調剤薬局で扱われる薬
「みんな顔色が悪くてギスギスした感じ。どうしたのだろう?」
風邪をひき、通い慣れたかかりつけ医の診察を受けた後、処方箋を持っていつも行く調剤薬局で薬を購入した時のことだ。
調剤薬局で受付をしている女性事務員の顔色がさえない。明らかに疲れた表情をしている。薬剤師も同様だ。しかも一人だけでない。あの人もこの人も・・・・。
調剤薬局は女性が圧倒的に多い職場だ。
受付の事務職員も調剤を行なう薬剤師も女性ばかりという薬局も少なくない。女性が疲れていたり、寝不足だったりすると、お化粧の乗りが悪くなるのでてきめんにわかる。
「ひょっとしてあの事件が関係あるのかな・・・?」
脳裏に浮かんだのは、2月10日に朝日新聞がスクープしたツルハの子会社「くすりの福太郎」チェーンの調剤薬局で相次いで発覚した「薬歴未記入」事件だ。
薬のカルテ17万件未記載 調剤薬局「くすりの福太郎」(2月10日・朝日新聞)
大手薬局チェーンのツルハホールディングス(HD=東証1部上場、本社・札幌市)の子会社が関東地方に展開する調剤薬局で、薬剤師が記録することを求められている「薬のカルテ」と呼ばれる薬剤服用歴(薬歴)を記載せずに患者へ薬を出していたことがわかった。2013年3月の内部調査で未記載は約17万件あった。根拠となる資料がないまま、一部で診療報酬を不適切に請求していた疑いがある。
薬歴を適切に管理すれば、薬を出すごとに410円の診療報酬が得られる。朝日新聞の指摘で事態を知ったツルハHDが今年1月に一部店舗を調べたところ、未記載の薬歴を確認したことから「返金や関係者の処分も含めて検討する」と話している。
この子会社は「くすりの福太郎」(本社・千葉県鎌ケ谷市)。朝日新聞が入手した内部資料によると、福太郎本社は13年3月ごろ、厚生労働省の指導が入ると想定し、薬歴の記載状況を報告するよう各店舗に指示した。その結果、同月時点で69店舗中48店舗で計17万2465件の薬歴が未記載であることが判明。結局、厚労省の指導はなく、薬歴を適切に管理する体質には改善されなかった。
その後、イオンの子会社が運営するハックドラッグの調剤薬局でも薬歴の未記載が発覚した。
これも朝日新聞の報道がきっかけだ。スクープ報道したのは、朝日新聞のなかで「調査報道」を担当する特別報道部の記者たちだ。
イオン系薬局チェーンも薬歴未記載 20店で7万8千件(2月22日・朝日新聞)
小売り最大手イオン子会社の大手薬局チェーン「CFSコーポレーション」(東証1部上場、本社・横浜市)の調剤薬局で、薬剤服用歴(薬歴)を大量に記載していなかったことがわかった。2013年6月末時点の社内調査で、20店で計7万8140件にのぼった。「くすりの福太郎」(本社・千葉県鎌ケ谷市)での約17万件に続き、薬歴の未記載問題は広がりを見せ始めた。
CFSは、神奈川県を中心に関東・東海地方など11都県で「ハックドラッグ」などの店名でドラッグストアと調剤薬局を展開。計306店のうち、調剤薬局は7都県に109店ある。
朝日新聞は、CFSの医療推進本部が作成した13年7月の営業会議用の資料を入手した。そのなかで6月末時点の「未記入薬歴滞留店舗」として20のハックドラッグの店名が、薬歴の未記載数の多い順に並んでいる。最も多い店で9402件、20位で1200件とある。
こう相次いで発覚すると、調剤薬局という業界全体がこうなのではないのか? 明るみに出たのは「氷山の一角」に過ぎないのではないか? と考えてしまうのが一般人の常識というものだ。
だが、どうもその常識は間違っていないようだ。
というのは、筆者のところにも調剤薬局の「職員」から内部告発が寄せられているからだ。
筆者はかつてテレビ局の報道記者やディレクター時代に、医療の分野を取材したことがある。その時の体験談を最近出した本「内側からみたテレビ-やらせ・捏造・情報操作の構造-」(朝日新書)にも少し書いたのだが、そのせいで時々、医療や福祉ネタで内部告発が寄せられ、今回の調剤薬局についても内部告発が寄せられている。
朝日新聞の報道で調剤薬局の業界では今、てんやわんやの大騒ぎになっているという。
しかも、そのことで多くの調剤薬局では今、大慌てで未記載の部分に情報を記入する作業が行なわれているという。
「何も書いていない薬歴をピックアップして、次々に書き加えていく作業を残業して行なっています」。
そのことで、薬剤師や事務職員の残業が相ついでいて
「体調を崩すだけでなく、精神面で変調をみせている女性職員が急に目立っています」
という。
情報を寄せてくれたのは全国的な調剤薬局のチェーンで働く20代の女性職員で、彼女が働くのはツルハ系でもハックドラッグ系でもない大手の調剤薬局のひとつだ。
朝日新聞が暴いた薬歴記載の問題は、単に書いていなかった、というだけでなく、適切に書いていなかったのに適切に書いていたかのように診療報酬(医療費)を請求していた不正請求の疑いがあることが問題になっている。
告発した女性はこうした「未記載の薬歴」を「新たに書き込む」ような行為は
「改ざんにあたるのではないか?」
と考え、
「ひょっとすると自分のやっている行為は犯罪に手を貸していることになるのでは?」
と不安を覚えるという。
長時間の残業だけでなく、そうした良心の呵責から、不安を覚えるようになり、こういう作業に手を貸していいのかを考えて夜も眠れなくなってしまった、という。
ただ、それだけではない。
この女性が教えてくれたのは「調剤薬局のヤミ」の部分だった。
今後、この問題について書いていくことにする。
また、もし調剤薬局について情報を持っている人がいたら、ぜひ教えてほしい。
「ブラック企業」の問題にも取り組んでいる筆者にも次第にわかってきたことは
調剤薬局のなかには「ブラック薬局」といわざるえないような組織的なルール違反の疑いが濃厚な薬局が存在する
ということだ。
長時間労働、体調の悪化、精神面の健康阻害・・・これらはまさに「ブラック企業」の要素とも重なり合う。
続報で今後の展開をお伝えしたい。
(2015年2月28日「Yahoo!ニュース 個人」より転載)