鯨を「食文化」から消せというのは無理難題

食文化はそうそう簡単に消えるものではありません。たしかに、鯨の消費量はかなり昔と比べれば減少してきています。反捕鯨国からの執拗な日本の捕鯨への批判もあります。

食文化はそうそう簡単に消えるものではありません。たしかに、鯨の消費量はかなり昔と比べれば減少してきています。反捕鯨国からの執拗な日本の捕鯨への批判もあります。しかし、だからといって、鯨を食べることを「奇異な食文化」としてしまうのにも違和感を覚えますし、まして鯨を神として祀ることは続けてもいいけれど、「食の部分については歴史の箱に閉まってもよいのではないか」という書いた人がいますが、ちょっとフライング気味じゃないでしょうか。

鯨を神として祀ることと食文化が別のものとして理解されているようなのですが、それは一体として継承されてきた文化なので分離できるものではありません。なんだか日本の文化や宗教観に外国の宗教観を持ち込んでしまったように感じます。

では日本が昔からクジラを食料としてだけの位置づけかといえばそうではなく、むしろ「漁業神や漂着神・『寄り神信仰』として神格化」(ウィキ)であって神としてのクジラと712年に神武天皇に捧げたとされる食としての両面から日本の歴史に脈々と続いてきたのであります。

大昔の小さな船での捕鯨は命を落とす危険をともなうもので、漁の安全を願う気持ち、そして恵みをもたらしてくれる鯨への感謝の気持ち、そして鯨をいただくことは生活文化として捕鯨地に脈々と受け継がれてきたのもです。神武天皇に捧げたかどうかよりも、もっと古くから継承されてきた伝統なのです

また鯨はもうほとんどの人が食べなくなり、食文化としては継承されていないと書いておられます。そもそもご本人も子どもの頃に食べてからは、ほとんで食べていらっしゃらないようです。

・・・一定の世代から上の人は一般的にはノスタルジーとして、あるいはもやは、珍味として食されるケースが多いと思いますがそれは食文化として継承されているとは言えないと思うからであります。

確かに鯨の消費量は戦後にタンパク源を鯨に頼った時代から言えば大きく減少しています。だからといって消費されなくなったわけでありません。しかし、近年 はとくに鯨の消費が減少してきているという傾向は見られません。供給量と在庫量の推移からみて、一定量が消費され続けていると考えられます。

鯨肉の在庫量と供給量の推移(水産庁)

なぜ鯨の消費量がかつてよりも少なくなったかですが、ひとつには給食で体験した鯨肉へのイメージ、かつて日本でタンパク源が不足していた頃の鯨肉の味のイメージがあると思います。流通経路でいたんでしまった鯨肉の味は確かにおいしくなかったのです。それはいまでは大きく改善され、鯨肉は美味しくなっています。

それともうひとつの理由は価格だと思います。鶏肉や豚肉よりも高くなってしまい、タンパク源としての競争力を失ってしまいました。

それに、鯨肉の消費は地域によって大きく偏っています。大都市圏や捕鯨地でない地方だけの話で食文化として継承されていないと考えるのは、地方に残っている郷土料理は食文化でないと言うに等しいのです。下手をすると地方文化への差別なのかもしれません。

なんなら、捕鯨ではもっとも長い歴史を持つといわれる和歌山県の太地に行って、同じことを叫んでみてください。どんな反応が返ってくるか想像してみてください。そうです、シー・シェパードの不法侵入や違法行為をまるで正義のようにあつかい、映画化された太地町です。酷い映画でした。

ところで「捕鯨」問題は、そもそも「捕鯨そのもの」を問題にするのか、あるいは「IWC(国際捕鯨委員会)」を問題にするのか、さらに農林水産省とその外郭団体である「日本鯨類研究所(鯨研)」を問題にするのかの3つの視点が必要だと思っています。

「IWC(国際捕鯨委員会)」は、歴史的に変節してきています。最初は鯨の資源保護のために乱獲を防ぐために発足したものでした。それが、やがてベトナム戦争での非人道的な武器使用への批判をかわすために、捕鯨を批判するプロパガンダの舞台になり、さらに今では畜産輸出国のロビー活動の場となってきています。捕鯨を許せば、畜産の輸出が減るリスクを抱えてしまうからです。

もうひとつは、農水省とその外郭団体である「日本鯨類研究所(鯨研)」の問題です。「調査捕鯨」の名目で商業捕鯨を続けることが、反捕鯨国と捕鯨国のもたれあいの構造を生み出したのではないでしょうか。国際司法裁判所が南極海での調査捕鯨を条約違反だと認定したことに、安倍総理が「判決は大変残念で、深く失望している」と発言し、めずらしく事務方を叱責したというニュースがでていました。農水省の人たちの見通しの甘さや能力が問われたのです。

そもそも「調査捕鯨」という名のもとに、反捕鯨国と捕鯨国が互いにもたれあうという構図、それに反対して資金源を得る反捕鯨団体の温床ができあがってきてしまっていたことは問われなければなりません。

調査捕鯨を請け負っている「共同船舶」には、鯨研経由で5億円の国庫補助金が付けられているのに加え、2008年鯨研収支報告によると、農水省の外郭団体である「海外漁業協力財団」から51億円の無利子融資を受けている。

調査捕鯨による鯨肉の売り上げは年間約60億円で、これら関係団体は多くの天下りを受け入れている。

本来は切り口を変えるべきだったのですが、膠着状態を維持することが利権を守ることになってしまっていたのではないかと疑わせるのです。

まあ、食文化で目くじらを立てるというのは無粋なので、ブログを書かれた「ヒロ」さんには、ぜひ太地町にご一緒して、格別の鯨肉をいただくことを提案します。きっとその美味しさには驚きがあるはずです。美味しい鯨肉を堪能して、その後になぜ太地町の人たちが鯨を奉ってきたのかの歴史も学んでいただければと願うばかりです。

それにしても楽天が鯨肉販売を禁止したということですが、それよりは楽天で買うと、配送されてくるのが数日後という、場合によってはもっと遅いという、ライバルとの格差のほうこそまっさきに改善してもらいたいものです。

(2014年4月4日「大西 宏のマーケティング・エッセンス」より転載)

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