
選択的夫婦別姓は「治安を悪くする」――参議院選挙を前に、政党の代表からそんな発言が飛び出している。
しかし、選択的夫婦別姓の活動に長年携わってきた専門家は「全く根拠がない主張だ」と指摘する。
▼井田奈穂氏出演「選択的夫婦別姓の疑問、全部答えます」はこちら
治安を悪くするは本当か?
選択的夫婦別姓は、結婚時にどちらかの名字にあわせるか、両者が結婚前からの名字を使い続けるかを選べる選択肢を増やす制度だ。
5月には28年ぶりに衆議院法務委員会で法案が審議入りし、7月20日投開票の参議院選挙の争点の1つにもなっている。
その一方で、SNSには、選択的夫婦別姓が導入されると戸籍が制度が破壊される、などの主張が投稿されている。
各党が賛否を問われる中、参政党の神谷代表は6月30日放送のテレビ朝日・報道ステーションで同制度に「反対」と明言。
その理由について「戸籍がどんどんシンプルになり、ルーツや家族関係がわかりにくくなってきているから」と述べた。
「戸籍をもう少ししっかりと、明確にしないといけないところに選択制を入れてしまうとより複雑な家族関係になるので、(選択的夫婦別姓は)日本の治安を悪くすると考える」と神谷氏は持論を展開していた。
しかし、法務省は選択的夫婦別姓を導入した場合、同姓と別姓のいずれの夫婦も、今まで通り同じ戸籍に入ると説明している。
この「日本の治安を悪くする」発言について、選択的夫婦別姓の法制化に取り組む一般社団法人あすにはの井田奈穂代表理事は「一つもあっているところがない」と、ハフポスト日本版の動画番組で反論した。
井田氏は、選択的夫婦別姓とは「氏名を変えないことであり、ルーツがそのまま残る」と説明する。
「変えないAさんがAさんのままでい続けると、何がどう混乱が起こるんでしょうか。何のルーツがわからなくなるのでしょうか。戸籍に書かれている名前が変わらないということで何が複雑になるのでしょうか」
また、井田氏は「1970年代から多くの国が選択的夫婦別姓を導入してきたが、別姓を理由に治安が悪くなった国というのは一つもない」とも強調する。
「家族が名前を変えないということにおいて、治安が悪くなった国があるんだったら一つでもいいから出していただきたいなと思います。全く根拠がありません」
もっと議論が必要?
選択的夫婦別姓について、与党・自民党は党内で賛否がわかれており、意見がまとまっていない。
同党の石破首相は「いつまでもズルズル引っ張っていいとは思っていない」と報道ステーションで述べた一方で、「党内でもっと議論をする必要がある」として慎重な考えを示した。
この「継続的な議論が必要」という主張について、井田氏は選択的夫婦別姓は半世紀以上前から議論されている問題だと指摘した。
「市川房枝さんらが1974年に初めて、選択的夫婦別姓が必要だという請願を国に出しました。私たちはずっと、その時と同じことを言ってます。これはアイデンティティの問題で、仕事上も非常に困る問題だと半世紀言い続けているのです」

市川房枝氏らの請願書の約20年後の1996年には、法務省の法制審議会が民法を改正して選択的夫婦別姓を導入するよう求める答申をしている。
しかしそれから30年経った今も選択的夫婦別姓は実現しておらず、日本は世界で唯一、結婚時に別姓を選べない国になっている。
井田氏は「答申されてからも30年。なぜここからさらに議論が必要なのか」と述べた。
「もうすぐ法改正されるからと事実婚を選んだ家族がもう30年、事実婚のままです。そろそろ、病院の家族同意ができるんだろうかと不安になってきています」
「70代、80代でも待ってる人がいるぐらい長きにわたり人権侵害が行われてきたことなので、2025年中に終わりにしていただきたいと思っています」
