『となりのトトロ』のサツキは宮崎駿さんの“分身”だった。82歳の誕生日に振り返る

家事や育児を完璧にこなすサツキへの違和感を指摘されて、「こういう子はいる。おれがそうだった」と反論していました
『となりのトトロ』のサツキ(左)と宮崎駿さん
『となりのトトロ』のサツキ(左)と宮崎駿さん
スタジオジブリ/時事通信社

2023年1月5日は宮崎駿さんの82歳の誕生日。『天空の城ラピュタ』から『風立ちぬ』まで、スタジオジブリで数々のアニメ映画を監督してきた宮崎さんは、7月14日公開予定の新作『君たちはどう生きるか』に取り組んでいる。

宮崎さんが自身の生い立ちを語ることは少ないが、それを知る手がかりがスタジオジブリのプロデューサーとして、宮崎さんとタッグを組んできた鈴木敏夫さんの著書に書かれていた。

■「こういう子はいる」「おれがそうだった」と反論

仕事道楽 新版――スタジオジブリの現場』 (岩波新書)の中で、1988年公開の『となりのトトロ』制作時のエピソードが出てくる。

この作品はサツキとメイの姉妹が主人公なのだが、入院中の母親に代わって小学6年生のサツキが家事を手がけるシーンが描かれている。父親が寝坊した際には、炊事をしてお弁当作りまでしている。茂みの中で寝ていたメイを叱ったり、夜間にバス停まで父親の傘を届けにいったり、しっかり者の描写が多い。

これに関して、鈴木さんは強い違和感を持ったという。サツキのように、子どものうちから完璧に家事や育児をこなしていたら、「大きくなったときに不良になりますよ」と宮崎さんに指摘した。

宮崎さんは本気で怒った。「こういう子はいる」「おれがそうだった」と反論した。宮崎さんは少年時代、病気がちだったお母さんに代わって家族のご飯を作ったり、お母さんの代わりをしていた。鈴木さんは「そういう思いがあったので、彼はお母さん以上に立派という、理想化したサツキを作り出した」と思い返している。

しかし、これには後日談があった。『となりのトトロ』の後半、母親が死ぬのではないかと心配して、サツキが泣くシーンの絵コンテが出来たときのことだ。宮崎さんは鈴木さんにそれを見せた上で「これでサツキは不良にならないよね」と尋ねた。「なりません」と答えた鈴木さんの言葉に安堵した様子だったという。

しっかりもので、気丈に振る舞うサツキにも、母親を心配して涙をこぼしてしまう年相応の一面がある……。もしかすると宮崎駿さん自身もそうだったのかもしれない。

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