「まだいない赤ちゃんのために迷惑かけすぎ、と注意受けた」不妊治療と仕事の両立「困難」の4割が退職【調査結果】

仕事と不妊治療の両立が難しく、退職せざるを得ない人も多い。職場や社会に求めることとは。

「まだいない赤ちゃんのために周りに迷惑をかけすぎ、と注意を受けた」
「最初は理解を示してもらえても、長期間になると難しい」

不妊や不育で悩む人をサポートするNPO法人Fineが1月24日、「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート2023」の結果を公表した。

アンケートには1067人が回答。不妊治療は2022年4月から健康保険の適用が拡大し、人工授精などの「一般不妊治療」や、体外受精などの「生殖補助医療」も適用となった。

医療費の負担は一定数減ったが、仕事をしながら不妊治療をするには、まだまだ困難が多そうだ。

あなたは仕事と不妊や不育症治療との両立が困難で、働き方をどのように変えましたか?
あなたは仕事と不妊や不育症治療との両立が困難で、働き方をどのように変えましたか?
NPO法人Fine(ファイン)提供

アンケートによると、仕事と不妊・不育症治療との両立が困難で働き方を変えたことがある人(387人)のうち、「退職」をした人は39%で最多だった。

就業形態別に「退職」を選択した人の割合を見てみると、「個人業務請負」が80%で最も多く、次いで「派遣社員」(60%)、「パート・アルバイト」(46%)という結果に。治療歴が長いほど、働き方を変えた人が多い傾向にあるという。

働き方を変えざるを得なかった時のことについて、「まだいない赤ちゃんのために周りに迷惑をかけすぎ、と注意を受けた」「最初は理解を示してもらえても、長期間になると難しい」などの声も寄せられた。

職場に求めることは?

職場の不妊・不育症治療サポート制度の有無と、退職するかどうかには関わりがあるようだ。

仕事と不妊・不育治療の両立が困難で退職した人のうち、職場に不妊・不育症治療のサポート制度がなかったと回答した人は86%。一方、サポート制度がある職場では、「異動」や「休職」を選択した人がそれぞれ34%で、「退職」(7%)や「転職」(11%)を上回った。

不妊・不育治療のサポートをする制度として職場に求めることは、「休暇・休業制度(不妊や不育症治療が病欠・休職、有給扱いにされるなど)」が77%で最も多く、次いで時短やフレックスタイム、正規からパートタイムなど雇用形態を一時的に変更できる「就業時間制度」(72%)や「不妊や不育症治療費に対する融資・補助」(52%)が挙げられた。

あなたの職場に、不妊や不育症治療をサポートする制度が「欲しい」と答えた人におたずねします。どのようなサポートが欲しいと思いますか?
あなたの職場に、不妊や不育症治療をサポートする制度が「欲しい」と答えた人におたずねします。どのようなサポートが欲しいと思いますか?
NPO法人Fine提供

国や社会に求めることは?

アンケートには、国や社会に求めることについても声が集まった。

「もっと不妊治療への理解を広げてほしい。就活をしているが、不妊治療のことを話すとほぼ門前払い。治療以外の時間は全くの健康体なのに、不妊治療をしているというだけで評価が下がることが非常に悔しいし、不条理だと感じる」(35~39歳女性・埼玉県・正社員、正職員(総合職)・教育、学習支援業)

「生理のこと、妊娠の仕組みや適齢期などもう少し具体的に学校教育の段階から男女ともに共通認識として持てるような教育が必要と感じる。女性はなんとなく年齢を意識したり、生理痛や体調の変化で嫌でも身体と向き合うことが多いが、夫をはじめ男性はそのような意識を持つ機会が乏しいのか、知識の段階で差がありすぎて妊活を始めるにも一苦労だった」(30~34歳女性・愛知県・正社員(休職中)・卸売業、小売業)

調査を行った「Fine」ファウンダー・理事の松本亜樹子さんは、「働き方を変えた人のうち退職を選択した人は39%でした。前回調査では50%で、前々回調査では57%であったことから少しずつ減ってきており、これは当事者にとって喜ばしい傾向であると言えます」とコメントした。

「しかしながら、治療期間が長くなるにつれて、両立が難しくなり働き方を変える人が増える傾向にあり、こちらは変わらず残念なことです」(松本さん)

また、不妊・不育治療のサポート制度がある職場は、前回の調査と比べて、6%から20%に大きく伸びたという。しかし、制度を利用した、もしくは利用しようと思う人の割合はほぼ変わっておらず、「せっかく制度があるのに使われていないのは勿体ないことであり、もしもそれが退職などにつながるようなら、企業として大きな損失につながりかねません」と指摘した。

「制度の充実を図るとともに、すでに制度がある企業においても、当事者が制度を利用しやすくするための周知の徹底や職場の風土醸成等も、引き続いての課題と言えるでしょう」(松本さん)

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