ヘイト合戦の様相の自民党総裁選〜「〇〇バッシング」という、何もしなくても「何かしてる感」が出せる魔法

さまざまな国で「外国人排斥」が、国民にガス抜きをさせ、大事なことから目を逸らさせるツールとなり、支持率をアップさせる「金の鉱脈」になっている。生活保護バッシングと同じ構図だ。
自民総裁選/討論会に参加する5候補。(左から)小林鷹之元経済安全保障担当相、茂木敏充前幹事長、林芳正官房長官、高市早苗前経済安保相、小泉進次郎農林水産相
自民総裁選/討論会に参加する5候補。(左から)小林鷹之元経済安全保障担当相、茂木敏充前幹事長、林芳正官房長官、高市早苗前経済安保相、小泉進次郎農林水産相
時事通信社

自民党総裁戦が見るに耐えないことになっている。

まずは茂木敏充氏。

総裁選数日前にはスーパーを視察。「庶民派アピール」なのだろうが、わざわざそれを狙ってスーパーに行くところ、しかも高級車で乗り付けるなどがかえって「特権階級アピール」となっていた。0点。

9月20日には埼玉県川口市を訪問。「違法外国人ゼロ」を掲げ、クルド人による交通事故の現場やクルド人が行くというコンビニ視察と聞いて耳を疑った。

もちろん、痛ましい交通事故について、その現場を視察することに大きな意味はあると思う。 

しかし、6月から突如としてこの国に排外主義が台頭し、またクルド人ヘイトが渦巻く中、わざわざこのタイミングでそのような現場に足を運んだことに驚いた。

自民党総裁選候補という、総理大臣になるかもしれない人物が、差別とデマにまみれた「クルド人ヘイト」にお墨付きを与えたようなものではないのか。

このことの意味を当人はもちろんわかってやっているのだろうが、私は自民党にはもう少し、「矜持」があると思っていた。新興政党が外国人をことさら問題視した際、諌めるくらいには「大人」の政党だと思っていた。が、そうではなかったのだ。

そんな茂木氏はその翌日、子ども食堂を訪れる。

はからずも今年9月、「子ども食堂」の名付け親である近藤博子さんが朝日新聞にて「子ども食堂」の名はもう使わないと宣言。「ボランティア頼みの限界」について語り、子ども食堂を応援することで子どもの貧困解決に取り組んでいるとアピールする政治家にも疑問を呈している。

その通りで、子ども食堂が全国に一万カ所以上あるということ自体が政治の無策の証明ではないか。当選11回、ベテラン中のベテランである茂木氏はこのことに大いに責任があるわけだが、そんな子ども食堂に謝罪のためではなく自らのアピールのために訪れ、カレーを食べただけでなくサプライズで誕生日を祝ってもらいケーキを食べたという。

この国には、自身の誕生日を一度も祝ってもらったことのない子どももいる。そのようなことを彼は知っているのだろうか。

総裁選が始まるまで、そんな茂木氏の「最悪の詰め合わせ」のようなパフォーマンスに視線を奪われていた。高市早苗氏といえば告示日までは大人しい印象だったので、「今回はマイルド路線で行くのか」と完全に油断していた。

しかし、22日の所見発表演説会で「ヘイトは自分の専売特許」とばかりに特大ホームランをぶちかました。「奈良の女」と強調しつつ、外国人観光客の中に「鹿を足で蹴り上げるとんでもない人がいる」などと発言したのだ。

クルド人ヘイトお墨付きに続いて、総理大臣になるかもしれない人物が、元迷惑系ユーチューバーと同じ主張をして権威づけするということが起きたのである。

他の候補者も、外国人問題について競うかのように言及。

そのような言説が自民党総裁選で語られ、公共の電波に載るとどういうことにつながるかという想像力はないのかと日々、胃が痛くなる思いでいる。

何度も書くが、今年5月まで、この国には「外国人問題」なんて影も形もなかったのである。少なくとも、選挙の争点として浮上することはなかったし、政策の優先課題のリストにも載っていなかった。それが「日本人ファースト」という言葉で人々の何かのタガがハズれ、参政党が躍進して「票になる」と思った途端、政治家がこぞって利用し始めた。

このことを、非常に情けない思いで見ている。

なぜなら、それはあらゆる国で起きていることだからだ。

さまざまな国で「外国人排斥」が、国民にガス抜きをさせ、大事なことから目を逸らさせるツールとなり、支持率をアップさせる「金の鉱脈」になっている。

生活保護バッシングと同じ構図だ。私は政治家がそれに手をつけた時、「こんなに楽なことをしてサボっている場合か」と心の底から憤慨した。なぜなら、外国人問題を煽ることも生活保護バッシングも、「自分は何もせずに対象を貶めるだけで何かやってる感が出せる」サボりのテクニックに過ぎないからだ。その上、支持率も上がるのだからウハウハだ。

具体的な行動や国会質問、法案成立のための根回しなどの苦労を何ひとつせずに、「あいつらが悪い」と犬笛を吹くだけで「すごい!」「よくやった!」「よく言ってくれた!」と評価されるのだ。

このことは、これから何度も形を変えて起こるだろうから覚えておいてほしい。率先して何かをバッシングしている政治家は、何もしていない政治家である。使っているのは口先と指先だけだ。

しかし、そんな外国人問題が「受ける」背景には「あいつらばかり優遇されているからわれわれ日本人の生活が苦しい」という思いがあるわけだが、そうさせたのは自民党である。

特にこの「失われた30年」で非正規雇用を増やすだけ増やして放置したことの罪はあまりにも重い。

例えばまだバブルが崩壊する前、1990年の非正規率は2割ほどでほぼ学生バイトやパート主婦が占めていた。しかし、現在は4割近くにまで拡大。

増えた多くが家計の補助的働き方でなく自ら生計を立てなくてはならない人たちで、そのことによりこの国の貧困は拡大した。特に若い世代を直撃した結果、未婚率は上がり、少子化は怒涛の勢いで進んだことは周知の通りだ。

