『サッカー批評issue66』(双葉社、1月10日発売)では、6月に開幕するブラジルW杯に向けて「W杯に夢はあるか? ブラジル大会の光と影」というテーマで、各国のインサイドレポートを行っている。巻頭インタビューには、才能のある若手を次々と育て、世界へ送り出したレヴィー・クルピ元C大阪監督が登場。柿谷曜一朗や香川真司をはじめ、多くの若手の才能を開花させた名将が見る、2014年ブラジルW杯の行方と日本代表の未来とは――。一部を抜粋して紹介する。
■セレッソとそのサポーターのことは常に私の心の中にある
12月11日、約150人のサポーターに見送られて関西国際空港を飛び立った名将は、翌12日、自宅のあるブラジル南部の中都市クリチーバへ帰り着いた。インタビューに応じてくれたのは、その数日後。「まだ時差ぼけが取れない」と頭を振りながらも、笑顔で現われた。
場所は、自身がクリチーバ市内で経営する日本食レストラン「AZUKI」。「町で最初に設置したんだ」と自慢する回転寿司のコンベアが、ゆっくり回っている。インタビューを始めたのはまだ午前中で開店前だったが、昼前に開店すると、広い店内は常連客でたちまち埋まっていった。
――延べ7年間生活した日本を離れ、ブラジルへ戻ってきた現在の心境は?
「安全で、清潔で、秩序正しく、規律のある日本の生活にすっかり慣れてしまって、何かトラブルがあるとすぐ苛立ってしまう。唯一、こっちが日本より優れていると思うのは、道に穴ぼこがないことかな(笑)(注:ブラジルの道路には穴が多い。事実の正反対を指摘して、痛烈に皮肉っている)」
――今シーズン最後のホームゲーム(Jリーグ第33節)終了後、サポーターから「レヴィー、セレッソ!」と連呼され、選手からも胴上げされて、嬉し涙を流した。離日した時も、空港で盛大な見送りを受けた。
「セレッソのサポーターは、本当に素晴らしい。あれほど名残惜しんでもらって、本当に感激した。それなのに、『ぜひまた大阪に戻ってきたい。そのときは、もちろんガンバの監督として...』なんて冗談を言ってしまって(笑)。セレッソとそのサポーターのことは、これからも常に私の心の中にある」
――今後の予定は?
「ブラジル国内、東アジア、中東などのクラブからオファーがあるが、来年の中頃まで休養したい。それから、オファーがあれば検討しようと思う。できれば、欧州のクラブで新たな経験をしたい」
■ クルピが見る日本代表の長所と短所
――今日はまず、あなたの教え子が大勢いる現在の日本代表についてうかがいたいと思います。ワールドカップ・アジア予選、コンフェデ杯、東アジアカップ、その後の強化試合を通じて、現在の代表チームをどう評価していますか?
「アジアでの戦い方とワールドカップへ出場するような世界の強豪国との戦い方は、大きく異なる。コンフェデ杯ではその切り替えがうまくいかなかったようだが、11月の欧州遠征では素晴らしい内容の試合をした。着実に成長していると思う」
――戦術的な視点から、現在のチームの長所と短所を挙げるとすれば?
「日本選手の特徴である敏捷さとテクニックを最大限に生かし、細かいパス交換で相手守備陣をすり抜けてゴールを陥れる。守備では、高い位置から連動して勤勉にプレスをかけ、相手の攻撃の選択肢を狭め、スマートにボールを奪う。
これらの長所は、11月のオランダ、ベルギーとの強化試合でいかんなく発揮された。ただ、ボールを奪うべきタイミングの判断が不適切だったり共通理解ができていないことがあり、プレスをかいくぐられ、決定的なパスを出されてピンチを招く。
また、相手ボールの時は中央を固めてサイドへ押し出す戦術だが、体格のハンディから、単純なハイクロスからでも失点するケースがある。イージーなミスからやらずもがなの失点を喫するのも重大な問題だ」
――守備の高さ不足は、日本代表の永遠の課題です。田中マルクス闘莉王を起用すべき、という声があります。
「私が監督なら、闘莉王をピッチに立たせる。高さと強さがあり、精神的に非常に逞しく、リーダーシップがある」
■ 山口螢のどこを評価しているのか?
――彼の強い性格がチームワークを乱すのではないか、という見方もあります。
「いや、そうは思わない。今の代表には本田(圭佑)ら個性的な選手がいるが、みな正真正銘のプロで、誰もがチームの勝利のためにベストを尽くす。監督がしっかり管理すれば、まったく問題ないはずだ」
――守備のイージーミスを防ぐには、どうすればいいのでしょう?
「ミスの原因は、いろいろある。判断の誤り、技術的な問題、集中力の欠如などだ。これらは、日頃の練習と試合経験を通じて減らしていくしかない」
――攻撃面での注文は?
「ボランチの押し上げ、両サイドバックの攻撃参加をからめ、2列目の3人が連携して崩すパターンを確立しつつある。このやり方を突き詰めていけばいいだろう」
――CFは、柿谷曜一朗と大迫勇也のどちら?
「難しいね(笑)。柿谷を推したいところだが、大迫の成長ぶりも素晴らしい。どちらが出ても大丈夫。ワールドカップでも立派にプレーするだろう」
――ボランチでは、山口螢が進境著しい選手ですが。
「螢は、相手ボールのときのポジション取りが秀逸で、ボールへの寄せが速く、うまく体を入れてファウルをすることなくボールを奪える。パスを出す能力も高い。11月の2連戦では素晴らしかった。私が監督なら、彼をボランチの軸にして、遠藤(保仁)、長谷部(誠)、細貝(萌)らを併用する」
(※中略)
――対戦相手については?
「いずれも強敵だが......(続きは『サッカー批評issue66』にて、お楽しみ下さい。)」
【プロフィール】
レヴィー・クルピ Levir Culpi
1953年2月28日、ブラジル生まれ。現役時代はDFとして活躍。引退後、手腕が認められ母国でSCインテルナシオナルやサンパウロFCなど名門クラブの指揮を執る。97年、C大阪の監督として初来日。2007年途中から10年ぶりにC大阪監督に就任。独自の攻撃サッカーをチームに根付かせ、2010年にはチームを4年ぶりのJ1昇格へと導いた。
定価1208円
■【日本代表対戦3ヶ国インサイドレポート】
コートジボワール 祖国の命運を背負うエレファンツ 小川由紀子
■コロンビア
犯罪の闇を振り払う金の卵とペケルマン 池田敏明
■ギリシャ
連綿と受け継がれる1-0の美学 杉山孝
(2014年1月10日フットボールチャンネル「クルピが語る日本代表『私が監督なら闘莉王を使う。ボランチの軸は(山口)螢にする』」より転載)