政治資金パーティーとは何か?その実態とは。「裏金」「キックバック」のからくり【解説】

岸田政権の中枢に多くの政治家を送り出している自民党安倍派の政治資金パーティーをめぐる問題が、日本の政治を揺るがしつつある。パーティー券収入を隠して裏金化し、議員らにキックバックしていたという疑惑が浮上した。その実態はどのようなものなのか。問題を告発した有識者と一緒に紐解いた。
2023年5月に東京プリンスホテルで開かれた自民党安倍派の政治資金パーティー
2023年5月に東京プリンスホテルで開かれた自民党安倍派の政治資金パーティー
時事通信社

自民党の最大派閥、清和政策研究会(安倍派)が政治資金パーティー収入の一部を裏金化していたとみられる問題が、日本を揺るがしている。岸田政権の中枢を占める安倍派幹部は軒並み関与を疑われている。臨時国会が12月13日に閉会して捜査当局の動きが本格化すれば、政権にとって大打撃となることは想像に難くない。

それにしても、「裏金」「キックバック」「ノルマ」といった、いかにも疑わしい言葉が飛び交う「パーティー」とは、いったいどういうものなのか。パーティー券はどのように売られ、裏金作りはどのように行われるのか。この問題を告発し、捜査の火付け役となった「政治資金オンブズマン」代表の上脇博之・神戸学院大学教授といっしょに考えた。

「参加者を楽しませる気はない」

「パーティーと聞けば、どこかウキウキしてしまうような楽しい催しを想像するでしょう。でも、政治資金パーティーはまったく違います」。上脇教授は解説する。「政治家が資金を調達するために、高額の券を売りさばくのが政治資金パーティーです。参加者を楽しませる気はないし、会場に来てくれなくてもいい。お金を払ってくれればいいんです」

筆者自身、その類いのパーティーをいくどか取材したことがある。自民党が隆盛を誇った2000年代初頭の小泉政権下、国会周辺の有名ホテルはどこでも、夜な夜な議員のパーティーが開かれていた。

政権幹部は夕方以降のスケジュールもびっしり埋まっていて、黒塗りの車で会場を回る。来賓として壇上に立ち、短いスピーチをして列席者からやんやの拍手を浴びる。ほどなくして立食形式の会食に移ると、これといった余興もなく30分ほどでお開きとなる。

最後に会場出口でびょうぶの前にならんだ政治家と握手をするのが、参加者にとってはごく限られた接点となるのが通例だった。参加者が口にできる食べ物はほんのわずか。コロナ禍に入ると、その食事すら出ない会合が増えたと言われる。

23年5月に東京プリンスホテルで開かれた安倍派のパーティーの模様は、テレビや新聞で繰り返し報道されている。キャパシティーは立食形式で2000人ほどとされる会場「鳳凰(ほうおう)の間」がすし詰め状態となった。

パーティーの収支は政治資金収支報告書に記載するのが法律(政治資金規正法)の決まりで、一般に公開される。直近の11月に公表された22年の安倍派の報告書をみると、パーティー収入は9480万円、開催経費は2591万円だった。差し引きすると実に収入の7割超、約6888万円が利益になっていた計算だ。券の値段は1枚2万円が相場と言われる。収入を割り算すると4740枚分で、会場のキャパの2.5倍もの枚数を売りさばいた計算になる。

この券はだれが買うのか。報告書には20万円超の支払いを受けた場合は名前を記すことになっており、22年には企業と政治団体を合わせて59件分の記載があった。中には150万円を支払った企業がある。業界の政治団体では、たとえば日本歯科医師連盟が150万円を支払っていた。その総額は何度も手書きで訂正されていて、最後は1178万円となっていた。

だが、名前が出ているのは収入全体のごく一部で、大半はだれが出したのか分からない。それでもこの報告書記載のルールが裏金化の闇に迫る第一歩になった。

パーティー券は、政治団体が買った場合は自らの報告書に記載して公表する。この、買った側の支出には書かれているのに、安倍派側の収入には書かれていないやりとりが多数あることを、昨年11月に「しんぶん赤旗」が報じた。

上脇教授はこの報道を受け、可能な限り自分で報告書を突き合わせた。その結果、安倍派の場合は2018年から22年までの5年間で総額3290万円もの「不記載」が確認された。

安倍派だけではない。自民党の5つの主要派閥の報告書のすべてで同様の不記載が確認され、総額は5年間で5880万円にも上ったという。上脇教授は1年間かけてこれらを洗い出し、東京地検に告発したのだった。

その後、各派閥は報告書の記載内容を相次いで訂正した。しかし「訂正すればいいというものではない。これほどの件数、金額を記載していなかったというのは単純ミスではない。わざとやっていたとしか考えられない」と上脇教授は指摘する。

パーティー券を購入したのが政治団体ではなく、一般企業であれば、派閥側が報告書に記載しなければ表に出ることはない。このため上脇教授は、今回明らかになった不記載はあくまで「氷山の一角」であり、不記載の目的は「裏金づくり」だったのではないかと告発状で指摘。地検には、動機の解明も含めて徹底捜査することを求めた。

マスコミ各社の報道によれば、捜査の手は告発のはるか先まで届きつつあるようだ。パーティー券収入を報告書に記載しなかっただけでなく、所属議員がそれぞれの「ノルマ」を超えて集めた分は、収入からも支出からも隠して議員らに「キックバック」(還流)していた疑いが浮上している。議員側の団体の報告書にもそのやりとりは記載されていないから、事実だとすれば「裏金」以外の何物でもないということになる。安倍派の場合、その総額は5億円に上るという報道までされているのが現状だ。

「今回はだれでも確認できる報告書の不記載があったから、東京地検も告発状を受け取ったのだと思います。でも、そこから先の本当に隠されていたお金の証拠を見つけることは一般国民にはできない。捜査がどこまで届くのか、今はしっかり見守りたいと思います」と上脇教授は話す。

自民党主要派閥の政治資金パーティー問題に火をつけた上脇博之・神戸学院大教授
自民党主要派閥の政治資金パーティー問題に火をつけた上脇博之・神戸学院大教授
本人提供

注目記事