若者向け動画メッセージアプリ「スナップチャット」、次に狙うのは「米大統領選」

若者向けの、自撮り動画などのメッセージアプリ「スナップチャット」が、2016年の米大統領選の選挙運動を報道するためのジャーナリストの募集をしていることが、ウオッチャーの話題になっている。

若者向けの、自撮り動画などのメッセージアプリ「スナップチャット」が、2016年の米大統領選の選挙運動を報道するためのジャーナリストの募集をしていることが、ウオッチャーの話題になっている。 「スナップチャット」はすでに今年初め、既存メディアも参加するニュースチャンネル「ディスカバー」を開設しており、ニュースへのアプローチの試みはあった。

ただ、米大統領選といえば米国のジャーナリズムの主戦場だ。 「スナップチャット」はジャーナリズムで何をしようとしているのか。

●スナップチャットの募集広告

話題を呼んでいるのは、「スナップチャット」が公開した求人広告だ。

「コンテンツ・アナリスト―政治とニュース」と題した求人広告には、こうある。

スナップチャットではニュースコンテンツ・チームの立ち上げメンバーを募集しています。 募集しているのは政治ジャンキー(中毒)やニュース愛好家の人材。ニューヨーク市にある私たちのチームに参加し、「アワーストーリー」に投稿されるユーザーのコンテンツのチェックや、スナップチャットに掲載する2016年の米大統領選などのイベント取材をお願いします。

アワーストーリー」とは、あるイベントに参加しているユーザーそれぞれが、イベントの動画投稿ができ、それをアグリゲートして公開するスナップチャットのサービスで、いわばユーザー投稿によるマルチ動画中継だ。

様々なイベントなどでこれまでも使われてきたが、これを米大統領選の選挙キャンペーン報道に活用しようというのだ。

●「セクスティング」とジャーナリズムへの展開

スナップチャットは、そもそも、受信者が閲覧後、10秒で画像が消えるというのが特徴の、動画・画像のメッセージサービスだ。

2011年設立の新興モバイルメディアながら、ユーザー数は2億人に迫るという。

米国ユーザーでは7割が18~34歳、18~24歳だけでも半数近く。18~24歳の層では、フェイスブック、グーグル、ツイッターのいずれも2割に満たないことを見れば、若者に圧倒的な支持を受けていることが分かる。

気のおけない友達同士で面白画像を共有したりする一方で、恋人にヌード写真を送信するなどの「セクスティング(sexting)」にも使われている、と指摘されてきた。

米シカゴでは今月、少女がスナップチャットを使って、自撮りのヌード写真をボーイフレンドに送信。このボーイフレンドがその写真を友人らに転送し、さらに新たなヌード写真を送るよう脅迫したとして、警察が動き出す騒ぎとなっている

オリジナルの画像は10秒で消えるが、スマートフォンの画像キャプチャー(保存)機能を使えば、保存や転送も可能だからだ。

そんなダークな使い途の一方で、スナップチャットは1月にはニュース配信チャンネル「ディスカバー」を新設。

CNNやデイリー・メール、ヤフーニュース、ヴァイス、フュージョンなどのメディアが、にぎやかな画像や音楽を活用したオリジナルコンテンツを配信。

ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなども、専用チャンネルを開設し、オリジナルコンテンツを配信している。 メディアにとって、若者層へのアプローチは最重要課題だからだ。

●CNNの看板政治記者

さらに4月末には、スナップチャットのニュース部門の責任者として、CNNの看板政治記者、ピーター・ハンビーさんが移籍することが明らかになっている

ニューヨーク・タイムズによれば、スナップチャットはすでにベンチャーキャピタルから5億ドル(600億円)以上の資金を調達し、評価額は150億ドル(1兆8000億円)を超すという。

「ディスカバー」では、CNNのチャンネルだけで毎日100万人の視聴があるようだ。 ハンビーさんは、大統領選の選挙運動とツイッターの効果をまとめた論文もあるといい、ソーシャルメディアのニュース部門向きの人材らしい。

そして、今回の人材募集だ。

●ソーシャルメディアからジャーナリズムへ

ネコのお笑い動画などのバイラルコンテンツからジャーナリズムへ、という移行は、これまでにも見られた。

ハフィントン・ポストは調査報道への注力によって、2012年にはピュリツァー賞を受賞している

バイラルメディアの代名詞、バズフィードも海外特派員を採用するなど、ジャーナリズムへの傾斜を強めている。

一つには、それがメディアのブランドへの信頼を高め、広告価値の向上にもつながるという側面もある。

また、全米を巻き込む一大イベントとしての大統領選は、ユーザー層の厚みを広げる上でも十分な価値がある、との思惑もあるだろう。

さらに、フォーチュンのマシュー・イングラムさんは、これまでのメディア発想の延長線上でモバイル対応に苦慮する既存メディアとは対照的に、スナップチャットのモバイルならではのカルチャーが、大統領選報道に新たな可能性を生み出すのではないか、と指摘する

スナップチャットの装備には、極めて強力なツールがある:まさに新興メディアであり、それゆえ既存のビジネスモデルもなければ、旧来の運営手法にも捕らわれない。年金負担やインフラコストにも悩まされないし、メディア産業かくあるべしという先入観もない。同社が理解しているのは、ユーザーが何をしているか、そして何を望んでいるか、ということだけだ。

確かに、注視していきたい動きだ。

(2015年5月23日「新聞紙学的」より転載)

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