私は「白金」派だ。
週末、1枚の写真に写ったドレスの色が「白と金」か、それとも「青と黒」なのか、グローバルにネットを沸騰させる大騒ぎになった。
フェイスブックなどで、ボレロと合わせた横縞のドレスの写真を目にした人も多いだろう。
この騒ぎを最もうまく捉え、同時にアクセスしたユーザー数のこれまでの記録50万人を上回る、67万3000人というトラフィックの新記録を打ち立てたのは、バイラルメディア「バズフィード」だった。
これは、バイラルを語る上での、〝特異点(シンギュラリティ)〟とまで言われる出来事となった。
●ミュージシャンの投稿
ことの発端は、ケイトリン・マクニールさんという21歳のスコットランドの歌手兼ギタリストが、26日に簡易ブログサイト「タンブラー」に投稿した1枚のドレスの写真だった。
バズフィードによると、マクニールさんはスコットランドのヘブリディーズ諸島を拠点にする「カナック」というバンドのメンバー。
マクニールさんは、スコットランドのコロンゼー島で開かれる友人の結婚式で演奏をすることになった。
式の1週間前、花嫁の母親が新郎新婦のもとに、ウェディングドレスの写真を送ってきた。
ところが新郎新婦は、そのドレスの色が白と金なのか、青と黒なのか、判断がつきかね、アドバイスを求めて写真をフェイスブックにあげる。
マクニールさんも、バンド仲間とドレスの色について議論するが、決着つかず結婚式本番を迎える。
そして、結婚式は無事終了。マクニールさんは26日になってドレスの色のことを思い出し、タンブラーに写真を投稿する。
これが30分で500の「いいね」を獲得する人気投稿となる。
●バズフィードが参戦する
ネットの騒ぎは見逃さないバズフィードは、早速この騒動をキャッチする。
この間の舞台裏を、昨年10月に新設の「パブリッシャー(発行人)」に就任したダオ・グウェンさんが公式ブログで報告している。
グウェンさんは、グロース/データ担当副社長としての在任2年間で、月間ユニークユーザーを4倍、1億5000万人にまで増やした立役者。その「パブリッシャー」就任はメディアで話題を呼んだ。
グウェンさんのブログ報告によると、騒ぎを捉えたバズフィードのソーシャルメディア担当は、まずツイッターに投稿。
かなりのクリック率だったため、写真をフェイスブックに投稿してみるが、これは音沙汰なし。さらにリンクを投稿して2、3分様子を見るが、大したエンゲージメントもなく、削除。でも、ツイッターでは上り調子だったので、フェイスブックに再投稿すると、一気に火がつく。
1日足らずで10万シェア、2万4000コメント、2万1000いいね、に。
そして、バズフィードのサーバーへの負荷が、危機的状況になる。
サーバーの処理待ちデータの負荷を示す「ロードアベレージ」の数値(0に近ければ近いほど負荷がかかっていない)が、連続して50前後を示し、新しい記事をアップロード出来ない状態になる。
午後9時には同時アクセス数が45万に。これは、1年前に記録した最高値、43万アクセスを突破するトラフィックだった。
バズフィードは、クラウド(AWS)のサーバー増強に追われる。
その後もアクセスは増え続け、50万を超え、そしてピークの67万3000に達する。
結局、サーバー容量を40%増強することで、トラフィックの集中を乗り切ったようだ。
関連記事8本のアクセスは4100万ページビュー。最初の記事だけでも2800万ページビューで、うち2200万がモバイル。
白金か青黒か、というアンケートにも280万の投票があったという。
確かに、週末、知り合いにスマートフォンの写真を見せて、「どっちに見える?」という会話は、大きくバイラルしそうではある。
●大手メディア、著名人にも広がる
この騒ぎに乗ったのは、バズフィードだけではない。
ニューヨーク・タイムズやウォールストリート・ジャーナル、USAツデー、さらにCNNやBBCなど、大手メディアもこぞって取り上げた。
著名人もこの種の騒ぎには敏感だ。
歌手のテイラー・スウィフトさんは青黒派。
モデルのキム・カーダシアンさんは白金派、夫のカニエ・ウェストさんは青黒派。
民主党のクリス・マーフィー上院議員は、こういう。
私は三つのことを知っている:1)オバマケアは機能している;2)気候変動は現実問題だ;3)ドレスの色は金と白。
同じ民主党のエリック・スワルウェル下院議員は「青と緑」。
こちらも民主党のマーク・タカノ下院議員は、青黒の決議案をつくる、と。
バイラルメディア「ゴーカー」などの活躍で知られるバイラルの専門家、ニーザン・ジンマーマンさんは、これは冗談などではなく、バイラルの「特異点(シンギュラリティ)」だとまで言っている。
●実際は青と黒
念のためだが、正解は「青と黒」だそうだ。
細かいメカニズムはニューヨーク・タイムズなども解説しているが、「錯視」という目の錯覚が引き起こすものらしい。
話題となったドレスは、ローマン・オリジナルズというイギリスのブランドのもので、同じドレスに注文が殺到しているようだ。
急遽、トップページのデザインも変更。
「#THE DRESS」のハッシュタグとともに、このドレスを掲載。
「SHOP NOW(お買い物をどうぞ)」としていたボタンも「DEBATE NOW(さあ、議論を)」に変えて、ソーシャルメディアの文脈への対応も怠りない。
問題のドレスの値段は、50ポンド(9200円)だった。
(2015年2月28日「新聞紙学的」より転載)