アートとカルチャー
2019年07月30日 11時03分 JST

Xジェンダーの2人が語る「性別を詮索する空気」への違和感

「日常の『あるある』だから余計に辛かった」 一般人の性別を確認した読売テレビの番組への感想を打ち明けました。

AKIKO MINATO/HUFFPOST JAPAN
なかけんさんと丸山真由さん(左から)

読売テレビ(大阪市)のニュース番組「かんさい情報ネット ten.」が5月10日、一般の人に対し、性別を確認するために、リポーター役の芸人が保険証を提示させたり、胸を触ったりなどするVTRを放送した。

街の人の「性別がわからない人がいる」という疑問に答え、番組側が調べるという企画内容だった。

放送中に、同番組のスタジオに出演していた作家の若一光司氏が「許しがたい人権感覚の欠如。そんなもの、よう平気で放送できるね」などと激怒した

ネット上などでも批判が広がり、番組は3日後に、公式サイトと番組内で謝罪をした

BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送倫理検証委員会は、この放送について審議をしている。

番組に性別を確認された人は、ハフポストのメール取材に対し、自身の性別について「Xジェンダーに近いのかな?」と答えた。

番組内で「男性」と答えた理由については、「Xジェンダーとか説明するのが、ややこしいかなと思って普通に『男ですよ』と答えました」と説明していた

Xジェンダーとは、性自認が女性/男性ではない人(中性、無性、両性など多様)だ。

Xジェンダーの当事者に話を伺うと、「『相手が納得できる答え』を言わないと、性別についての質問が終わらない」「社会では『(男女)どっちか』としてしか生きられないと感じる」などと、テレビの中だけの問題ではないことが見えてきた。

 

■日常にあることだから、余計に辛い

AKIKO MINATO/HUFFPOST JAPAN
なかけんさん

大学生のなかけんさんはXジェンダーで、自身を「中性」もしくは「無性」と感じているという。

番組については、「番組に取材された人がどう感じられたのかが一番大切だと思います」と前置きした上で、「日常の『あるある』だから余計に辛かった。セクシュアリティのことを『笑い』に変えようとしているのがひどいし、それを影響力のあるテレビがやったというのはショックだった」と話した。

日常生活で覚えのあることだった。

例えば、アルバイト中に客が「あの人どっちかな?」とささやいているのが聞こえたり、買い物に行けば店員たちが「どっち(男性用・女性用)の商品をすすめよう」と相談しているのが聞こえてくる。

高校時代には、「男なの? 女なの?」といじられ、体をさわられた経験がある。

「その場の空気に合わせてあらがえなかった。相手に合わせてふざけるしかなかった自分が嫌になった。その行為をした人が悪いのに、社会でこういう扱いを受ける『自分』を認識し、虚しく感じた」と振り返る。

ゆえに今回の放送を知った時に心配になったという。

「テレビの影響で、ああいった行為が『許可』されたと感じる人が出てしまうのが怖いと思った」

 

■「男か女か、どっちなのか聞いてるの」と反論され…

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なかけんさん

なかけんさんは、性別を問われることについて、「気になる気持ちは分かる」とし、「会話を始める前提として、失礼がないように確認させて」などと聞かれることには違和感はないという。

だが、性別について聞かれる際の「やりとり」に違和感を感じることは多いと明かす。

「質問に『中性』と答えると、『男か女か、どっちなのか聞いてるの』と反論されることが多い。結局、『相手が納得できる答え』を言わないと質問が終わらない。性別に関する質問をされると『またか…』と思ってしまう」

また、「いじる」意図を感じることもあるという。

「『(性器は)ついているの?』という質問をよくされる。どういう神経なのかと思います。相手を『下』に見ている。自分と同じ土俵にいると思ったら、聞かない質問じゃないでしょうか」

自身のセクシュアリティについて説明すると、「中途半端だね」などと「評価」されたり、「男なんでしょ。女性に性欲を抱かないわけがない」などと考えを押し付けられたりする経験もしてきた。

