「ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」
アウトドアブランド「Patagonia(パタゴニア)」の店舗の壁に掲げられている、一文だ。
パタゴニアは「故郷である地球を救うためにビジネスを営む」をミッションステートメントに、店舗がある世界各地で、製品の製造過程から気候変動や環境問題をめぐる発信まで、あらゆる側面からの対策に力を入れている。
日本でも店舗を拠点に活動を広げる中で、今回、気候変動に関する市民の会話やアクションをさらに活発化させたいと、3、4月にかけ、東京、名古屋、大阪、広島、福岡の5都市の店舗でトークイベントを開催。
「若者気候訴訟」の原告や気候変動をめぐる活動をする市民たちが登壇した。
登壇者たち、そしてパタゴニアが投げかけたメッセージとは。イベントを取材した。

「気候変動対策を訴える若者たちの行動を支持しています」パタゴニアの明確なメッセージ
5回のイベントには、開催都市の周辺などで暮らす「若者気候訴訟」の原告が参加。訴訟に至った背景や思い、危機感などをそれぞれの言葉で語った。
若者気候訴訟(「明日を生きるための若者気候訴訟」)とは、2024年8月、全国から集まった14〜29歳の原告が、日本のCO2排出量の約3割を占める主要電力会社10社を相手取り、名古屋地裁で起こした民事訴訟。
原告は電力会社10社に対し、温室効果ガスの排出を削減するよう法的な義務づけを行うこと、それに沿うように排出削減を行うことを求めている。
パタゴニアは今回、原告の若者たちや、気候変動をめぐる活動をする人たちと市民が集うイベントを開くことで、気候変動の解決に向けたアクションに関する「会話の輪」を広げることを狙いとした。
トークイベントの開催背景については「故郷である地球を救うためにビジネスを営むパタゴニアにとって、彼らの声は健全な環境のもと自分らしく暮らしたいと願う私たち皆の声」とし、その声や思いを広げる「場」としてイベントを開いた。
(若者気候訴訟の原告たち)
東京でのトークイベントは、パタゴニア東京・大崎ゲートシティ店で行われた。
店舗に入ってまず目に入ったのは、「ACTIVISM」と書かれたボードに貼られた、若者気候訴訟の説明と原告たちの写真。
ボードは、商品が陳列されているラックのすぐ隣に設置されており、買い物客が店舗に立ち寄った際にも気軽に見られるようになっている。
パネルには訴訟の説明と共に「パタゴニア日本支社は、気候変動対策を訴える若者たちの行動を支持しています」との太字のメッセージも添えられた。
階段の壁には、「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」とのミッションステートメントに加え、環境に配慮した責任ある原料を使用することや、売り上げの1%を世界各地の環境保護団体に寄付することなどについての説明がある。

「これから生まれてくる子どもたちの世代の人権を守るために」
店舗内でのメッセージでも、気候変動やアクションを起こす若者を支持するという明確な姿勢を示しているパタゴニアだが、今回、日本各地でトークイベントを行った理由にも、その思いが込められていた。
イベント冒頭では、パタゴニアスタッフは「日本でも、日常生活やビジネスにも気候変動の影響が出ています」とした上で、以下のように呼びかけた。
「気候変動の対策は、我慢や個人の努力のレベルで語られがちですが、トークイベントでは、社会の仕組みを変えるアクションを取っている人たちに登壇していただきます。イベントが、気候変動を解決できるようなアクションを見つけられるきっかけになれば」

この日、登壇した原告の1人で大学1年生の山本大貴さんは「気候変動の問題は根本的には人権や命、健康の問題」とし、訴訟の背景についてこう説明した。
「日本では裁判自体が非常に遠い存在で、傍聴に行く機会すらほとんどないと思います。でも今世界では、気候訴訟が広がっていて、日本でも人権について問うために訴訟を起こしました。
気候変動はすでに多くの被害を生み出していますが、これから先は誰も経験したことのない危機的な状況になっていきます。これから生まれてくる子どもたちの世代の人権を守るためにも、気候変動対策や脱炭素を早急に進めないといけないと訴えています」
同じく原告で、大学2年生の二本木葦智さんは「裁判を通して被害を訴え、企業や政治を動かし、社会を変えていきたいと思っています」とし、こう呼びかけた。
「一人一人の声とともに訴訟がなければならないと思っています。原告団17人だけでなく、皆さんと一緒に訴訟をやっていきたい」
畑や雪山で肌で感じる気温上昇の影響と危機感
イベントでは、雪山や畑で気候変動による気温上昇の影響を肌で感じている人たちも登壇。自身の経験や、それに対し起こしているアクションについて話した。
埼玉県ときがわ町で農業を営む橋本拓さんは、畑で気温上昇の大きな影響を感じ、農家に大きな打撃を与えていると話した。
「夏場の外での農作業は暑さがすごくきついのですが、ここ2年ほどは夏だけでなく春や秋も非常に暑くなっています。気温上昇の影響で、種を蒔いても発芽しなかったり、枯れたり、虫に食べられたりする被害も増えている。私が感じているだけでなく、近隣の農家さんも同じように極端な気温の影響を感じると話しています」
極端な気温や天候は、野菜の栽培に打撃を与え、値段の高騰にもつながっている。
気候変動から「冬を守る」活動をする、スキーヤーやスノーボーダーの団体、一般社団法人「Protect Our Winters Japan(POW)」代表理事でプロスノーボーダーの小松吾郎さんは、日々、雪山で感じる気候変動の影響を説明した。
「私たちスノーボーダーやスキーヤーが、雪山で目の前で見ている『変化』は、実は都会の人たちにはあまり知られていない。本当に雪は今こんなに減っていると伝えたい。
温室効果ガスの削減には、個々人の努力だけでは全く足りず、社会の仕組みを変えていく必要があります。火力発電に頼っている状況を変えないといけない」
若者気候訴訟の原告たちの話も踏まえ、「行動している若者たちをサポートしたい。そして私たちも、今すぐ行動しないといけないですよね」と呼びかけた。
(取材・文=冨田すみれ子)
