新しいメディアが人間や環境にもたらす影響を考えるためのキーワードとは?

『今こそ読みたいマクルーハン』を読みました。大学生時代にメディアや情報関連の授業で一通り習った記憶があるのですが、すっぽり抜けているので復習。

「いかなる技術も徐々に完全に新しい人間環境を生み出す」

今こそ読みたいマクルーハン』を読みました。大学生時代にメディアや情報関連の授業で一通り習った記憶があるのですが、すっぽり抜けているので復習。

有名な「メディアはメッセージである」という言葉はかなり一人歩きしてきたアフォリズムですね。まずマクルーハンのユニークなところを挙げるとすると、メディアと人間と身体の拡張、そして技術を同等に結びつけているところです。

いかなるメディア(すなわち、われわれ自身の拡張したもののこと)の場合でも、それが個人および社会に及ぼす結果というものは、われわれ自身の個々の拡張(つまり、新しい技術のこと)によってわれわれの世界に導入される新しい尺度に起因する、ということだ。

つまりは、メディア(=技術)が社会に与える影響・変化こそが、メッセージであるということです(どんなメディアでも社会環境を変えるものと捉えていた)。「いかなる技術も徐々に完全に新しい人間環境を生み出すものである」という言葉も残されています。

新しい技術の登場によって、技術的環境はもちろん、人間やこれまであった技術も更新されてしまうのです。しかし、「メディアの内容がメディアの性質を見抜く妨げになる」というマクルーハンの指摘も本書では紹介されています。新技術があたりまえの環境にいるなかでは、技術の本質が見えなくなるということです。

感覚比率に大きな変化が起きた3つのできごと

マクルーハンによる、人間が自身の体以外で使うものをメディアとする捉え方では、「本は目の拡張」「衣服は皮膚の拡張」となります。技術は人間の感覚を拡張するというユニークな視点は、現代でいえばウェアラブルデバイスの話などにも到達するものです。本書ではグーグルグラスを例に、新技術の登場・導入された結果、感情的な反発や強い影響や変化が起きることを紹介しています。

このことについてマクルーハンは「感覚比率」という言葉で表現しました。人間がそれぞれの感覚をどの程度使っているのかというバランスを示したものです。著書『グーテンベルクの銀河系』から表現が引用されていました。

ある文化圏の内部から、もしくは外部からひとつの技術が導入され、その結果としてわれわれのもつ五感のうち特定の感覚だけがとくに強調され、優位を与えられる場合、五感がそれぞれに務める役割比率に変化が生じるのだが、そのときわれわれの感受性はもとのままではありえないのだ。眼も耳も他の感覚も以前とは違った働き方をしはじめる。

ちなみに、歴史上、感覚比率の大きな変化が3回あったそうです。まずは、文字(アルファベット)の登場以前の社会にアルファベットが与えた変化。口語の時代はいろんなところから音は聞こえるため聴覚が大きな割合を占めていたのが文字の登場により視覚に変わっていきます。

次の変化は印刷の発明によって視覚の重要性がさらに増した(強化)されたこと。マクルーハンは文字の登場と印刷技術の確立が近代文明の高度化に貢献したといいます。

最後の変化は電子テクノロジーによって再び聴覚の割合が上がってきたということ。最近ではツイッターやLINEなども口語的な使い方が多いため、論理立てたテキストで求められる視覚とは違い、聴覚的な感覚が求められているというのも興味深かったです。

これまで紹介してきた感覚比率が大きく変わることで、新しいテクノロジーへの不安や嫌悪感も出てくるというのはなんとなく理解できました。過去/現在の感覚比率が相対的に当たり前で心地いいと感じ、新しいテクノロジーによって過去/現在が理想化されるため、古い価値観を更新するのに時間もかかってくるのだそう。

人間はクールなメディアをホットにしたい

最後に紹介するのは、マクルーハンの唱えた有名な概念のひとつである、「ホット」と「クール」というメディア分類。メディアの情報量を温度で表現したものです。

メディアが人間の感覚を拡張する際に、「高精細/高解像度」で行う、言い換えれば「与えてくれる情報量が多い」のがホット。逆に「低精細/低解像度」で行う、つまり「与えてくれる情報量が少ない」のがクールである

情報量に加えて、「参加度」というのもホットかクールかを分ける特徴として挙げられています。例で言うと、本はホット、会話はクールということです。参加度については、人間が情報で満たされていることを願うという前提があることを本書でも成立条件として述べています。ただ、人間はクールなメディアをホットにしたい、という情報補足や参加をしたいと願う存在だそうです。

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「メディアはメッセージである」をはじめとする主張が有名なマクルーハンですが、個人的に共感しているのは「私は説明しない。探求するのみ」という姿勢です。見えない環境を探るという姿勢を貫いたため、射程距離の長い言葉や問いが生まれ、現代にも影響を与えているのでしょう。

また、新しいメディアによる環境変化を「新しいものの登場+古いものの退場」で倍のインパクトがあり、どんなメディアにも「強化」「衰退」「回復」「反転」という4つの機能があるとしたことも印象的です。さまざまなテクノロジーによって社会や生活が変わりつつあるなか、改めて頭に置いておきたい言葉がたくさんありました。

(2015年1月12日「メディアの輪郭」より転載)

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