地球温暖化ガス排出削減に舵を切ったアメリカ、オバマ大統領

米政府は、発電所が排出する二酸化炭素を2030年までに2005年比で30%減らす新たな削減目標を示す方針を固めた。州ごとに目標値を定め、達成のため省エネ、原発や太陽光発電の新設、石炭火力を二酸化炭素発生量が比較的少ない天然ガス発電に切り替える。一方、これら施策で可能となる削減した排出量取引の活用も認める

6/2(現地時間)のBBC News一面トップはウクライナ情勢でもなければ南シナ海での中越紛争でもなく、アメリカが今後2030年までに2005年比で地球温暖化ガスである発電所が排出する二酸化炭素を30%削減するという内容であった。ポイントのみを要約すると「米政府は、発電所が排出する二酸化炭素を2030年までに2005年比で30%減らす新たな削減目標を示す方針を固めた。州ごとに目標値を定め、達成のため省エネ、原発や太陽光発電の新設、石炭火力を二酸化炭素発生量が比較的少ない天然ガス発電に切り替える。一方、これら施策で可能となる削減した排出量取引の活用も認める」。

オバマ大統領が地球温暖化ガス排出削減に舵を切るに至った背景

PRESIDENT OBAMA'S CLIMATE ACTION PLANが最も分り易いだろう。重篤な旱魃に悩むアメリカの指導者としてこれ以上の二酸化炭素(地球温暖化ガス)の排出増加が許されず、削減に向け舵を切る事が待ったなしであると主張している。特に15pageに個別に明記されている、「Conserving Land and Water Resources」、「Maintaining Agricultural Sustainability」、「Managing Drought」、「Reducing Wildfire Risks」、「Preparing for Future Floods」を一読すれば、アメリカ経済、アメリカ社会、アメリカ国民の生命・安全、を守るためには環境保全が最早待ったなしの状況であり、地球温暖化ガス排出削減がその一丁目一番地である事が容易に理解出来る。

発電効率の悪い石炭火力は順次廃棄される

今回アメリカ政府より公表された発電所が排出する二酸化炭素削減目標を達成するためには、発電効率の悪い石炭火力から順次廃棄せねばならない。問題は既存石炭火力の停止と廃棄により減少する発電量をどうやって補うか? である。

効率の悪い石炭火力を廃棄し、原発を新設する

効率の悪い石炭火力を廃棄し、地球温暖化ガスを全く排出しない原発に置き換える事は計画の本命に位置するはずである。原発の新設となれば、対応可能な企業は世界的に見て、日立・GE(米)、東芝・ウエスティングハウス(米)、三菱重工・仏アルバ(仏)、コンソーシアムくらいで、日立・GE(米)、東芝・ウエスティングハウス(米)いずれかのコンソーシアムに発注すればアメリカ国内の雇用に直接繋がる。

発電効率の悪い石炭火力を廃棄し、最新鋭石炭火力を新設する

石炭火力を廃棄し原発に入れ替えた場合、どうしても石炭鉱山が閉山になるとか、それに伴い失業の様な社会問題が発生してしまう。従って、地球温暖化ガス排出削減に付随する副作用を軽減するために、効率の悪い石炭火力を廃棄し、最新鋭石炭火力を新設するという施策も有力である。一例として、三菱重工業の石炭ガス化複合発電及び 三菱重工業が、米国大手電力会社 サザンカンパニーと共同で進めてきた石炭火力発電所排ガスからのCO2回収・貯留実証試験で取得ノウハウ はアメリカ側の要求を満足させる事になると思う。

太陽光発電の採用は極めて限定的

地球温暖化ガス排出には無縁で且つ地下資源に依存しない太陽光発電は一見極めて魅力的に映るのは事実である。従って、今後も石炭火力廃棄に伴う代替案の一つとしての参照は継続すると思われる。しかしながら、太陽光発電が上述した原発新設や最新鋭石炭火力新設の如きメインメニューになるとは全く思えない。何故だ? と疑問を持たれる読者も多いかも知れない。この点に関してはドイツを代表する名門雑誌のSpiegelが簡潔に説明してくれているので、Solar Subsidy Sinkhole: Re-Evaluating Germany's Blind Faith in the Sun 及び、Part 2: Solar Energy's 'Extreme and Even Excessive Boom' を参照願いたい。

EUがアメリカに追随し更なる地球温暖化ガス排出削減に舵を切るのは確実

EUは元々地球環境の悪化を危惧しており、地球温暖化ガス排出削減にもアメリカとは比較にならぬくらい熱心に取り組んで来た経緯がある。一方、国連(IPCC)の第5次評価報告書第3作業部会報告書 は地球温暖化ガス排出削減が待ったなしの状況である事を告げている。こういった状況であれば、EUが地球温暖化ガス排出削減にドライブをかける事は容易に想像出来る。

お粗末極まりない日本の取り組み

地球温暖化ガス排出削減に対する欧米先進国の取り組みは上述の通りである。さて、我が国日本はどうなっているのだろうか? 読売新聞が伝えるところでは、原発停止で温室ガス、2年で8%増...政府白書 である。率直にいって、これは世界の潮流に逆行しており、これでは話にならない。こんな事を継続していては、日本は西側先進国から孤立してしまう。一方、経産省が公開したこの資料が、この事の背景と経緯を明確に説明している。

原子力発電所の運転停止で、全国の電力会社が出す温室効果ガスが10年度から2年間で約30%(1億1200万トン)増えたため、日本全体の排出量も約8%増の12億800万トンに膨らんだことを指摘。「(原発停止が)地球温暖化問題への対応に困難をもたらしている」と強調した。「原子力政策の再構築」との目標も掲げ、原発再稼働を進める方針も明記した。

電力会社の排出量が増えたのは、発電時に二酸化炭素を出さない原発の代わりに、大量排出する火力発電がフル稼働したことが要因だ。

地球温暖化ガス排出削減がアメリカに取って対中交渉第三のカードになる

従来、アメリカは対中交渉において「人権」と「為替」を二枚カードとして活用して来た経緯がある。一方、地球温暖化ガス排出削減に関してはアメリカ自身が2004年まで世界最大の排出国であり、とてもではないが他国を非難出来る状況ではなかった。しかしながら、今後アメリカが劇的な排出削減に成功したら状況は一変する。アメリカはチベット人、新疆ウイグル自治区でのウイグル人虐待などの人権問題、中国共産党が恣意的に管理する中国通貨と並び、好き放題に地球温暖化ガスを排出し地球環境を毀損する中国を手厳しく批判する展開となる。日本がアメリカの同盟国としてアメリカに協調し、地球温暖化ガス排出削減に向け舵を切るべきは当然である。安倍政権には是非とも真摯に取り組んで貰いたい。

※出典:本日参照のBBC News記事 US unveils sharp curbs on coal power plants

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