「虹色ではなく、モノクロの世界」。LGBTQアライがたどり着いた『ファッションショー』とは【画像集】

ファッションショー『関西アライモ』は、「マジョリティが時に抱く、知らないからこその不安や怖さといった思いに寄り添うのは、自分だからこそできること」というアライの思いから生まれました。
関西アライモ
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関西アライモ実行委員会

セクシュアリティやジェンダーなど、多様性をテーマにしたファッションショー『関西アライモ』が2021年から毎年春に、大阪市内で開かれている。

実行委員長の山本超基(まさき)さんは、LGBTQ当事者に共感し支える「アライ」であり、普段はトランスジェンダーや体型に悩む人が着やすい下着を販売する『MAYA JAPAN』の代表を務める。「アライモ」という名前には、「アライをもっと(増やしたい)」という思いが込められている。

イベントについて「ファッションという身近な視点、『かわいい』や『かっこいい』というワクワク感から、多様性を感じ取ってもらいたい」と話す山本さん。多様な性の人が生きやすい社会を目指す理由、アライだからこそできると思うことについて話を聞いた。

◆少しの理解や支えで生きやすい社会に

『関西アライモ』で話す山本さん(中央)
『関西アライモ』で話す山本さん(中央)
関西アライモ実行委員会

多様性をテーマにしたファッションショーの企画にあたり、山本さんには原点となった2つの経験がある。

1つは、軽度の知的障害がある兄と一緒に過ごしてきたことだ。音楽が好きで、絶対に遅刻をしない真面目さを尊敬する、大切な家族。苦手なこともあるが、1つのことをずっとやり続けることが得意だといい、現在はグループホームのヘルパーや家族のサポートを受けながら、印刷工場で働いているという。山本さんは兄の姿を通し、「『障害』はその人自身というよりは、社会にあるのかもしれない」「普段自分たちがお互いにそうしているように、周囲にちょっとした気遣いや、理解し合いたいという思いがあれば、誰でも生きやすく過ごせるの社会になる」と感じてきた。

その思いは、自身が20代と30代の時にそれぞれ勤めていた会社で、2人のトランスジェンダーの同僚と出会った経験から、より強くなった。

そのうちの1人からは、両親がその人をトランスジェンダーであることを理解はしているものの、どう接して良いか分からない様子で、関係がうまくいっていなかったという話を聞いていた。また道を歩いているだけで差別的な言葉をかけられることもあったと聞き、胸が痛んだ。

山本さん自身も40代になるにつれて、会社などの人間関係などから生きにくさを感じ、軽い鬱病になった。より「分かりあう」ことについて考えるようになり、「残りの人生の中で、マイノリティの人の力になれることをし、自分自身も思うように生きよう」と決めた。

◆マジョリティ側にも全力で寄り添ってこそ

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Zorica Nastasic via Getty Images

そんな中、「『社会を変える』を仕事にする―社会起業家という生き方」(駒崎弘樹さん著、英治出版)という本に出会った。仕事を通して社会をよくするという考えに感銘を受け、自分もその道に進む決意をした。

具体的に何をしていくか考える中で大きかったのが、トランスジェンダーの元同僚らに聞いてきた、見た目で生きにくさを感じるという経験だった。

最初は体の一部を失った人が身体にとりつける人工ボディパーツ「エピテーゼ」などに関心を持ち、最終的にバストを小さく見せたり、体型によらず着やすかったりする下着を提供する会社『MAYA JAPAN』を立ち上げた。

その中で「当事者が何に悩んでいるのか、想像がつきにくい」と感じたという山本さんは、『Tsunagary Cafe』をはじめとする関西のLGBTQコミュニティに顔を出すようになった。

いろんな話がしたいなと思って参加したものの、最初は「傷つけたらどうしよう」「何を話したら良いんだろう」と感じ、黙ってしまう自分がいた。だが徐々に、何気ない話題などから楽しく話せるようになり、相手ではなく自分が壁を作ってしまったことに気づいた。

仲良くなった人たちとは、いろんな話をするようになった。その中で、トランスジェンダーの人にかけてもらった言葉が、今も心に残っている。

「アライの立場から、声を上げてほしいです」

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Daniel Lozano Gonzalez via Getty Images

電通ダイバーシティ・ラボがLGBTQ+に対する意識などを尋ねた調査「LGBTQ+調査2020」では、当事者に対する「批判アンチ層」は5.7%と少ないものの、「知識ある他人事層」が34.1%と1番多いという結果が出た。

山本さんはLGBTQ当事者に対し、最初は自身が壁を作ってしまった経験から、「当事者の思いを知りたいと思った時と同じ熱量で、無関心層や無理解層の視点を大切にすることで、もっと社会は変わっていくかもしれない」と感じた。

