
「15円50銭」
約100年前、外国人と日本人を見分けるために使われていたこの言葉は、うまく言葉を話せなかった外国人や障害者、標準語を話さない人の虐殺に繋がった。
そんな不適切極まりない言葉が、参議院議員選挙期間中に使われていたとする動画がSNS上に拡散され、物議を醸している。
動画には、「望ましくない外国人の排除」などの公約を掲げた政党の街頭演説場所で、聴衆の1人が近くにいた人に対し、「15円50銭って言ってみな」と発言した様子が映っている。
「15円50銭」とは何なのか
「15円50銭」は、1923年の関東大震災の後に、朝鮮人と日本人を判別するために使われた言葉だ。
10万人以上の死者・行方不明者が出た関東大震災では、社会が混乱する中で「朝鮮人が火をつけた」「井戸に毒を投げ込んだ」「集団で襲ってくる」などのデマが拡散し、軍や自警団が朝鮮人を殺す事件が発生した。
この時に、軍人や自警団が日本人ではないと認定するために使ったのが「15円50銭」という言葉だ。
公益財団法人・政治経済研究所研究員の小薗崇明さんは、語頭の濁音を発音しない朝鮮語の特徴を利用し、この言葉を発音できるかどうかで日本人かどうかをみわけた、と2023年の朝日新聞の取材に答えている。
2023年の映画『福田村事件』では、香川から訪れた薬売りの行商団が、讃岐弁の言葉遣いなどを理由に責め立てられ、自警団を含む100人以上の村人たちに殺害された実際の事件が描かれている。
ハンギョレ新聞によると、関東大震災で被災した小説家で詩人の壺井繁治は、列車内で兵士が乗客に向かって「15円50銭と言ってみろ」という光景を目にしたという。
壺井は1948年に発表した詩「十五円五十銭」で、もしその人が「朝鮮人だったら /『チュウコエンコチッセン』と発音したならば / 彼はその場からすぐ引きたてられていったであろう / 国を奪われ / 言葉を奪われ / 最後に生命まで奪われた朝鮮の犠牲者よ / 僕はその数をかぞえることはできぬ」とつづっている。

「お前ら日本人じゃないだろ!」
「15円50銭」という言葉を使って、差別を正当化し、虐殺に加担してしまった関東大震災。
100年以上経った2025年の日本でも、政治家やインフルエンサーらが「外国人が優遇されている」と主張し、排外主義が強まる中で、「日本人か」と問う動きが起きている。
作家の雨宮処凛さんは、10年ほど前からデモに参加していると沿道の人から「お前ら日本人じゃないだろ!」という罵声を浴びるようになったと7月16日に掲載したブログで書いている。
立憲民主党の吉田はるみ議員も7月21日、選択的夫婦別姓を支持していることを理由に「あんた日本人じゃないだろ!」と言われたとXに投稿した。
そういった中で「15円50銭と言ってみろ」という言葉が使われたとするSNS投稿は衝撃を与えており、「まさか令和の時代にこの言葉が使われるとは」「政治家が差別発言をすればこういう結果を招く」「排外主義がどれほど危険かを示している」などの強い批判が起きている。
「15円50銭」という言葉による差別を否定する声は、アーティストからも上がっている。
ヒップホップグループのTHA BLUE HERB(ザ ブルー ハーブ)は7月18日、「私達とあの方達 合言葉は15円50銭って話 忘れてはならない 生き残ったおばあのその時の話 悲しい 昔あったらしい で終わらせてはならない」というリリックをXに投稿した。