャルディスタンスを強化するなどの対策を毎週徐々に実施し、完全なる閉鎖に抵抗していた。

人口約600万人のシンガポールでの4月16日時点での感染者数は約4400人、死者は10人だ。

それを、母の出身地であるアメリカのワシントン州と比べてみよう。人口は約750万人おり、2月末にアメリカで初めての感染者を確認した。それは、シンガポールで初めての感染者が確認された約1カ月後だ。ワシントン州はその後、1万人以上の感染者と、500人以上の死者を記録している。そして、私がシンガポールに引っ越す前の10年を過ごし、私が「ホーム」と呼ぶニューヨーク州では、20万人以上の感染者と、1万1000人以上の死者が出ている。

シンガポールは、ロードアイランド州の約4分の1の大きさで、基本的に一党支配だ。その為、アメリカと同じように比較をするのは無理だ。しかし、トランプ大統領はアメリカの経済を再開したがっており、命をリスクにかけずにそれをどう実行するかは不確実で、医療システムも崩壊しており、専門家はシンガポールの組織的戦略が模範となる可能性を示唆している。

「シンガポールがやっている全てのことを、ロックダウン下にある国は実践するべき、もしくはロックダウン中に実行に移すべきです。そうすればその後安全になるからです」と、WHOのグローバル・アウトブレーク・アラート・アンド・レスポンス・ネットワーク議長のデール・フィッシャー氏はCNBCに語った。

ベンチにXマーク:シンガポールでソーシャルディスタンスをする人々
ベンチにXマーク:シンガポールでソーシャルディスタンスをする人々
SUHAIMI ABDULLAH/GETTY IMAGES

シンガポールの細部まで行き届いた接触追跡は、新型コロナとの戦いでの成功の鍵を握っていると言われている。100人以上からなる感染追跡者チームが、1日9時間、感染者と接触があった可能性のある私のような人たちに電話をかけている。接触した人でもし心配するような症状がある人は、すぐ検査に送られる。

これまでに、シンガポールでは7万2000件以上の検査が行われてきた。それは、100万人に対して約1万2800件の検査だ。アメリカでは今、だいたい100万人に対し、8600件ほどだ。

BBCの3月の報道によると、シンガポールの新型コロナ陽性者の40%が、接触追跡の努力によって発見されている。数週間前、ハーバード大学の疫学者はシンガポールの新型コロナ対策を「ほぼ完璧な発見をしている黄金水準」と形容した。

シンガポールでもし新型コロナで陽性となったら、すぐに入院し隔離される。そして、複数の検査で陰性と出るまで、病院もしくは専用の施設で隔離が続く。そしてこれらは全て、政府の資金でカバーされる。

もし私のように最初の検査で陰性と出ても、接触した可能性のある日から14日間は家で自己隔離していなければならない。14日間がこのウイルスの潜伏期間と推定されているからだ。海外から帰国するシンガポール人や在住者には、どの国から帰国したかに関係なく全員に隔離指示や自宅待機注意が出される。全ての短期ビジターは、数週間シンガポールへの入国禁止となっている。

保健省によると、これまでに6万5000件もの自宅待機注意と、2万8000件の隔離指示が出されている。(自宅待機注意の方が、法律上の面倒な問題が少ない)

米国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウシ所長は4月頭、さらに大規模な検査と更なる接触追跡の2つのアプローチが、アメリカの外出禁止令を次第に緩和させることに繋がるかもしれない、と提案した。

しかし、他国では新型コロナ対策による国民のプライバシーや自由の侵害が問題となる中、1960年の独立から常に一党支配であるシンガポールでは、家父長主義が批判されている。

隔離や自宅待機の指示に従わない場合は、重い罰則を受けることになる。ある男性は、自宅待機注意を破ったために、永住権を剥奪され、シンガポールへの入国を永久に禁止された。隔離指示を軽視し捕まった人たちは、最大1万シンガポールドル(約75万円)の罰金と、6カ月の禁固刑が課せられる可能性がある。

私の自己隔離中には、警察官がドアまで来て、もし部屋から出た場合に課せられうる法律的な問題について説明した。そして、ジップバックに入った2枚のマスクと体温計が渡された。それ以降、保健省から毎日3回の電話があった。それはいつも一方的なビデオ電話で、職員が私の周囲を見て、家にいるかを確認するものだった。そして彼らは私の体温や心配するような症状がないかを聞いた。控えめに言っても、押入られていると感じたし、こちらからは見ることもできない他人に、自分の私的な空間を見られるのは不愉快だった。

