『スティーブ・ジョブズ』―「イノベーション」に必要なもの/宿輪純一のシネマ経済学(94)

彼の社員や家族の人といった周りの人との激しい対立・喧嘩はすさまじく、見ている方が痛い。

(STEVE JOBS/2015)

2011年に56歳で死去したスティーブ・ジョブズの伝記映画。彼の伝記映画は2013年に製作されたアシュトン・カッチャーが主演の作品もあった。今回の作品が違うのは、ウォルター・アイザックソンの原作をベースとしながらも、1984年のMacintosh、88年のNeXT Cube、98年のiMac、の3回の製品発表会(プレゼンテーション)の直前"のみ"を描いていく、極めてシンプルな構成になっている。

アカデミー賞受賞の『スラムドッグ$ミリオネア』などの鬼才ダニー・ボイルが監督、スティーブ・ジョブズには『それでも夜は明ける』や『X-MEN』シリーズのマイケル・ファスベンダー、共演には『愛を読むひと』などのオスカー女優ケイト・ウィンスレットで良い役回りをこなす。さらにセス・ローゲンやジェフ・ダニエルズなどが脇を固めている。

本作品は、彼の3回のプレゼンテーション、それも直前の40分×3で、上映時間も約120分となっている。多分、皆がまず感じることは(一般的に知られていることであるが)、彼がいわゆる「アスペルガー症候群」であるということではないだろうか。この病気は自閉症の一種で、社会性やコミュニケーションに問題がありながらも、素晴らしいセンスとやる気がある。

映画界も含め、そのようにいわれる人も多い。例えば、スティーブン・スピルバーグ、ビル・ゲイツ、アルベルト・アインシュタイン、トーマス・エジソン、日本でも織田信長、坂本龍馬もそうだといわれている。一般的に「天才」といわれている方々である。 

彼の社員や家族の人といった周りの人との激しい対立・喧嘩はすさまじく、見ている方が痛い。この辺はいわゆるスティーブ・ジョブズのイメージだ。さらに、彼は出生の不安(シリア人の実父)も悩み始める。何とかしようと思っても、なかなかうまくいかない。彼には前進するしかないのである。

特に「イノベーション(Innovation)」と呼ばれる偉業を成し遂げるときに必要なのは、まさに「センス」と「やる気」である。センスには「閃き(ひらめき)」という言葉を聞くが、それは努力し四六時中、考えている時にふっと出てくるものである。

筆者は、経営学も教えるが、組織とイノベーションの関係は実は難しい。特に大企業は難しい。それはイノベーションを進めると、いままでの商品・業務・組織がダメになる可能性が高まるからである。その結果、イノベーションを潰すことになる。それを「イノベーションのジレンマ」というが、逆に言うとスティーブ・ジョブズのような周り(組織)を気にしない性格(病気)だからこそイノベーションを生み出すことができたのではないか。

そして、新しいイノベーションを成し遂げていくことは実は困難であるが、そのやる気こそ大事になる。一般的に、経営でも生き方でも、無駄のないように、効率的であるように進めていくことが望まれる。しかし、新しいイノベーションを成し遂げていくことは前例もなく無駄であるかもわからない。効率的などを考えるよりも、強いやる気こそ大事になのである。 

フィンテックも日本の大手金融機関が対応しはじめたが、まさに「イノベーションのジレンマ」になる可能性がある。日系航空会社がLCCを別会社で立ち上げているが、同じように「完全別会社」にすることが成功のポイントと考える。

また、スティーブ・ジョブズをはじめ、人間は完全ではない。しかし、神様はマイナスだけではなく、プラスも必ず与えてくれる。そして、彼のようにプラスの面が優位であることが多いのである。

(2016年2月12日公開)

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