パタゴニアの企業理念が「地球を救うためにビジネスを営む」に変更。その深いワケとは?

アウトドアウェアだけの会社だと思ってない?実は食品業界に参入してビールの生産もしているんです。
パタゴニア創業者、イヴォン・シュイナード氏
パタゴニア創業者、イヴォン・シュイナード氏

環境保全に力を入れるグリーンビジネスの先駆者、米アウトドアウェア・ブランドの「パタゴニア」。今でこそ、リサイクル材で商品を作っている企業も増えたが、同社は1990年代初期からすでにリサイクル素材を製造しており、ゴミをフリースに変身させた最初のアウトドアウェア会社だ。

そして2018年、彼らは更なる一歩を踏み出した。

企業理念を一新

日本上陸30周年を迎えたパタゴニア。それとほぼ同じタイミングで、グローバル企業としてのミッション・ステートメント(企業理念)も一新された。ちなみに今までの理念は、「最高の商品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」と、すでに環境危機への対策を謳っている。

そして、2018f年に新たに掲げられたのが、こちらだ。

「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」

もはや、これだけでは何の企業か分からない。あまりに漠然としており、解りにくい一方、「地球を救うため」と強い使命感を感じる。

このタイミングで企業理念を一新した背景には何があるのだろうか? その為にどんな取り組みをしているのだろうか?日本支社のオフィスで、同社環境・社会部門ディレクター佐藤潤一氏に話を聞いた。

パタゴニア日本支社 環境・社会部門ディレクター佐藤潤一氏
パタゴニア日本支社 環境・社会部門ディレクター佐藤潤一氏

「よく読んでいただくと分かるかと思いますが、以前の理念には『How』、どうやって私たちが環境危機への対策を実行していくのかが書かれていました。新しい理念には『Why』、その理由だけが書かれています。それは、これからはその『How』、手段はスタッフ自身に考えてもらいたいからなんです」


会社によっては、環境の事を考えるのはCSR部門など一部のスタッフに限るかもしれない。しかし同社では、経理であろうが営業であろうが、部署に関わらず皆が取り組んでいる。このステートメントには、スタッフ各々が自ら考えて行動して欲しい、という気持ちが込められているのだ。また、冒頭の「We(私たち)」は、パタゴニアのスタッフだけでなく、他の企業や団体など、みんなが当事者意識を持って取り組んでほしい、というメッセージが込められている。

野心的な目標

その理念を実現する為、彼らは多くの野心的な目標を掲げている。

1. 2020年までに再エネ100%を達成
オフィスや店舗の電力を、すべて再生可能エネルギーに変える。


2. 2025年までにカーボンニュートラル達成
サプライヤーも含む事業全体で出る二酸化炭素を、同じだけ回収する。(環境再生型農業などを通じて)


3. 2025年までに、全ての製品には再生可能素材、もしくはリサイクル素材のみを使用する。
全てのアパレルの素材をコットンやウールなどの自然素材、もしくはリサイクルでできた素材を使用する。

大きな理念を達成するのには、1つずつこのような目標をクリアにしていく必要がある。

WornWearキャンペーンに使用されている「つぎはぎ」号。取り壊しを待つ古い納屋を解体して作られたという。
WornWearキャンペーンに使用されている「つぎはぎ」号。取り壊しを待つ古い納屋を解体して作られたという。
Patagonia

 マジメなことに「楽しく・おいしく」取り組む

本質的な問題があり、それに真面目に取り組んでいかなければならない。しかし、それだけでは多くの人を巻き込む事は難しい...。そこに強いのがパタゴニアだ。

「新製品買う必要はない。持ってるものを、長く使って」

取り組みの一つである「Worn Wear(新品よりもずっといい)」は、「持っているものを長く来て欲しい」という概念。今回はキャンペーンとして、5月末から7月末まで、Worn Wear College Tourと題して「リペア車」で大学キャンパスを周り、パタゴニア製品に限らず、修理が必要な衣服を無料でリペアする、という取り組みをしている。大量生産によってみんなが同じような洋服を着ているファストファッションが増える中、穴にオリジナルのパッチなどが貼られた洋服に「自分のオリジナル」感を感じるのか、若者には広く受け入れられたという。

リペアスタッフによる修理の様子
リペアスタッフによる修理の様子

以下はアメリカのWornWearツアーでリペアされたもの。事故に遭い酷く破れたダウンジャケットが、自分だけの「味」を増して戻ってきた。(是非リペア後の写真までめくってほしい)

食品業界への参入

そして今、パタゴニアが新たに参入したのが「食品業界」だ。アメリカでは既に2011年から始まっていたが、日本では2016年から本格的に展開されている。しかし、パタゴニアがオリジナルの食品を生産販売していることはあまり知られていない。

ラインアップの1つは、なんとビール。パタゴニアのLong root beerは、「カーンザ」という多年生の穀物からできている。根が長く、植え替えが不要で炭素を多く吸収してくれる為、土壌改善に繋がるという。

他にもオーガニック・スープやシーフード、フルーツバーなどを販売している。しかしなぜ彼らは競争の激しい食品業界に進出したのだろうか?

農業が地球を救う?

「1つの理由は、食品はみんなに馴染みやすく、受け入れられやすい。食品を通して環境を考えてもらう手法をとれば、より多くの人を巻き込むことができると思うからです。もう1つは、現在の食品産業は環境破壊に多大な影響を及ぼしており、それを改善したいからです」佐藤さんは続ける。

「世界で出る温室効果ガスの19〜29%は農業を含む食品関連産業からと言われています。現在の農業は、炭素を地上に出し、気候変動に加担しています。私たちは、化学肥料や殺虫剤を使用せず、多くの炭素を土中に戻し、土壌を改善する、「リジェネレティブ(環境再生型農業)」に力を入れています。そしてそれが、地球温暖化の大きな解決策の1つだと考えているからです」

ロングルート・ビールの原料「カーンザ」の長い根
ロングルート・ビールの原料「カーンザ」の長い根
Jim Richardson

地球温暖化=自然災害の増加という今そこにある危機

最後に、世の中は現在「海洋プラスチック問題」への対策が過熱しているが、以前は環境団体で勤務し、長年環境問題を追ってきた佐藤さんはどう感じているのだろうか?

「海洋プラスチックはもちろん問題です。そしてプラスチックに絡まったカメなどの写真で衝撃を受け、イメージしやすい。しかし、その先を案じるならば、気候危機問題です。もはや気候変動や、地球温暖化などのゆるい言葉ではなく、『危機』なのです。氷山が溶けて困ったシロクマをイメージするかもしれませんが、実際、私たちは当事者。気候危機=自然災害の増加と考えてたら、自然災害の多い日本では、他人事と思えないはずです」

洪水の後 2018年7月、岡山
洪水の後 2018年7月、岡山
MARTIN BUREAU via Getty Images

Institute of Economics and Peaceの調査Global Peace Indexによると、気候変動による被害を受けるリスクが世界で2番目に高いフィリピンに次いで世界で第2位だという。

「ここ数年、私たちは豪雨や洪水、台風も多く経験しています。これは偶然ではなく、気候変動によるもの。その危機感を持って、行動につなげて欲しいと思います」

真面目な問題に、楽しくおいしく、でも真剣に挑んでいく...。

環境保全に取り組み、ビジネスとして利益も出す。パタゴニアのこうした取り組みを成功例の一つとして、さまざまな企業がビジネスとして挑戦していけば、地球環境が良い方向にチェンジしていくかもしれない。

健康な地球で、みんなが平等に平和に生きる。

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