安全ディスタンス大使と呼ばれる人たちが通りを歩き回り、ソーシャルディスタンスやシンガポールのロックダウン下でのルールに従っているかを確認している。何週間にもわたり、ソーシャルディスタンス対策を強めてきたシンガポールで4月7日に始まったこのロックダウンは、「サーキット・ブレーカー(回路遮断)」と呼ばれている。

規則を破った人は誰もが即座に$300の罰金が課される。保健省は4月14日に、2日間で500人以上が罰されたと話した。

中国やイスラエル同様、シンガポールもセキュリティカメラやドローンなどの監視ツールを使い、感染の可能性のある人を追跡し、ソーシャルディスタンスを監視しており、一部では「警察国家」との批判もある。

3月に、CNNのファリード・ザカリア氏に家父長主義なコントロールへの批判に対しての反応を求められたリー・シェンロン首相は、政府は新型コロナウイルスに対して「特別なパワーを利用していない」と話した。

「重要なのは、人々が何に直面しているかを理解し、私たちが行っていること支持し、協力し、政府を信頼することです。私たちは、今何が起きているのかを説明する多大な努力をしています。国民に向けて話し、テレビに直接語りかけたメッセージも何度か行っています。それにより、国民は私たちが冷静に、率直に話しているということが分かるでしょう」

「私たちは透明性を持って対応しています。もし悪いニュースがあれば、伝えます。やらなくてはいけないことがあれば、それも伝えます。信頼を維持することは重要だと思っています。なぜなら、もし人々があなたを信頼していなければ、もし正しい対策をとっていても、実施するのがとても難しいからです」と続けた。

実際、一部の傍聴者は、この危機下におけるリー首相と政府の効果的なコミュニケーションを称賛している。2月に、シンガポールが新型コロナ感染の危険レベルを最高の赤の1つ下であるオレンジレベルに引き上げた際には、市民はスーパーで買いだめに走り、商品棚は空になった。

リー首相は即座に反応し、市民に向けて、国の新型コロナ対策を説明し、多くの食料があると安心させた。

「私たちには十分な物資があります。その為、インスタントヌードルや缶食品、トイレットペーパーを買いだめする必要はありません」

タイム誌によると、この演説はすぐに効果があったようで、スーパーは、客が普通の買い物習慣に戻ったと報告しているという。

「これは、リスク・コミュニケーションの中で、私が今まで見た中で最も素晴らしい実例の1つです」とシドニー大学の公衆衛生専門家、クレア・フッカー氏は話す。「信頼されるためには、オープンで正直で透明性がなければなりません。自分の能力を証明し、人々のことを実際に気にしていると示さなければなりません」

買いだめにより商品棚は空になったが、政府からの呼びかけで一部緩和された
買いだめにより商品棚は空になったが、政府からの呼びかけで一部緩和された
EDGAR SU/REUTERS

シンガポールは、新型コロナウイルスに対して多くの正しい対策をとってきたかもしれないが、困難を脱した訳ではない。

4月15日、シンガポールは447人という1日最多の感染者数を報告した。現在シンガポールは感染急増の真っ只中にある。

新たな感染ケースの多くは、寮に住む外国人労働者を含む。感染は、裕福なシンガポールのはずれの窮屈な寮に住む、多くの低賃金労働者の不平等な環境を露わにした。

しかし、健康分野の専門家たちは、アメリカや他の国がシンガポールの経験から学べることがあるという。

「シンガポールの方法はシンガポールのニーズに合うよう策定されました。しかし、シンガポールの経験から学ぼうとしている国々は、中核の指針を抽出し、それぞれのニーズに何が適合するかを決めると良いでしょう」とシンガポール国立大学でグローバルヘルストランスフォメーション・リーダーシップ学会のジェレミー・リム氏は話す。

トランプ大統領や、他のリーダーらも、リー首相の実用主義から学ぶことができるだろう。

シンガポールの新型コロナウイルス封じ込めの「成功」についてCNNに質問されたリー首相は、戦いはまだまだ終わっていない、と語った。

「多くの努力により感染ケース数を低く保ってきましたが、この戦いに勝ったという錯覚は全く持っていません」「私たちは続けていきます。そしてこの先長い戦いになるでしょう」

この発言の数日後、感染カーブが大幅に平坦化していたシンガポールの感染者数が、寮での感染ケースの増加により急増し始めた。

リー首相は、ワクチンが開発され素早く普及されないかぎり、新型コロナウイルスが世界的に収束するまでには、何カ月も、もしかしたら何年もかかるだろうと警告した。

「私はプロの疫学者や感染症の専門家ではありませんが、数カ月でこの問題が収束するとは思いません」

ハフポストUS版の記事を翻訳・編集しました。

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