iPhone5用の透明バックパネルを売っていた(正確には販売目的で所持していた)人が商標法違反容疑で逮捕されたという事件がありました(参照記事 )。ニュース映像を見ると、AppleのリンゴマークとiPhoneの文字が商品にはっきりと書かれていることから、Appleの商標権を侵害するのは明らかと言えます。
では、仮に、このバックパネルにもそのパッケージにもリンゴマークやiPhoneの文字を使用しなかったらどうでしょうか?商標法的にはクリアーできるかもしれませんが、意匠権の問題が出てきます。
言うまでもなくAppleはiPhone5の工業デザインの意匠権を数多く所有しています。たとえば、以下は意匠登録1493680号(部分意匠)の図のひとつです。点線部分は権利には関係なくて、実線の外周部分のデザインをAppleが独占できることを表わしています(角の丸い四角形すべてを独占できるということではありません、あくまでもこういう角のRと縦横比のデザインとそれに類似したデザインを独占できるという話です)。
細かいことを言うとiPhone(携帯情報端末)とバックパネルでは物品が違うので意匠権の直接侵害にはならないのですが、意匠法には間接侵害の規定があり、それに引っかかる可能性大です。
第三十八条 次に掲げる行為は、当該意匠権又は専用実施権を侵害するものとみなす。
一 業として、登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品の製造にのみ用いる物の生産、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為
意匠権を侵害する物を作ることにしか使われないもの(たとえば、組み立てキット)を販売すると間接侵害になるという規定です。このスケルトンバックパネルはiPhoneの裏に付けて使う以外の現実的な使い道はないので、この規定にひっかかる可能性大です。似ないようにいろいろ装飾をつければ、意匠権侵害を回避でできる可能性はあるかもしれませんが、結果的にiPhoneに似ても似つかないものになってしまうえば商品としての魅力がなくなるので、あまり意味がないでしょう。
Appleに限らず、大手消費者向け機器メーカーは意匠登録を結構やってますので、デザインに影響があるような互換パーツの製造販売には注意が必要です。筐体の中に入っていて外から見えない互換パーツやネジのようにデザインに影響を与えないものであれば問題はないですが。
(2014年10月3日「栗原潔のIT弁理士日記」より転載)