アニメビジネスに詳しいコンテンツアナリスト、尾形拓海さん(株式会社Haru代表)が、日本のアニメ産業の世界戦略と向かうべき方向について考えます。第三回は、『アニメ産業について考えるための現代のビジネスモデル』について。
第三回:知られざる、現代アニメ業界のビジネスモデル。アニメ自体は宣伝媒体、二次展開で稼ぐモデルとは?(今回はここ)
海外におけるアニメ人気の実態をさらに深堀るためには、アニメのビジネスモデルを理解することが必要不可欠です。
最もよく言及される製作委員会方式については様々なところで解説されており、一般的にも理解が進んでいますが、そのメリット・デメリットや収益構造、他のコンテンツと比べた時の違いなどもおさらいしたいと思います。
製作委員会方式がなぜ主流になったのか
日本で制作される大半のアニメは、「製作委員会方式」というスキームが取られています。これは複数の企業が協力して資金を出し合い、共同でアニメ作品を制作する方式です。
このスキームについて要点だけ説明すると、製作委員会に参加する企業は、アニメの制作費を出資する代わりに、それぞれのビジネス領域で二次展開ビジネスを管轄することができるという仕組みです。
例えば、玩具メーカーならグッズを、レコード会社なら音楽を担当するという仕組みです。また、製作委員会が得た収益は、各社が出資した割合に応じて分配されます。

製作委員会方式は、ボラティリティが高いアニメビジネスにおいてリスクを抑えることができる優れたスキームです。
また、普段から各事業領域でビジネスをしている企業を出資者として募ることで、二次展開ビジネスにおいて高い専門性を結集できるといったメリットがあります。
映像としてのアニメ作品は、NetflixやUnextなどの映像配信プラットフォームを通じて流通します。
当然、製作委員会はプラットフォーム運営企業から配信権収入を得ることができますが、それだけで原価(制作費やマーケティング費など)を賄うことができない場合が大半です。
そのため、グッズやイベント、音楽など2次的な展開によるビジネスで収益を立てることによって、全体として黒字が達成されるというモデルになっています。
つまり、海外におけるアニメ人気をビジネス視点で深堀るためには、アニメそのものだけではなく、2次展開の実態を理解することが重要になるのです。
例外として、特定のプラットフォームのみで独占配信されるアニメは、制作費のほぼ全額に等しい金額が支払われる場合があります。
これは、そのアニメを視聴できるユーザーが当該プラットフォームに限定され、2次展開によるビジネスの広がりに影響が出てしまう可能性が高いことから、その補償としての対価設定になっています。

なお、コンテンツが最初に露出するメディア(ここでは「ネイティブメディア」と呼称します)を宣伝媒体とし、2次展開で稼ぐモデルはアニメだけではなく、コンテンツビジネスにおいて非常に一般的な手法です。
通常、アニメ配信や音楽配信、Vtuberのライブ配信のように、規模が限定的な市場を主戦場とするコンテンツは、ネイティブメディアでは十分に稼げないため2次展開での収益化が重要になります。
例えば、音楽企業の場合はライブやイベント、Vtuberの場合はグッズからの収益が、ネイティブメディアを上回っている場合が多いです。
逆に、ゲームやキャラクターなど規模が大きい市場を主戦場とするコンテンツは、ネイティブメディアで十分に稼げるため、2次展開は収益化ではなくファンの獲得・育成を目的に置く場合が多いです。

海外では、CrunchyrollとNetflixがアニメの主なネイティブメディアとなり、作品の存在と魅力を広めています。
そこで作品を視聴しファンになったユーザーが、アニメを題材としたゲームをプレイしたりアニソンを聞いたり、キャラクターグッズを買うことでビジネスが成り立っています。
海外進出・先端テクノロジー活用では足枷にもなる「製作委員会」
一方、複数企業が出資を行うため収益が分散されることや、合議制であるがゆえに二次展開においてリスクを取りにくくなったり、意思決定が遅くなるといったデメリットもあります。
私は、今ほどNFTが世に知られていない黎明期に、世界で初めてアニメNFTを開発したシンガポール発のスタートアップで、ライセンシングを含むビジネス全般をリードする立場でした。
NFTという当時誰も知らないデジタル商材を、製作委員会の担当者にゼロから説明し、さらにその先の製作委員会参加社にも理解を得るのは、非常にヘビーリフティングで時間がかかる仕事でした。
その体験を経て、製作委員会方式がアニメ産業を支える不可欠な仕組みであると同時に、最先端テクノロジーの活用や海外進出の足枷にもなっていることを実感しました。
これに対し、近年は経済的なリスクを抑えつつ、単独、もしくは少数の企業で製作を行うビジネススキームも出現し始めています。例えば、みずほ証券が立ち上げた『Talent of Talents』というアニメ映画ファンドは、製作費の一部を証券会社を通じた第三者が出資できる仕組みを作ることによって、単独、もしくは少数の企業へ潤沢な製作資金を提供することを目指しています。
ハリウッドや韓国では映画製作が金融商品として扱われることが当たり前で、これが産業発展に大きく寄与してきた要因の一つでもあります。
このような仕組みが日本でも浸透すれば、よりリスクを取った魅力的な作品作りと、その後のIP育成段階への投資に弾みがつくでしょう。
また、従来通りの製作委員会スキームを採用してリスクを分散するというメリットを活かしつつ、デメリットを軽減する方策もあります。
人気作品ほどライセンシーからIPを活用した様々な協業提案が届き、現場の業務負荷が増えていきます。今後は国内だけでなく、海外ライセンシーからの許諾依頼も増えていくでしょう。
この時、これまでのように製作委員会の窓口企業が単独で対応するのではなく、業務の一部を標準化してアウトソースするBPOを活用したり、生成AIによって窓口業務を一部自動化することで、より迅速にライセンス業務を推進することができるようになります。
今後、国内外でアニメ需要が高まっていくことは間違いありません。その時代の要請に合わせて、業界全体で海外における成功事例や先端テクノロジーを積極的に導入し、新しいビジネススキームや業務プロセスを確立していくことが必要不可欠ではないでしょうか。
(このコラムは、尾形拓海さんによるハフポスト・オピニオンへの寄稿です。内容は必ずしもハフポスト日本版編集部やBuzzFeed Japanの意見を反映するものではありません)
