可愛らしさって、ワガママですか?

病気や障害がある子供も「かっこいい」「かわいい」を追求したい。

病気や障害がある子供も「かっこいい」「かわいい」を追求したい。そんな思いから、「チャーミングケアラボ」を2018年1月から始めました。

チャーミングケア

作ってねと言われた、カテーテルカバーが発端に

スタートは、わたしの息子が小児白血病になった3年前にさかのぼります。

私の息子は、小児白血病で足かけ1年、病院に入院しました。 息子は、CVカテーテルを体に埋め込んでいたのですが、そのカテーテルのカバーは、保護者が作るよう病院から求められました。市販されていなかったのです。

入院の付き添いで大変な時期に保護者に手作りを求めることに理不尽さを感じ、入院中の息子のベッドサイドでショッピングサイト『マミーズアワーズショップ』を立ち上げ、付き添い中でも簡単に作れるカテーテルのカバーの制作キットを売り出しました。開始から1年半ほどで累計200個以上を販売しています。

マミーズアワーズプロジェクト

制作キットを販売する一方、新たな思いも生まれてきました。

カテーテルカバーをマスクや絆創膏のように、使い捨て(ディスポーザル)ができるようになれば、もっと多くの人たちに届くだろうし、手作りする手間が省けて選択肢が増えるーーと感じたのです。

まずはカテーテルカバーのユーザーの声を集めようと、多くの人の力を借りながら、カテーテルのカバーが治療現場でどう扱われているかを尋ねるアンケートを実施、200人以上に回答してもらいました。回答からは大半の医療機関で手作りを求められ、古くなってはその都度手作りしている様子が覗えました。

その結果をもとに、カテーテルの大手メーカーと使い捨ての製品ができないか意見を交換しましたが、市場が小さくコスト高になりやすいことから、事業化は想像以上に難しいことが分かりました。

病気になったら可愛い&かっこいいはNG??

というわけで、カバーを使い捨てタイプに製品化していくことはあきらめざるを得なかったのですが、その過程で、気づいたことがあります。

小児がんは生死を伴う重い病気なので、治療が最優先です。カバーからパジャマ、洋服まで、身につけているものを「おしゃれ」「かわいい」「こだわりのデザインにしたい」という感覚は、治療現場では必要とされていない風潮があります。

でも、入院当時小学2年生だった私の息子ですら、自分なりのこだわりを持って、「好きなものは好き、気に入らないものは気に入らない」と、はっきりと伝えていました。病気の前と後で変わりなく、自分の個性として子供なりのファッションを楽しんでいたと思います。

たとえば、息子のカテーテルカバーは、付き添い生活で作る余裕がない私の代わりに、友人が作ってくれたものを最初は使っていたのですが、友人のカバーはとてもセンスがよく、ブランド品のような生地でした。

手術後間もないの息子は、自分の体に埋め込まれたCVカテーテル自体は「これ...邪魔やわ。すごい嫌やねんけど」とかすれ声で言っていましたが、カバーの布地のデザインは気に入ったらしく、看護師さんに「これな。ブランドもんやで。すごいやろ?」と見せるようになったのです。

このできごとがあったので、ある日「病気になっても『かわいい』『かっこいい』は必要なんじゃないか?」と思って、息子に「なぁ、病気になったら服とか髪型とかそういうのどうでもよくなったりするの?」と聞いたことがあります。

すると、息子は「そんなわけないやん!髪の毛がなくなるの嫌やし、院内学級あるから服も毎日替えないと汚いと思われるやん」と答えました。

その言葉に、あぁ、子供にも外見や身だしなみのケア(アピアランスケア)は必要なのだ、と改めて感じました。同時に、これは、がんの子どもに限った話ではなく、病気や障害を持つすべての子供に言えることなのではないか、と思いました。

カテーテルカバーをお見舞い品として販売し始めた頃から、この件についてはパートナーとして歩んできた障害児や医療的ケア児向けの洋服店「ひよこ屋」の岩倉絹枝さんと、こうした考えを改めて共有し「マミーズアワーズプロジェクト」の目標は、「可愛いを提供すること」だと定まりました。

チャーミングケアラボ

おとなの分野では「アピアランスケア」という考え方が浸透し始めています。アピアランスケアというのは、薬の副作用などで髪が抜けたり、切除手術で身体の一部を失ったりしたがん患者の外見的な変化の問題を解決するための新たな支援の考え方です。

すでに色々な分野でのアピアランスケアがあるのですが、子供にはまだ、そういう考えが浸透していません。障害児や医療的ケア児などへの外見的ケアやメンタルケア・子に寄り添う保護者へのケアなどについた名前すらありません。

子供が病気になったり障害を持ったりすると、その前から来ていた服やグッズを使いやすくするために「リメイク」して活用しようとします。手足を自由に動かせる子供向けに作られた服などをそのまま身につけることが難しいからです。なので「ないものは作る」という発想で、部分的にリメイクをして病児や障害児向けのものとして活用している保護者が多いのが現状だと思います。

でも最初から、病児や障害児のために作られた、かわいいデザイン、かっこいい服を追求できないのかと思うのです。健康な子供ならファストファッションからデパートで売っているような高級服も選べるのに、病気や障害を持ったからといって、ハンドメイドのフリーマーケットだけでしか買い物ができないような感覚は、なんか違うんじゃないかなと感じるのです。

病児や障害児のために追求する「かわいい」「かっこいい」は、おとなの「アピアランスケア」とはちょっと違います。だったら違う言葉を作ればいいのでは?と考え、子供の可愛らしさ・子供らしさを尊重するケアという意味を込め「チャーミングケア」と名付けました。

どんな子どもにも可愛らしさがあっていい!

チャーミングケアというネーミングを決定的にした方が、もう一人います。それは病児や障害児向けの専門のブランド「パレットイブ」の奥井のぞみさんです。

奥井のぞみ

奥井さんは、重症心身障害を持つ息子さんを育てているなかで、我が子のために作る可愛い洋服に親の役割を見出され、パレットイブを立ち上げた方です。

奥井さんに会ったり、お宅にお邪魔させていただいて肌で感じたのは「どんな子どもにも可愛らしさがあっていい。治療は大切だけど、やっぱり自分の子どもに可愛らしくあってほしいし、子供だって『かわいい』『かっこいい』を望んでいるのだ」ということです。

子供の可愛らしさを追求したいという気持ちはボーダーレスで、病気や障害で線引きなどしなくても、当然にわき上がる感情であって、ごく当たり前のことだと考えたからです。

そんな「当たり前」を当たり前にしたくて「チャーミングケアラボ」を立ち上げました。

全国に目を向けると、奥井さんのように「かわいい」「かっこいい」を追求したケア用品や服を作っている人は、ほかにもいます。そんな人たちの商品を登録したポータルサイトを作ったり、座談会で「チャーミングケア」の取り組みを共有したりして、外に発信していけたらと思っています。

試行錯誤の日々ですが、様々な人たちから協力してもらったり、ヒントをもらったりしてきました。その過程で生まれた「どんな子どもも可愛らしさを追求していい」というチャーミングケアの世界観を、もっとたくさんの人たちと共有できたらと思っています。

(2018年4月25日「みんなのチャーミングケアラボラトリー」より転載)