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2018年04月02日 09時59分 JST | 更新 2018年04月02日 09時59分 JST

分断の時代に「当事者」と視聴者をつなぐ存在であろうとした有働・イノッチの「あさイチ」、さようなら。

「他人事」にしないで、「自分ごと」として考える気働き。それが現代日本では急速に消えつつある。

有働由美子アナと井ノ原快彦によるNHKの「あさイチ」。

本日2018年3月30日(金)でついに最終回を迎え、終わりを告げようとしている。

なにかと話題になることが多かったこの番組については、いろいろな人がいろいろな感想を持ち、いろいろな評価を下すことだろうと思う。そのなかで、元々はテレビの報道屋で現在はテレビ批評をする人間の一人としてひとつだけ指摘したいことがある。

この番組が主に主婦層が視聴者層という、朝の情報番組でありながら、

珍しいほど「とってもジャーナルな」番組だったということだ。

「とってもジャーナルな」というのは、本来、ジャーナリズムとして伝えるべきテーマをきっちり伝えていた、という意味である。時にはニュース番組やドキュメンタリー番組なんか以上に、共感できるように丁寧に伝えていた。

アッキーことタレントの篠山輝信は毎年、東日本大震災の被災地を定点観測のように訪ね歩いた。沖縄も時折、訪ね歩いた。そこに共通するのは、なんらかの「痛み」をかかえた人たちの立場に寄り添って考えてみようという姿勢である。

バスで!列車で!アッキーがゆく"復興の地"。岩手・宮古市田老地区、岩手・大槌町、宮城・名取市、福島・いわき市などを彼は「等身大の人間」として毎年のようにレポートしていた。

「等身大の人間」として伝える、ということは簡単なようにみえて、テレビでは難しいことだ。

アッキーはそうした芸当が自然にできるキャラクターを持った人だった。彼は父親が写真家の篠山紀信さん、母親が歌手だったタレントの南沙織さんだ。南沙織さんは沖縄出身アイドルの元祖のような人だが、ある時、幼少期に沖縄で過ごしたアッキーが自分の記憶をたどりながら沖縄本島を縦断しながら「今の沖縄」をレポートするシリーズもあって、とても共感した。

「あさイチ」は、アッキーがゆく、というシリーズに象徴されるような、「当事者」のことを等身大に、身近に伝えようという姿勢にあふれていた。

「あさイチ」の最終週となった今週も、「当事者」の視点にこだわっていた。

最終週となった3月26日(月)。テーマは「#MeToo~セクハラをなくすには」だった。

ハリウッドで大物プロデューサーによる女優らへのセクハラへの告発が相次いで"#MeToo"という声で広がった問題。ところが日本では伊藤詩織さんが元TBSワシントン支局長からの性暴力被害に遭ったと顔を出して告発するなどの動きがあるのに、大きなうねりにはまったくなっていない。なくらないセクハラ被害について特集した。

イノッチ(井ノ原快彦)が怒ったような表情でこうVTRを紹介した。

「きょうはセクハラ問題なんですが、『あさイチ』でこれまで何度も取り上げてきましたけど、ちょっとこれびっくりすると思いますが、まったく変わっていません。どうぞ!」

いっこうに変わろうとしない、"想像力のない現代社会"にこの番組はいらだってきたように思う。VTRなどで当事者の声を伝えた後にスタジオトークで専門家などの解説を伝える。さらにファックスやメールなどで届いた視聴者からの声も材料にして問題をさらに深めた議論を行う。

徹底して「当事者」や「住民」の目線に立っていたことも特筆に値する。

3月28日(水)の「あさイチ」は「沖縄の母親たちが見た基地」を特集した。

沖縄の基地問題を「子どもを育てるお母さんたちの目線」で伝えた。沖縄の普天間飛行場の近くにある保育園に米軍機からの部品が落下した事件で、保育園に子どもが通う母親たちが不安を募らせていたニュースでこの保育園に「自作自演」「捏造だ」などという誹謗中傷が殺到したという。

こうした問題を「他人事」にしないためにはどうすればいいのか。沖縄の母親だけの問題としていいのか、ということをスタジオで議論した。誹謗中傷を「卑劣」で「ありえない」ことと非難しながら、沖縄での米軍機による事故の問題をスタジオで議論していった。

沖縄の母親たちが子どもたちの身近に米軍基地の危険があることを自覚するようになる体験を「魔法が解ける」と表現をしながら、伝えることでできるだけ「自分ごと」として伝えようとしていた。保育園の保護者たちが署名を集めて政府に改善要望を手渡す場面も放送された。修学旅行生に基地問題を伝える活動をしている、沖縄に在住の識者も登場してこうした母親たちが「活動家」だとか「基地反対派」などのレッテルを貼られてしまう現実を伝えていた。

