少子高齢化が進行するわが国を維持していくためにも、高齢者はできる限り自立して生活を続ける必要がある。これを助けるのが、自立生活支援技術と、それを用いた自立生活支援サービスである。2012年に、科学技術政策研究所(現科学技術・学術政策研究所)から出したレポートに「情報通信技術が生み出す自立生活支援サービス」というタイトルを付けたが、実は、これは僕の造語である。幸い、少しずつ社会に浸透し始めた。
イメージを示そう。独居高齢者の自宅に各種センサを設置する。その情報から、料理をしている、電気・ガス・水道・トイレなどが使用されている、夜はよく眠っている、となったら総合して「青信号」で、そのままにしておけばよい。キッチンの利用がない、玄関ドアの開け閉めがない、行動している様子が見えないなどは「黄信号」で、更に悪化すれば「赤信号」になる。そんなときには、ヘルパー・自治体職員・近隣の住民・家族などが駆け付け、高齢者を助ける。
レポート発行後、業界団体などで何回か講演したが、反応はいつも同じだった。「このビジネスには大きな可能性があるが、わが業界・わが社ではできない」
自立生活支援サービスを提供するには、機器・住宅・通信・介護など、多くの業界が協力する必要があり、その上、自治体や地域コミュニティにも参加してもらわなければならない。だから、「わが業界・わが社だけではできない」のだが、それを突破するのが経営者の力量だと思う。富裕層向けにすでに自立生活支援サービスを提供しているセコムには、先見の明がある。
自立生活支援サービスを広く普及するには、さまざまなレベルで標準化を進めなければならない。高齢者の状態は変わっていくから、センサ等をときどき付け替えなければならないが、抜き差しだけで動くように標準化されていたら便利だ。そもそも、標準化には価格低下の効果がある。サービスの等級や保証にもルールが必要だ。そこで、IEC(国際電気標準会議)は自立生活支援に関する標準化戦略の立案チームを立ち上げた。経済産業省に依頼されて、僕も参加し、システムとしての標準化委員会を設立すべきという結論を出した。
経済産業省は、システム標準化委員会に対応する国内委員会を設置しようと今、苦労している。それは、「わが業界だけではできない」という反応があるからだ。日本は一体どうしたのだろう。
今週のICPFセミナーで取り上げるモバイルヘルスケアは、そんな状況の中で実サービスに進みつつある分野である。ドコモを始め携帯各社はモバイルヘルスケアに乗り出し、アップルはOSでサポートしている。NTTは着るだけで心拍や心電図を計測できる電極素材付きの洋服を開発した。クアルコムは、血糖値を5分おきに測定し医療機関に送信して健康指導を受けるサービスのデモ映像を公開している。
すぐわかるように、モバイルヘルスケアも一社では提供できないサービスである。機器・通信・医療など、異分野の協力があって初めて成立する。モバイルヘルスケアをよい前例として、異分野で協力する自立生活支援サービスに、日本企業が本格的に取り組むように期待する。