<経産省の挑戦> 高過ぎる再エネ価格を引き下げる"伝家の宝刀"を抜くか?

買取りのための財源は、我々一般庶民の電気料金に上乗せされる。

大手電力10社が、再生可能エネルギーで作られた電気を20年間にわたって、一定価格で引き取るという制度(固定価格買取制度;通称FIT)がある。

買取りのための財源は、我々一般庶民の電気料金に上乗せされる。2017年度の再エネ買取費用の総額は2.7兆円〔資料1〕。

このうち、化石燃料から再エネに置き換わることで支払わなくて済む化石燃料代を差し引いたものが、再エネ導入のための純粋な追加負担金であり、その総額は2.1兆円。これは「再エネ賦課金」と呼ばれる。

今年度の場合、標準家庭では月690円、年8230円となる。月々の電気料金明細書に書かれている。再エネ賦課金は、今後当面、毎年上がり続ける見込み。

〔資料1〕

最近、再エネの一つである「一般木材等バイオマス発電」のFIT認定の申請が急増し、大問題となっている。申請を全て認めてしまうと、再エネ買取費用が高くなり過ぎるからだ。

大規模な一般木質等バイオマス発電(容量2万kW以上)の買取価格の引下げが決まってから、認定申請の駆け込みが頻発。昨年3月時点で265万kWであった認定容量は、今年3月には1062万kWへと急増した〔資料2〕。

〔資料2〕

今後、認定対象の一般木材等バイオマス発電設備が全て稼働すれば、2030年度の買取費用は1.8兆円になる。これは、当初想定の3倍の規模。

実は、太陽光発電も同じような状況にある。買取費用は現時点で既に1.7兆円に達しており、制度開始後たった5年で、2030年度に想定している買取費用2.3兆円に迫る勢いとなっている。

こんな異常事態になったのは、認定申請の要件を満たしてさえいれば、たとえ発電設備を設置する証明がなくとも次々と認定がなされてきたことによる。これは、再エネ行政当局である経済産業省の失敗であり、最終責任はそれを容認してきた政権与党にある。

太陽光発電については、事業用で大規模なもの(容量2000kW以上)を対象として、今年度から入札制度を導入された。先週、最初の入札が実施され、落札価格の最安値は2016年度の売電価格を3割下回った。初めてにしては、好成績と言える。

一般木材等バイオマス発電に関しても、大規模なものから入札制度の対象にするとの方向性が、先週開かれた経産省の有識者会議で提起された。早ければ、2018年度から実施されるだろうから、それに向けた詳細な制度設計が進んでいくはずだ。

しかし、太陽光発電や一般木材等バイオマス発電の買取価格を入札で決めるだけでは、再エネ費用負担の大幅な削減には至らない。もっと斬り込んでいかないと、再エネに係る将来の国民負担を低減することはできない。

大衆マスコミでは全く報じられていないようだが、先週の経産省会議では、次のような論点提起をした資料が配布された〔資料3〕。

〔資料3〕

この論点提起の文章を、かいつまんでわかりやすく言うと、次の通り。

① FIT法によると、

② 経産省が毎年決定する再エネ電気の買取価格・買取期間に関して、

③ その決定の前提とした再エネ電気供給量が大幅に変化し、

④ その変化による国民負担への影響が大きいと認められる場合には、

⑤ FIT認定前であれば、いったん決めた買取価格・買取期間を事後的に変更することができるのではないか。

⑥ そして、既に決めた一般木材等バイオマス発電の2018〜19年度の買取価格・買取期間について、事後的に変更すべきではないか。

これは、ちょっと大胆な提案だ。

再エネ導入に伴う国民負担を巨大化させないためとは言え、いったん決めたものを事後的に変更することは、役所にとっても大きな挑戦である。

しかし、「既に決めた一般木材等バイオマス発電の2018〜19年度の買取価格・買取期間」を事後的に変更できるという経産省の"厳格な解釈"では、今後新たに認定を受ける案件にしか効かない。

FIT法では、「経済事情に著しい変動」が起これば、認定済み案件や稼働済み案件の買取価格・買取期間を事後的に変更できるとされている。 経産省は、もっと大胆になる必要がある。

つまり、認定量が想定を超えて急増した場合を「経済事情に著しい変動」とするような"柔軟な解釈"をすべきだ。

それにより、

⑴ 「既に決めた一般木材等バイオマス発電の2017年度以前の買取価格・買取期間」も事後的に変更できるようになるし、

⑵ 「既に決めた太陽光発電の2017年度以前の買取価格・買取期間」も事後的に変更できるようになる。

これは、FIT法に書かれている『伝家の宝刀』を抜くことに他ならない。

このくらいの大ナタを振るわないと、再エネ導入に伴う国民負担の肥大化を事前に防ぐことはできない。

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