
「若いときは『若いね』で済むけど、歳を取ったら異様に美しい美魔女かババアみたいな選択肢しか用意されていなくて(中略)『普通の40歳』っていうのは、ないんだろうかと思い始めた」
雨宮まみさんが著書『40歳がくる!』でつづった一節だ。「アラフォーババアだから若い女がうらやましくて仕方ないんでしょ」という自分に対する評価もネットで見つけたと嘆く。
一方、ライターのブレイディみかこさんは、この言葉を見た時にピンとこなかったとハフポスト日本版の動画対談で話す。
雑誌『SPUR』の連載コラムを書籍化した著書『SISTER “FOOT” EMPATHY(シスター“フット”エンパシー)』では、「美魔女とババアしかいないとあなたに思い込ませているのは誰だろう?」と問いかけている。
本作でルッキズムやミソジニー、フェミニズムなど、女性にまつわるトピックを取り上げ、SNSの時代だからこそ、“足元”からつながることが重要だと話すブレイディさん。
「シスターフッド」ならぬ「シスター“フット”」エンパシーのあり方について、ハフポスト日本版の動画対談で聞いた。
美魔女かババアか?
実際、女性は年齢を重ねたら「美魔女かババア」しかないのだろうか?
ネット上では「すごくよくわかる」という声も投稿されており、ハフポストの泉谷由梨子編集長も「(日本の現状は)そうかなと思う」と対談で話した。
しかし、ブレイディさんが住んでいるイギリスでは、こういった考えはないという。ブレイディさんは「40歳を超えたら美魔女かババアかしかないというのは、選択が狭すぎませんか?」と話す。
ブレイディさんが、この考えが実感できなかった理由の一つとして挙げるのが、イギリスでの「40歳を超えた女性」のメディアでの描かれ方の違いだ。
イギリスでは、中年の女性俳優が主演の刑事ドラマが数多くあり、シワやクマがあるキラキラ感のない主人公が、等身大の中年女性を演じている。
ブレイディさんは 「リアリズムで描かれる40歳の中年のリアルな姿が別に嫌だと思われていないし、期待もされていない。美魔女かババアじゃなく、普通の刑事ドラマに出てくる人みたいになればいいんじゃないぐらいの感じです」と語った。
美容整形も、イギリスで増えてはいるが、日本ほど女性はいつも綺麗にしていなければいけないというプレッシャーはないという。
シスターフットエンパシーとは?
「女性はこうあらねばならない」そんな生きづらさの元凶となるプレッシャーを無くしていく鍵として、ブレイディさんが著書で提唱しているのが女性の連帯「シスター“フット”エンパシー」だ。
「シスターフッド」のフッドをフット(足元)に変えた、「シスターフット」エンパシーとは何だろうか?
「シスターフッド」という言葉には「女性同士のつながりや姉妹のような関係」のほかに、「女性同士が連帯して闘い、何かを勝ち取ること」という政治的な意味がある。
どちらも欠かせない連帯だが、シスターフッドが政治的になると「言葉遣いが気に入らない」などちょっとした理由でSNSで激しい分断が起きることもある。
そんな時代だからこそ、ブレイディさんは足元からつながる連帯「シスター“フット”エンパシー」が重要ではないかと話す。
「足元」や「地に足がついた」生き方は、はブレイディさんのこれまでの著書にも通じるテーマだ。
2019年の「僕はイエローでホワイトでちょっとブルー(新潮社)」では、「他者の靴を履く」=「自分がその人の立場だったらどうだろうと想像する」能力である、エンパシーの重要性について書いた。
『SISTER “FOOT” EMPATHY』でも、足元からつながる女性たちの連帯についての考えをつづっている。
「女性が足元にあるイシューでつながりつつ、女性の権利を変えていくためにSNS上で分断して戦うのでもなく、慰めあって明日からつらい日常をまた生きて行くのでもなく、その2つを結合させて何かできればいいんじゃないかと考察し続けている連載です」
SNSを超えたシスターフットエンパシー
シスターフットエンパシーのためにブレイディさんが勧めるのが、オンラインを飛び出してフィジカルに会い、話し、互いの靴を履き合うということだ。
「そういう場を持っている人が一番強いんじゃないかと思います」と話す。
その具体例としてブレイディさんが挙げるのが、ジェンダーギャップ指数16年連続1位のアイスランドで50年前の1975年10月24日に起きたストライキ、「女性の休日」だ。
女性の9割が、職場での労働や子育て、家事、すべてを放棄して参加したこのストライキが、アイスランドをジェンダーギャップ指数1位にした大きなきっかけだと言われている。
しかし、すべての女性がこのストライキに賛成したわけではなく、保守とリベラルの間で、意見の違いも生じた。その時に折衷案とは――。
ルッキズムやSNSを超えたシスター“フット”エンパシーについてブレイディさんに聞いたハフポスト日本版の動画対談はこちら。