マンチェスター・ユナイテッドで苦しんでいる香川真司。モイーズ監督のスタイルへの批判も出ているが、英国人記者は香川が出場機会に恵まれないのはそのせいではないと語る。一体、香川には何が足りないのか?
■単独で試合の流れを変えることはできない
香川真司がマンチェスター・ユナイテッドで困難な状況に陥っていることは周知の事実である。このプレーメーカーが近いうちに"レッド・デビルズ"で重要人物として認められることはないだろうし、チームから移籍することが最良の選択であるように思える。
ほとんどの日本のメディアとイングランドのメディアは、極めて保守的な指揮官の犠牲になっていると報道した。デビッド・モイーズ監督は香川を恣意的にオールド・トラッフォードから遠ざけたように思えるが、私は彼に欠点がないとは思えない。
たしかに開幕してからしばらく、香川は試合に出場しなかった。だが、彼は極めて少ないながら与えられた出場機会では、必ずしも困難を恐れず立ち向かう姿勢を見せてはいなかった。
正反対に、セレッソ大阪とドルトムント時代には、エネルギー溢れるプレーでJリーグとブンデスリーガのディフェンダーたちを混乱させていた。
それは、技術、体調、ポジションとは無関係の"信頼"の問題だ。
J2のディフェンダーを引き裂くときや、イルカイ・ギュンドアン、マリオ・ゲッツェ、ロベルト・レバンドフスキら最高のタレントに囲まれたときに香川は才能を発揮するが、単独で運命を変える能力を持っていない。
■英語力の問題。連携不足の要因か
今季の始めにロビン・ファン・ペルシーやウェイン・ルーニーが負傷離脱したときにも、香川はコーチ陣に信頼されていなかった。その理由について、モイーズがリスクを負って攻撃する選手よりも守備的な選手を好むのではないかという意見もあった。
だが、今年の1月末にフアン・マタと契約したことがそれを否定している。香川がトレーニングでどんなアピールをしても、モイーズに対して彼がユナイテッドの多くの問題を解決させる存在であることを信じさせるのに不十分だった。
モイーズの香川に対する信頼の欠如は、おそらくユナイテッドの監督に就いた昨夏までさかのぼる。サー・アレックス・ファーガソンの跡を継ぐという重圧のかかる仕事では、選手たちのピッチ上の能力に関してではなく、個々の持つチームスピリットに関して、早急に判断する必要があった。
比較的内気な香川は、非常に限られた英語力しか持っておらず、チームに溶け込むことや、連係を高めることが出来ていないように見える。
ダニー・ウェルベック、アシュリー・ヤング、アントニオ・バレンシアは香川よりも劣ったプレーヤーだ。しかし、モイーズは彼らには日本代表の10番に欠如している能力(つまり力強さ、反発力、回復力)があると感じている。
■"親善試合"でのPK失敗から見えるもの
モイーズがそのことについて最初に疑問を持ったのは、昨年7月のセレッソ大阪戦かもしれない。香川は、彼の凱旋試合であるにも関わらず、非常にナーバスになっていた。
PKを外してしまった元セレッソ大阪の8番は「焦点を合わせることが出来なかった。PKで得点していたら、あまりうれしくないだろうと思った。しっかり得点したかった。PKを蹴る瞬間には混乱していた」と語っている。
彼は、結局オープンプレーから得点を決めた。しかし、モイーズには不安が残っただろう。4万人のファンがゴールを望むスタジアムでPKを蹴る際に集中できない選手が、チャンピオンズリーグのノックアウトラウンドに対処出来るのか?
本田圭佑は、名古屋グランパスでPKと蹴るときにイライラしていたのか? 私には大きな疑問だ。
フットボールチャンネルが掲載したレヴィー・クルピ監督のコメントは、常にトップレベルでのプレーを思い描いていた強い心を持った若い頃の香川を説明していた。
香川には誇るべき成果がたしかに存在する。だが、そのレベルに留まるには更なる献身と信念が必要だ。香川のプロ意識は否定されるものではないが、後者(信念)は確かに現時点では不足していると思われる。
本田との比較(彼は自身が欠如していると非難されることはない)は便利なものだが、香川の現在の苦境に関しては、エデン・アザールのキャリアの軌跡を参考にしたほうが、より有益である。
香川がユナイテッドに加わったのと同時にチェルシーと契約したベルギー人は、香川の序列が下がり続ける一方で、プレミアリーグのスターの一人となった(ヨーロッパでの実績はほぼ同じ状況で移籍してきたにも関わらず)。
■エデン・アザールとの違い
香川がサブとして一週間を過ごしたのに対して、アザールはニューカッスルを相手にハットトリックを決めてチェルシーをリーグトップに導いた。そして、ジョゼ・モウリーニョ監督に将来のバロンドール候補だと言わしめた。
ちょうど2ヶ月前、アザールは練習を無断欠席しモウリーニョから「子供」と言われ、シャルケとのチャンピオンズリーグでメンバー落ちしていた。しかし、彼は現在スタンフォードブリッジに様々な攻撃のオプションをもたらしている(そして2012年と2013年にクラブの最優秀選手に選出されたフアン・マタを余剰戦力としてはじき出した)。
アザールが持つ自分への自信は、多くのタレントの中でも彼をキーマンとして確立した。そして、誰に聞いても彼は自らの能力に全幅の信頼を置く、カジュアルで楽天的な人間だと言う。
「動きの無いゲームでは、違いを生み出すためにトライし続けなければ行けない。攻撃の選手はそのために存在する」と、彼は昨年6月のチェルシーのオフィシャルマガジンで話していた。
「私は、自分に何が出来るか分かっている。私は、一つの動きで相手を抜き去り、チャンスを作り出すか、自ら得点する。それは、自分の能力がどんなものであるかを知ることで実行することが出来ると思う」
香川にも、それら全てが出来る。だが、彼が自分自身を信じているかどうかは、完全に別の問題だ。
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(2014年02月12日フットボールチャンネル「苦境の要因はマンU監督ではなく自分自身にあり――。英国人記者が分析する、香川真司に足りないこと」)