火事に遭遇した時、ハンカチは濡らした方がいい?煙から身を守る方法

冬だけでなく春も乾燥と強風で火災が発生しやすい季節。注意を怠ってはいけません。煙から身を守る方法をご紹介します
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2022年の月別火災件数の平均値を見ると、一番多いのは12月で、さらに1月・3月と続きます。「火事は空気が乾燥する冬に多い」と思いがちですが、実は春である3月にも多く発生しているのです。

乾燥は火事を発生させる条件の1つで、3月はそれに強風が加わります。春先は乾いた移動性高気圧の後に日本海側を低気圧が進むことで強い南風が吹きやすく、これが火事を発生させる条件になっているのです。

3月になっても、火事への注意を怠ってはいけません。そこで今回は、火事による煙から身を守る方法を紹介しましょう。

煙の怖さ、知っていますか?

火事で命を落とす二大原因は、「一酸化炭素中毒」と「火傷(やけど)」です。2022年の「建物火災の死因別死者発生状況」を見ると、「一酸化炭素中毒・窒息」が全体の37.4%と最も多い割合を占め、「火傷」(34.9%)と続きます。

火事の怖さの一つは、煙に巻かれることです。火事で発生した煙の危険性を、東京消防庁は4つ指摘しています。

▼一酸化炭素等による中毒
▼酸素不足による呼吸困難
▼熱せられた煙を吸い込むことによる呼吸困難
▼恐怖心による精神的なパニック

火事で発生する煙には、有毒な一酸化炭素が含まれています。空気中に0.5~1.0%の一酸化炭素が含まれていると、1~2分で刺激に対する反応が低下し、呼吸ができなくなり、死亡します。

これは、一酸化炭素中毒が起こるからです。0.16~0.3%でも、1~1.5時間で呼吸が弱くなり、心臓の働きが弱まり、血圧が低下し、時に死亡します。
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煙の水平方向へのスピードは、大人が普段歩く速さより少し速いくらい(毎秒0.5~1m)です。しかし縦方向へは、毎秒3~5mの速さでのぼっていきます。

大人が歩く速さの3~4倍も速いので、階段を上って避難しようとすると、たちまち煙に追いつかれてしまいます。早めの避難がどれほど大切か、心得ておくことが必要です。

避難時の正しい姿勢は? ハンカチは濡らした方が良い?

万一火事に遭遇した場合は、とにかく煙を吸わないようにしなければなりません。そのためには、避難時の姿勢が大切です。

火事の煙は天井から溜まっていくので、床に近いところは意外と見通しがききます。煙を吸い込まないようにハンカチやタオルで口と鼻を覆い、低い姿勢で煙の下を逃げましょう。これは階段でも同じです。

消防庁の消防研究センターでは、ハンカチ(平織地・木綿)・おしぼり(タオル地・木綿/ここでは以降「タオル」と表記します)を、乾燥と濡らした場合で、除煙および温度低減効果について検証を行っています。

火事で避難する際、「煙の中では濡れタオルなどで口や鼻を押さえ、煙を直接吸わないようにすること」が一般的に推奨されているので、これを検証したのです。

その結果、次のことがわかりました。

▼ハンカチよりタオルの方が除煙効果は高い。
▼ハンカチやタオルを濡らした場合、呼気の温度を下げる効果は高いが、煙で目詰まりして息苦しさを感じたり、水分で繊維が収縮し、逆に煙除去率が下がったりする。
▼煙粒子の大きな黒煙に対する煙除去効果は高くなるが、通気抵抗が短時間に増大し息苦しくなる危険性がある(特にハンカチでその傾向が強い)。

濡らすと息を吸ったときに温度が下がるメリットがありますが、目詰まりして息苦しくなるデメリットもあります。息苦しくなると一瞬だけハンカチやタオルを外して呼吸したくなりますが、その一瞬が命取りになるのです。避難時は濡らす手間をかけるより、早く逃げることを優先してください。

3月になりましたが、火事の多発する季節が続きます。万一火事に遭遇したら、乾いたタオルで口と鼻を覆い、姿勢を低くして床に近いところを、息は止めずに浅めの呼吸をしながら、素早く避難しましょう。
(参考資料)
総務省消防庁「令和5年版 消防白書」、東京消防庁「消防少年団 指導者ハンドブック」、同「やってみよう!防災訓練~避難のしかた~」、消防庁消防大学校消防研究センター「ハンカチ・おしぼりの除煙および温度低減効果について」

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