老舗せっけん屋が創業初となる「家電」を発売。牛乳石鹸が「せっけん」の枠を超え開発した商品とは

牛のマークの「カウブランド赤箱」石鹸で知られる牛乳石鹸が、家電を発売した。どんな商品なのか?その背景とは...。
SUSUGU(ススグ)電動ブラシとミストシャンプーのセット
SUSUGU(ススグ)電動ブラシとミストシャンプーのセット
Yuko Funazaki / Huffpost Japan

100年以上の歴史を持ち、牛のマークの「カウブランド赤箱」石鹸で知られる牛乳石鹸共進社(以下、牛乳石鹸)。

2025年9月、約4年の開発期間を経て、同社初の「家電」を発売した。

これまでも入浴剤やスキンケア、フェムケア商品まで、幅広く展開してきたが、なぜ家電に進出したのか。

そしてそれはいったいどんな家電なのかーー。

そこには老舗せっけん会社だからこその知恵が詰まっていた。

牛乳石鹸初の家電「SUSUGU」とは?

牛乳石鹸は9月22日、たったコップ1杯の水で、服を着たまま洗髪できるヘアブラシとミストシャンプーのセット『SUSUGU(ススグ)』の一般販売を開始した。

ブラシは、電動式で細やかなミスト状の水が出てくる仕組み。介護が必要な人や、災害時などの場面での活用が期待されている。

使い方は簡単。ミストシャンプーを頭皮に吹き付け皮脂や汚れを浮かし、ミストの出る電動ブラシでブラッシング。最後はタオルで頭皮の汚れを拭き取り、必要に応じてドライヤーで乾かす。それだけだ。

牛乳石鹸による家電と聞くと違和感があったが、お風呂に関する商品ということで納得がいく。

しかし、そもそもなぜ家電を開発するに至ったのか、話を聞いた。

お風呂で得られる清潔感を、お風呂の外でも

商品の開発を担当したのは、同社に2020年に新設された新規事業室。牛乳石鹸がこれまで提供してきた「美と清潔 健康づくりに役立つ」商品というミッションの中で、これまで着手していなかった社会課題に取組むために創られた部署だ。

これまでに、入浴介助の悩みに答えた、高齢者介護施設向けの業務用ボディ&ヘアケア商品「ツナグケア」シリーズを発売。短時間でササっとすすげ、浴室でのぬるつきも少なく、高齢者がすべるリスクにも対応している。

高齢者向けのツナグケアシリーズ
高齢者向けのツナグケアシリーズ
牛乳石鹼共進社株式会社

それに続く新製品が、被災地や介護現場での活用が期待される、今回の『SUSUGU』だ。

周りを濡らさず、でも水で洗いたい

「きっかけは、被災を経験した人たちへの『お風呂問題』に関するヒアリングでした」

そう話すのは、SUSUGUの開発を牽引してきた新規事業室室長の江越亮一さんだ。

被災者からは「避難所に飲料水は届くが、衛生用に使える水は少なく、髪を洗えないのが不快だった」という声が多く寄せられた。

牛乳石鹸共進社株式会社、新規事業室の江越亮一さん
牛乳石鹸共進社株式会社、新規事業室の江越亮一さん
牛乳石鹼共進社株式会社

最初は粉シャンプーなど水がない方法も考えたというが、様々な方法をチームで試した結果、湯上がりのような快適さを得るには「水で洗う心地よさ」が重要だと認識したという。

しかし、それこそが、実現するにあたり最大の壁となった。

「水を使わない、濡らさないなら比較的作りやすいですが、やっぱり水で洗いたい。水がない環境で、周りを濡らさず洗うというのはどういう環境でやったら良いのか。それが1番の課題でした」

開発は難航した。

蒸したりきな粉シャンプーを試したり...
蒸したりきな粉シャンプーを試したり...
牛乳石鹼共進社株式会社

「水が地肌に当たる感触がありながら、水がこぼれないように...と。矛盾に満ちたチャレンジでした」

ヘルメット型など様々なアイデアの中から「水が出るブラシ」という形で開発が進行。いくつもの試作品や社内での体験会、展示会参加などを実施した。

その過程で、被災者だけでなく、介護が必要な人など、お風呂に入りたいけど入れないすべての人にニーズがある、とターゲットが広がっていった。

洗髪がコミュニケーションの機会に

試作品の段階で、バリアフリーや医療的ケア児向けの展示会に出展したり、当事者や家族に体験してもらうと、大きな反響を得た。

「介護での洗髪は、準備も時間がかかると。これだと車椅子や寝たままでも洗えるというのが良いとの声を頂き、困っていたんだな、と認識することが多くありました」と江越さんは振り返る。

バリアフリー展にも出展
バリアフリー展にも出展
牛乳石鹼共進社株式会社

また、当初は介護が必要な人が「自分の髪を洗う」ことを想定していたというが、実際には介護者が「介護が必要な人の髪を洗う」ケースが多かった。SUSUGUを使うことで介護者の負担が減り、その時間がただの洗髪ではなく、家族間のスキンシップやコミュニケーションに繋がったという声も寄せられたという。

「介護者が気軽にやってあげられる、ヘルパーに任せなくても家族ができる、服を着たままでできるから、頼む側も遠慮せずに頼みやすいとの意見もありました。あと、会話しながら洗髪してあげられるのが良い、という声も多くありました」

発売後の反響は

「SUSUGU」は9月22日の一般発売以降、医療的ケアが必要な子どもの家族や介護施設など、入浴介助における洗髪に課題を持った人から注文を受けているという。

商品のオンラインレビューでは9月29日時点ですでに10人の購買者が評価を投稿しており、5点中4.6点の高評価を得ている。

介護者からは、「車椅子の上でも使えるのは、とても素晴らしい」「顔が濡れるのが嫌がる母が、この商品だと嫌がらずにやらせてくれる」といったの喜びの声が寄せられている。それに加え、「お風呂が面倒な時や、運動後お風呂に入る時間がない時に活用しています」など、広いシーンでの活用も見られた。洗い上がりについても「使用後はさっぱりとして気持ちがいい」「よくあるドライシャンプーやシャンプーシートとは別物」など、爽快感を得られたとの反応が多く寄せられている。

江越さんは今後、「まずは介護やお風呂に入れない方に知ってもらうために展示会に出展し、広く知ってもらいたい」と話すが、すでに介護や被災地での需要の枠をこえ、一般の人の間でも注目を集めているようだ。

今後は改良や用途の多様化への対応を進める予定だというが、最終的には「宇宙ステーションに持っていって使ってもらいたい」と江越さんはSUSUGUに関する将来の夢を語った。

SUSUGU(ススグ)はミストシャンプーと電動ブラシのセットで23870円で牛乳石鹸オンラインショップで購入できる。

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