そして「マジョリティが時に抱く、知らないからこその不安や怖さといった思いに寄り添うのは、アライの自分だからこそできること」とも思った。

いろんなLGBTQ関連のイベントに参加し、いろんな笑顔を見て嬉しく思うという山本さん。一方、自分のように何かきっかけがないと、足を運ぶことはハードルが高い側面もあると感じた。そこで辿り着いたのが、「生きていく中で関係ない人はいない」と感じる、ファッションという視点だった。

◆6色の虹色ではなくモノクロに

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Roc Canals via Getty Images

2021年からファッションショー『関西アライモ』が始まった。今年は3月21日、大阪市の「グランフロント大阪」で開催した。

イベントの趣旨に共感し、協賛や後援をしてくれたのは、大阪市や京都市、上田安子服飾専門学校(大阪市)など18団体。断られることも少なくなかったが多くの協力を得られ、少しずつ社会は変わっていると希望を感じたという。

今年のテーマは、「ジェンダーレス」「ボーダレス」。山本さんは狙いについて、「社会には今も『男性は男性らしく』『女性は女性らしく』といった固定観念があると感じます。それをファッションを通じて、揺さぶりたいと考えました」と話す。

衣装は『TERUAKI TAKAHASHI』 『縁樹の糸』『LA GRANDE LUE』『TIM』の4つのブランドやショップの協力を受けた。

『関西アライモ2022』の特徴の1つとなったのが、服の色と形だ。LGBTQ関連のイベントは、多様な性を象徴する6色の虹色で彩られることが多いが、白や黒のモノクロ調の服を多く用意。形も性差がないもののほか、極端に肩の部分が尖ったものや左右が非対称など、形も特徴的な服を中心に据えた。

山本さんは「見る側がはっとし、普段の『当たり前』の価値観を崩して、ものの見方がフラットになるきっかけを作れればと考えました」と話す。

◆社会にも、輝ける場があるという希望を

当日ランウェイを歩いたのは、アライやLGBTQ当事者29人。約160人の観客が、レインボーフラッグを振ったり拍手を送ったりし、会場を沸かせた。

当日の様子を写真で紹介する。

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モデルとして参加した2人にも、話を聞いた。

男性でも女性でもないXジェンダーを自認する、関西のLGBTQユースの支援団体『プライドプロジェクト』(兵庫県西宮市)の代表、本多まささんは幼い頃から、自分は人前に出てはいけないという自己抑圧があった。いつか人前で、かっこいいと言われることをしてみたいという思いがあり、ファッションショーに参加した。

当日着た衣装の1つは真っ黒で男性性が強いものだと思っていたが、仕草や歩き方で、性表現や洋服の見え方が変わってくると感じた。改めて、性別にとらわれない服装の良さを実感した。また洋服の悩みなどから成人式には出られなかったからこそ、自身の節目の晴れ舞台だとも感じたという。

「LGBTQや性のあり方に関わらず、この社会でも輝ける場所があるんだよと、子どもたちに伝えられたら」

大阪府でダンサーや通訳として活動するShiho Amorさんは、アライとして参加した。

Shihoさんは田舎で出る杭は打たれるという空気感を感じて育ち、子どもの頃にはいじめを受けることもあった。だからこそ大学卒業後にサンフランシスコのゲイタウンに行き、人との違いを活かし、誰かを元気にする力に励まされたという。現在はニューヨークのLGBTQコミュニティで1960年代に生まれた「ボールルームカルチャー」のヴォーグダンスを広める活動をしており、多様な性をテーマにした『関西アライモ』に共感した。

当日は普段メインにしている「女性らしい」動きではなく、多様な性への思いが伝わるようなスタイルで参加したといい、「皆さんも私も、自分らしくランウェイを歩いている感じがして、すごく素敵な空間でした」と振り返る。

◆「差別は違う」という空気感を

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Siro Rodenas Cortes via Getty Images

イベント後のアンケートでは「最初はLGBTQの人が出るイベントだと聞いて、来ることを決めました。ですが服がどれも個性的で、当事者か非当事者かどうかということは意識せずに見ている自分がいました」「モデルの皆さんがすごく堂々としていてかっこよかったです」といったコメントが寄せられ、嬉しく思ったという山本さん。

今年はモデルが歩く順番への工夫などに手応えを感じつつ、もっと良くできたと思うところもあるといい、これからもメッセージがより伝わる方法を模索する予定だ。

「社会を変えるには、現状の温度感にも向き合う必要があるのかなと感じています。無関心や未知への怖さといった思いも感じ取りつつ、どうした方法でなら変えていけるのか、アライの視点も生かしながら模索して、ファッションショーを続けたい。差別ってカッコ悪いねとか、違うよねといった空気感を作っていけたなら、それはとても嬉しいことです」

<取材・文=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版>

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