なかけんさんは、「一人一人は違うし、みんな大切な存在。人に『べき』を押し付けず、誰かが不利益を訴えた時には社会全体で考える世の中になって欲しい」と考えている。

 

■「どちらか」でしか生きられない苦しさ

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丸山真由さん

丸山真由(まさよし)さんは、「『侵入してくる感覚』があり、怖い放送だ」と感想を話す。 

番組では、性別を確認された人が「男ですよ」と答えても、「財布に免許証とか入ってます?」とさらに確認され、本人の許可を得た上ではあるが胸部をさわる場面も放送した。 

丸山さんも「番組の取材を受けた人は決して責められるべきではない」とした上で、自身の感想をこう語った。 

「体をさわられる場面は、『自分だったら』と思うと恐怖を感じた。性別違和がある人であろうとなかろうと、人権問題としておかしいと思った。TVでやらないで欲しかった。『女性の体を男性が触ったら?』とか置き換えて考えてもらえば、この怖さは分かってもらえるのではないか」 

丸山さんは自分のことをほぼ男性だと感じているXジェンダー。子どものころ、「僕」とも「私」とも言えず、社会に参画しにくいと感じていた。 

大人になっても「どっちに扱えばいい?」「どっちなの?」などと聞かれる。 

「『配慮』として聞かれているのは分かっているからこそ口ごもることもあったが、社会では『どっちか』としてしか生きられない」という苦しさも感じてきた。 

今は「男性」として生きることで自身にとっては精神的に安定して生きられるようになったと感じており、「男性」と捉えられるような服装を選択して暮らしている。 

ただ、女性の戸籍が記載された健康保険証を見せる場面などでは、「バレる」という恐ろしさを感じるという。 

「人は色々なことを抱えて生きている。相手が何を抱えているか分からないのだから、性別を確認することにはもっとセンシティブになって欲しい。医療現場など必要な場面でもないのに、興味本位で聞くことには、暴力性を感じるので僕自身は嫌だと感じます」 

 

■本人の「心の感じ方」を尊重して

AKIKO MINATO/HUFFPOST JAPAN
丸山真由さん

丸山さんは、番組でリポーター役の芸人が、一般の方が「男です」と答えた後も質問を続け、保険証の性別を見て「男」と納得する場面に考えることがあったという。 

「戸籍の性別変更をしていない場合、免許証や保険証で分かるのは、多くの場合、生まれた時に割り当てられた身体の性です。ですが、性自認や性同一性は『その人』自身が感じるものであって、これで人の性別のすべてをわかったように判断されるのは乱暴だと感じました」 

それは普段から感じているモヤモヤだったという。  

「みんな戸籍や体を気にして、本人の『感じ方』よりも優先してしまう。それは、心で感じる性と体の性が一致している人ならではの考えだと思う。自分にとっての性別は、『心の感じ方』の方が割合として大きなものです。体だけでなく、本人の感じ方も尊重されるべきものだということがもっと知られて欲しい」 

 

■取材を終えて

今回、番組に質問をされた人が「Xジェンダーに近いのかな?」としていることから、Xジェンダーの2人に話を聞くことにした。

しかし、社会に「中性的」ととらえられる人がXジェンダーとはもちろん限らない。

また、Xジェンダーの人でも「中性的」「女性的」「男性的」「そのどれでもない」など、どう「感じているか」「見られたいか」「表現したいか」は様々だと思う。

取材で丸山さんが話していたことが印象に残った。

「『性別』とは『空気』のようなもの。みんな相手を見て、性別をパッと判断する。それがパッと分からない人を、興味の対象にしてしまう」

私はテレビは社会の鏡だと思っている。

テレビがこれを「やってしまった」のは、「性別が見た目で分からない人」を興味の対象にしてもいいという空気が社会にまだあるからではないだろうか。

そういう意味でも、この放送が示したものは「特定の誰か」の問題ではないと感じている。