結果、所得の低下もすさまじいことになっている。

例えば1994年と2019年の所得の中央値を見てみると、45〜54歳までの世帯では195万円もダウン。実に200万円近くも減少しているのだ。

これでは生活が苦しくて当然である。

よってこの30年で現役世代の車離れ、旅行離れ、酒離れなどが怒涛の勢いで進んだ。いわば「消費離れ」だ。当然、モノは売れなくなって消費は冷え込み、企業は守りに入り、非正規はいつまで経っても正規化されずに雇用の調整弁のままでさらに未婚化と少子化は進む――という悪循環を繰り返してきた。

現状をどうにかするならこのオオモトに手をつけるしかないのに、「#変われ自民党」というスローガンのわりには誰一人としてここに本格的に触れていない。

この国の一丁目一番地の問題は、外国人問題などではなく、まさにこのあたりのことではないのか。

さて、そんな総裁選は石破茂氏が辞任するからなのだが、私には非常に気がかりなことがある。

それは石破氏が今年4月、就職氷河期世代=ロスジェネを中心とした支援を充実させるため、関係閣僚会議を設置すると発表したことによる。

これまで30年以上放置され、ロスジェネはもう50歳前後。そこにやっと国が本腰を入れて支援するというのである。

しかも、これまでのロスジェネ対策といえば就労支援一辺倒だったのが、今回は「公営住宅の提供」や「老後に向けた資産形成」など、これまでとは明らかに一線を画すものが盛り込まれており、私の期待は高まった。

そう、もう50歳にもなったら就労支援だけやったってダメなのだ。あらゆる方向からの支援が必要なのだ。そこで公営住宅なんて、願ってもないことではないか。石破さん、これは、これは期待できるぞ!

そんなロスジェネ対策は物価高や米不足と並んで6月はじめ頃までは選挙の大きな争点と見られており、私もいろんな媒体から取材を受けるなどした。が、参政党の「日本人ファースト」という言葉が、すべてを蹴散らしてしまった。

そうしてロスジェネ対策は遥か後方に追いやられたまま石破氏は辞任を発表したわけだが、こういう場合、そのロスジェネ対策ってどうなるの? また白紙になるの? だとしたら、またロスジェネは放置されるの?

ちなみに私はこの50歳というタイミングがロスジェネにとって最後のチャンスだと思っている。次に注目されるのはおそらく65歳。高齢者になるタイミングで「社会のお荷物」的な目で見られ、安楽死法案などとセットで語られるのではないかという恐怖がある。だからこそ期待していたのに。また、目の前でチャンスは消えていくのか。

さて、いろいろ書いてきたが、外国人問題でここまで人々のタガが外れるのは、この国が「移民政策はとらない」という建前だけふりかざしながらも現実は外国人を受け入れるというダブルスタンダードをやってきたからだ。

そうして建前に基づき、言語習得やルールの周知という社会統合策を一切放棄し、マトモな「外国人政策」がなかったことにすべての原因がある。やはり自民党の怠慢、無策が原因なのだ。

少し振り返っても、バブル時代にはオーバーステイの外国人が働くことは人手不足の中、黙認されていた。

が、バブル崩壊後、日本政府はその追い出しに躍起になる。穴を埋めるように増えたのが、ブラジルやペルーなどの日系人。1989年の入管法改正により「定住者」という在留資格が作られ、日系三世にも認められるようになったからだ。

2007年末には30万人以上の南米日系人が製造業などに従事していたが、その翌年のリーマンショックでクビを切られた人も多くいる。そんな中、政府は09年に「帰国支援事業」を開始。内容は「30万円渡すから帰れ」「今後、日系人としての身分で再入国しないと誓約しろ」的なものだから普通にひどい(しかし、13年には再入国を認めると発表)。

同時期、すでに問題となっていたのは外国人実習生・研修生。主にアジアの若者たちが時給300円、莫大な借金を背負っての来日など「現代の奴隷制度」の中に放り込まれた。

この制度は現在「特定技能」に移行しているが、ここまでの流れを見てもわかる通り、すべてが場当たり的で長期的なビジョンはまったく見えないという印象だ。

そんな中、日本はどんどん貧しくなり、すでに「選ばれる国」ではなくなりつつある。

まずは政府がどういう姿勢なのかを示すこと。そこからしか、マトモな議論は生まれないわけだが、8月末、法務大臣は外国人受け入れに関しての私的勉強会の中間報告書を公表。「なかったこと」にしてきたさまざまを今後どうするかについての議論が、やっとやっと始まるのだ。

願わくば、排外的ではない方針で、権利保護を重視して考えてほしい。

一方、今は不動産など投機の問題もあるが、それはただ単に規制をしてこなかったゆえなのだから、規制すべきものはすべきだろう。そんな議論に、人々の声を聞く機会もぜひ設けてほしいものである。とにかく、建設的な議論になることを祈っている。

さて、外国人問題にはいろいろと複雑なこともあるが、私はこの状況を予想していたかのように昨年夏、『難民・移民のわたしたち これからの「共生」ガイド』という本を出している。

複雑怪奇でわかりづらい在留資格や難民認定や仮放免などの制度について、一人ひとりのライフヒストリーを読んでいけば自動的に頭に入っている、という作りにした(プロっぽい!)。

この国に生きる外国人――大人だけでなく子どもたちにも――取材した一冊だ。14歳から読めるように書いたので、おそらく、日本一わかりやすい入門書。 

この機会に、ぜひ手に取ってみてほしい(まえがきはこちらから読めます)。

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