このレッテルは、昨年、TOKYO MXで放送された「ニュース女子」が悪意を持って伝えたデマや虚報、誹謗中傷などと同じものだ。同じテレビ番組でありながら、「ニュース女子」が巻き散らかしたそうした負の情報、多くはネット上で拡散される根拠のない情報を、同じくテレビ番組である「あさイチ」が丁寧に払拭しようとしている努力が見てとれた。

「子どもたちを守りたいというシンプルなことではないのか」。「きれいごとを言って基地問題をわかった気にならず、モヤモヤしたまま自分の地元に持ち帰ってほしい」

ヤナギーこと、柳澤秀夫解説委員が言った。

「沖縄の基地問題と言うけど、沖縄という言葉は僕、要らないと思う。沖縄の問題でなく、基地問題。日本の問題。今、在日米軍施設の70%が沖縄にあって、それを押しつけちゃっているんだって、そこにどうやってイマジネーションを働かせて想像できるかということだと思う」

「他人事」にしないで、「自分ごと」として考える気働き。それが現代日本では急速に消えつつある。その問題をどうやって食い止めていくのかは、基地問題に限らず、原発事故で汚染された福島の人たちの問題にもつながる根本的な課題だということが次第にわかってくる。

有働アナが視聴者から寄せられた声を読み上げた。同じ母親としてVTRに登場した母親たちに共感する声もある一方で、こんな声も読み上げた。

(有働)

「きょうの『あさイチ』を見ていて、米軍やその基地の存在は危ないという意見ばかりですが、では米軍は不要ということでしょうか?」。これに対して、隣に座っていたイノッチが「そんな話はしていない」とつぶやいた。

(井ノ原)

「きょうはお母さんたちの気持ちで、そこだけに焦点を当てて話しています」

(柳澤)

「子どもたちが生活しているところでトラブルが起きている。これをどうすればなくせるか。お母さんたちが安心して子どもたちを育てられる環境をつくるにはどうすればいいのかっていうことだけなんだよね、辺野古の移設とはまた別の問題がある・・・」

(井ノ原)

「本当にいろいろな問題があるということは今これでわかりますよね。でも、きょうはそこに焦点を当てているということはわかっていただきたいですね」

沖縄をめぐって、国民の声が分断されてしまって、マトモな話し合いができない状況が続いている。まずは「等身大」「自分ごと」として問題を考えることから始めてみていいのではないか。そうした思いがなかなか視聴者に届かないことにイノッチもヤナギーもいらだちを見せていた。

だがこの番組が「ニュース女子」的なものやそうした誹謗中傷まで含めて、「自分ごと」にしようとした姿勢は評価していい。

「ニュース女子」の問題がBPO(放送倫理・番組向上機構)であれだけ取り上げられて、放送したTOKYO MXへの厳しい意見書が出ても、そうした流れを受けた上で制作された番組がほとんどないなか、「あさイチ」があらゆるテレビ番組の問題を背負って、沖縄の米軍基地問題を最終週に扱ったようにも思えた。

有働さん、イノッチ、ヤナギーの「あさイチ」が伝えてきたことは、

柳澤さんがいみじくも口にしたように「イマジネーションを働かせて想像できるか」ということだったと思う。

沖縄の人たちだけの問題ではない。性暴力の被害者。貧困にあえぐ子どもたち。東北の被災者。福島からの自主避難者・・・。様々な「痛み」を持つ人々の問題を「他人事」にしないで「自分のこと」として捉える。それは世界中で急速に進んでいる"社会の分断"に対抗するただひとつの方法なのだろうと思う。

制作スタッフの人たちもお疲れさまでした。来週から新たなキャスターになっても、これまで「あさイチ」が築き上げてきた、この番組の独特の価値はこれからも残してほしいと切に願う。

この時代に「あさイチ」が伝えようとしてきたこと、伝えてきたことは自信を持っていいし、同じ時間を視聴者も出演者も共有できる生放送のテレビ番組として、とても大事なことだった。

たぶん最終回はアッキーもスタジオに顔を出すに違いない。きっと目にいっぱい涙を浮かべながら。

3月30日で見納めなのは本当に残念! いままでありがとう!! 

有働さん、イノッチ、ヤナギー(そしてアッキーも)! 長い間、お疲れさまでした!

(2018年3月30日「Yahoo!ニュース個人(水島宏明)」より転載)