『ブルージャスミン』―最後は"人格" 宿輪純一のシネマ経済学(41)

筆者が好きな監督の一人であるウディ・アレンの作品。本作でケイト・ブランシェットは2013年度アカデミー主演女優賞を受賞した。

『ブルージャスミン』(2013年アメリカ/Blue Jasmine )

筆者が好きな監督の一人であるウディ・アレンの作品。本作でケイト・ブランシェットは2013年度アカデミー主演女優賞を受賞した。

ウディ・アレンは1935年生れの78歳。身長160センチと小柄ながらパワフルで、約40年の映画生活で、監督や出演した映画も56本とかなり多い。アカデミー賞も『アニー・ホール』で監督賞と脚本賞を受賞したほか、脚本賞は『ハンナとその姉妹』と『ミッドナイト・イン・パリ』でも受賞。ノミネートは24回と最多。ニューヨークを中心に皮肉なテーマが多かったが、この10年ぐらいはヨーロッパで映画を製作し、どちらかといえばノー天気なものが多かった。本作は珍しくアメリカに戻り、しかも、西海岸が舞台となっている。

ケイト・ブランシェットは69年オーストラリア生まれ。『エリザベス』(96年)で評価され、アカデミー賞も『アビエイター』で2004年度 助演女優賞を受賞した。 実はオーストラリア出身(育ち)で、ハリウッドで活躍している俳優が多い。ケイト・ブランシェットの他にも、ニコール・キッドマン、メル・ギブソン、ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、ナオミ・ワッツなどなど。

主人公ジャスミン(ケイト・ブランシェット)は、夫ハル(アレック・ボールドウィン)とニューヨークでセレブな生活を送っていた。しかし、全てを失って無一文になる。

仕方なく、サンフランシスコに暮らす妹ジンジャー(サリー・ホーキンス)のアパートに身を寄せる。ジャスミンはジンジャーをいつも馬鹿にしていたが仕方ない。過去のセレブ生活に憧れがのこり、毎日浮いていたジャスミンであるが、お金持ちの男性と出会って、見えを張ってうそをついてしまうなどして、全てうまくいかない・・・・。

ジャスミンは転落人生の中でもがき苦しみながら、精神を病んでいく。うまくいかない理由は、彼女が持って生まれ、さらに過去のセレブの生活で強化されたプライド、しかも実際の彼女とは"乖離"した高すぎるプライドである。人を馬鹿にしたり、嘘をついたりする。その"乖離"が彼女自身を苦しめる。

経済でもこの"乖離"こそが問題になる。実際の状況との乖離を"無理"に埋めようとするからである。例えば「通貨危機」の原因の一つは、実際の経済と為替レート、特に固定された為替レートとの乖離を埋めようとすることにある。欧州通貨危機やアジア通貨危機の原因の一つである。しかも、最近では、先進国を中心として量的緩和のよってグローバルマネーが数倍に膨らんでおり、破壊的なエネルギーは強まっている。

現在の日本も「財政赤字」の拡大が止まらない。すなわちそれは国債の大量発行となる。通常、国債の大量発行は国債の値崩れ、つまり金利の上昇要因となる。現在、新発債の7割を中央銀行である日本銀行が購入している。通常起こるはずの金利の上昇を"無理"に埋めているような気がしてならない。その無理はツケとなっていくのではないか。

このジャスミンであるが、人格に問題があり、見ている人に同情をさせない。この人格や態度というものは実は大事である。政策でも、経営戦略でも、嫌な奴の案には賛成しないのではないか。個人的な話であるが、筆者はゼミ員、特に幹事には、経済や金融も教えているが、「最後は人格」ということを徹底的に教えている。

「宿輪ゼミ」

経済学博士・エコノミスト・慶應義塾大学経済学部非常勤講師・映画評論家の宿輪先生が2006年4月から行っているボランティア公開講義。その始まりは東京大学大学院の学生さんがもっと講義を聞きたいとして始めたもの。どなたでも参加でき、分かり易い講義は好評。「日本経済新聞」や「アエラ」の記事にも。この2014年4月2日の第155回のゼミで"9年目"に突入しました。

Facebookが活動の中心となっており、以下からご参加下さい。会員はなんと6000人を超えました。https://www.facebook.com/groups/shukuwaseminar/

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