■ 政府の失政と汚職で数百万の生命が危険にさらされる
ハラレの水道・衛生サービスは破綻しているのに、政府は問題解決に動いていない。多くの地区で、飲料や入浴に用いる水がなく、街頭に汚水が流れ、下痢や腸チフスが発生している。再びコレラが大流行する恐れもある。
ティセケ・カサンバラ、南アフリカ代表
(ハラレ)-ジンバブエの首都ハラレは、水と衛生が危機的な状態にあり、住民数百万人が水系感染症の危険にさらされていると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、本日公表した報告書で述べた。死者4,000人以上、感染者10万人以上を数えたコレラ危機から5年が経過するが、伝染病の大流行を許した状況は、ハラレ郊外の人口密集地帯に根強く存在する。
報告書「水をめぐる危機:ジンバブエ首都での水道管破裂、汚染井戸、野外排泄」(全60ページ)は、住民が水道・衛生サービスをほとんど利用できず、汚水で汚染された、浅くて不衛生な井戸で飲み水を確保し、野外排泄を行わざるを得ない実態を詳述している。こうした状況により、飲み水、衛生、健康などに対する住民の権利が侵害されている。今回の報告書は、2012年~13年のハラレでの調査に基づくものだ。郊外の人口密集地8地区の住民80人(大多数は女性)への聞き取りなどが実施された。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ南アフリカ代表のティセケ・カサンバラは「ハラレの水道・衛生サービスは破綻しているのに、政府は問題解決に動いていない」と指摘。「多くの地区で、飲料や入浴に用いる水がなく、街頭に汚水が流れ、下痢や腸チフスが発生している。再びコレラが大流行する恐れもある。」
多くの住民の話によれば、自宅に水がないため、1日に5時間も井戸で待たされ、行列が特に長くなった場合には、暴力事件が頻繁に起きている。こうした井戸(うち200ヶ所は、コレラ危機の際に国際機関が掘ったもの)の水が最も安全だ、と住民は考えているが、ハラレ市水道局が検査した井戸の3分の1は汚染されていた。
住民によると、水道の水がたまにしか出なかったり、汚染されていることも多いが、市から料金が請求され、支払いが滞れば水道は止められてしまう。
住民からは、破裂した下水管から汚水が自宅や通りに流れ出す現状が詳しく説明された。しかも、そこは子どもたちがよく遊ぶ場所だ。水が不足し、使える屋内トイレや公衆トイレが足りないために、屋外で用を足さざるを得ないこともある。
ある母親は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、「家全体でトイレは1つしかないのに、ここには21人が住んでいる。水洗トイレはあるが、水が流れてこないので、バケツで流している。水がない時は、茂みで用を足している」と述べた。
地方政府と中央政府の汚職と失政が、状況を悪化させている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。例えば、ハラレ市の予算執行ガイドラインは、水道事業の収入の大半をシステムの維持改善に充てると定めている。しかし実際には、別の用途にも使われており、そのことを当局者自身が認めている。結果として、水処理薬品の購入など、上水道システムの主要な部分には必要なだけの資金が回らず、同市が飲み水を十分に供給できない事態を招いている。
ジンバブエでは1980年代後半までは、人口の85%に飲み水を供給する上水道システムが運営されていた。ハラレに存在する上下水道の配管網はその名残で、多くの住民が現在もこれに接続している。しかし、給水管インフラの維持は行われていない。インフラの悪化が人口の大幅な増大と相まったため、飲み水の供給は滞りがちになり、しかも汚染されていることが多い。
前出のカサンバラ代表は「すべての人に、必要最低限の飲み水にアクセスする権利がある」と指摘。「政府が水道システムの維持に失敗し、水道料金を払えない人の水道を止めているため、人々は、汚染水道水や不衛生な井戸水を飲まざるを得ない状況にある。」
政府は、ハラレにおける水道・衛生サービスの危機的状況を改善し、様々な対策を講じるべきである。たとえば、コストのかからない上下水道整備戦略に資金を投じるべきだ。また公衆トイレやくみ取り便所を設置し、住民が汚染された水源を使わなくて済むよう、井戸の掘削と管理を行うべきだ。市の水道料金を所得スライド制にし、収入の少ない家庭でも支払うことのできる料金にすべきだ。また、いかなる家庭についても、料金未払いを理由に供給を止めるべきではない。
政府は2013年初め、中国から1億4,400万ドル(約144億円)の借款を行い、中国人技術者46人をハラレに招き、下水処理プラントの改善を中心に、水道インフラの改良を行う、と発表した。政府は、この借款でハラレの水道危機は解決されると宣伝しているが、借款の条件は公開されていない。政府を批判する側は、この借款が、上下水道分野における透明性の欠如と、汚職を示すものとしている。
ジンバブエ政府は、国際法により、水道・衛生サービスに対する権利を守る義務を負うと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘。2010年に国連総会が、水道・衛生サービスに対する権利の確立に向けた決議を採択した際、ジンバブエは賛成票を投じた。この権利を認めることは、水道・衛生サービスが、健康だけでなく、発展の上で鍵となる複数の側面(ジェンダー平等や教育、経済成長など)にとっても、極めて重要だと認めたことを意味する。ジンバブエ憲法と国内法では、水に対する権利と、環境保護を通じた、衛生に対する権利が保護されている。今年5月にジンバブエは、水に対する明確な権利も記された、新憲法を承認した。
前出のカサンバラ代表は「ハラレの水道・衛生システムは、数十年におよぶ無為無策と、今も続く失政や汚職によって破壊されている」と指摘。「2008年のコレラ大流行の悲惨さは、はっきり目に見えるものだったが、現在もなお、それよりも目立たないながらも、苦しみや、死、人間の尊厳の否定が続いている。」
(この記事は、「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のサイトで11月19日に公開された記事の転載です)