田中優子さん、選択的夫婦別姓への反対は「家父長制を守りたいというのが本音」

原告の一人は、多くの女性が不利益を被っていることを無視する国側の主張に「カチンときた」と語った
東京地裁に向かう原告と弁護団(2025年5月15日)
東京地裁に向かう原告と弁護団(2025年5月15日)
HuffPost Japan

選択的夫婦別姓の実現を求めて、5組10人の夫婦が国を訴えている裁判の審理が5月15日に東京地裁(品田幸男裁判長)で開かれた。

裁判では、望まぬ改姓や事実婚、ペーパー離婚を余儀なくされた原告が、一人が名字を諦めるか、結婚自体を諦めるかの二者択一を迫る現行の「夫婦同姓制度」は、結婚の自由や両性の本質的平等を保障する憲法に違反すると訴えている。

「夫婦同姓制度」は日本だけで、双方が結婚前の名字を維持したいと思ってもどちらか変えざるをえない。望まずに変更する側は名義変更の手続きやアイデンティティの喪失などの不利益を被っている。

結婚するカップルの約95%が男性側の名字を選択しており、その負担は圧倒的に女性に偏っている。

一方、国は裁判所に提出した書面の中で、夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めていたとしても「それは個々の協議の結果といわざるを得ず、現在の法律が差別的効果を生み出しているとはいい難い」と主張した。

原告の一人である小池幸夫さんは審理後の報告会で、この表現にカチンときたと語った。

「私もそうでしたが、一般的に男性の方は結婚する時には女性が氏を変えるのが当たり前と考えていると思います。一方、女性は本当は望まなくても、仕方なく変えているのが実態だと思います」

「原告に加わった後、妻は私たちよりも年配の人を含む何人もの女性から『実は、自分も改姓したことに違和感を感じていた』と言われたそうです。片方だけ不利益を被る現状は、なんとしても変えていかないといけないと感じています」

法政大学名誉教授で元総長の田中優子さんも報告会に出席し、夫婦同姓制度は、政府が目指す社会に逆行するものだと指摘した。

報告会で話す法政大学名誉教授で元総長の田中優子さん(2025年5月15日)
報告会で話す法政大学名誉教授で元総長の田中優子さん(2025年5月15日)
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政府は「女性活躍と経済成長の好循環」のための方針として、2030 年までに女性役員の比率を30%以上にすることを目指している

一方、経団連が2024年に実施したアンケートでは、回答した139人の女性役員のうち88%が、仕事で旧姓を使用しても「何らかの不便さ・不都合、不利益が生じる」と回答した。

田中さんは「企業は政府から、女性役員を30%まで引き上げるように言われていますが、今のままではその目標に達した時にさらに多くの女性たちが苦しむことになります」と述べた。

また、田中さんは日本が夫婦同姓制度を続けていることは、国連の「条約違反だ」とも指摘した。

国連の女性差別撤廃委員会は1994年の一般勧告21で「各パートナーは自己の姓を選択する権利を有する」と明言しており、これまで2003、2009、2016、2024年の4回にわたり、夫婦同姓制度を定める民法を改正するよう日本に勧告を出している。

日本は1985年に女性差別撤廃条約を批准しているが、最初の勧告から20年経った今も、状況は改善されていない。

選択的夫婦別姓制度を導入しても、今まで通り夫婦同姓を選ぶことができ、通称の使用も可能だ。 世論調査では選択的夫婦別姓への賛成が多数を占めるようになっており、その傾向は特に若い世代で顕著だ。

選択的夫婦別姓制度を求める声が高まる中、立憲民主党は2025年4月30日に、同制度を導入するための法案を国会に提出した。一方、自民党は今国会中の法案取りまとめを見送る方針を固めたと報じられている

選択的夫婦別姓に反対する議員について、田中さんが代表を務める「平和を求め軍拡を許さない女たちの会」は3月、「唯一考えられる理由は、妻子を夫の配下に置こうとする家父長制の維持存続だ」とする声明を発表している。

田中さんは15日の報告会でも「家父長制家族を守りたいというのが本音のところにあると思います。そういう意味で、選択的夫婦別姓はこの問題にとどまらない、今後の日本のあり方の非常に重要な根幹に位置するものだと思う」と述べた。

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