こんにちは。キャリアカウンセラーの小橋友美です。
4月になり、新入社員の姿をあちこちで見かけるようになりました。初々しい姿を見ていると、自分もあんな頃があったなあ...... と思い出しますよね。
ところで、あなたは今、新入社員のときに思い描いていたようなキャリアを歩めていますか?
この時期は異動だったり、育休明けで復帰したりして、新しい仕事の担当になったという方もたくさんいらっしゃると思います。
それが希望しない仕事だったら、どうすればいいのでしょうか。
「すぐ転職するほどじゃないけど、今の仕事を続けてていいのかな......」
そう思ってしまうこと、ありませんか?
今回は、そんなもやもやした気持ちから新しい一歩を踏み出すための、ふたつの視点を紹介します。
キャリアの8割は予期しない出来事で決まる
個人のキャリアの8割は予期せぬ偶発的なことにより決定される。
予期せぬ出来事を避けるのではなく、起きたことを最大限に活用しよう。
むしろ偶然を作り出せるよう積極的に行動し、キャリアを創造する機会にしよう。
これは、1999年にスタンフォード大学のジョン・Ⅾ・クランボルツ博士らが提唱した「計画的偶発性理論」です。
クランボルツ教授は、アメリカで500人以上のビジネスパーソンにインタビュー調査を行い、この理論を発表しました。
そして、「目標よりも日々の行動によって満足いくキャリアが作られる」として、下の5つの行動を推奨しています。
- 好奇心:新しい学習機会の模索
- 持続性:めげない努力
- 楽観性:新しい機会を「実現可能」と捉える
- 柔軟性:信念、概念、態度、行動を変える
- リスク・テイキング:結果が不確実でも行動に移す
つまり、思い描いたようなキャリアではないからと落ち込むことはなく、予期せぬ出来事もチャンスに変える行動を取ることが満足いくキャリアにつながる、ということです。
ここで少し、あなた自身のことを思い返してみてください。
仕事上の夢や目標(ここでは「キャリア目標」とします)は、いつ、どのように作られたものでしょうか。
おそらく、就職活動や入社のときだったと思います。
その後に大きな見直しをしていないなら、今あなたが持っているのは、学生時代や新入社員時代と同じキャリア目標かもしれません。
それがあなたを追い詰めていませんか。
キャリア目標を作ったときには想像できなかった「時代の変化」がいま目の前にあります。
スマートフォンでサービスが完結し、IoTであらゆるモノがインターネットにつながり、AIとの協働が当たり前になる社会がもうそこまで来ています。
ここ10年の経済環境の変化も激しく、企業の収益構造も変わりました。
私がいた銀行業界でも、花形だった法人融資や手数料ビジネスではもう稼げなくなり、フィンテック対応でシステム部門の重要性が急速に高まっています。これまではあまり見られなかったベンチャー企業との提携も増えてきました。
こうした大きな変化の中で、
「このキャリア目標でいいのかどうか、わからなくなってきた」
という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
従来のキャリア理論では、周囲や自分の状況を分析し、目標を立てて粛々と努力することが重要とされていました。
でもこの環境変化の下では、どんなに努力しても目標どおりのキャリアを歩み続けることはとても難しくなってきました。
「計画的偶発性理論」は、こうした現状を踏まえて生まれた、実践的な理論です。
クランボルツ教授は、
「その時々で目標は作ってもよいが、目標はあなたの成長や学習、環境の変化に伴って常に変化する可能性がある。常にオープンマインドで、学び、挑戦しよう。」
と語っています。
これまで掲げていた目標の他にも、あなたの力を発揮できるチャンスはあるのかもしれません。
先輩達が実践してきた「計画的偶発性理論」
また、結婚や出産、育児や病気など、人間本来のライフイベントは予定通りにはいかないものですよね。
私が独身だったころ、子育てしながら働く先輩たちがよく、
「仕事も出産も考え過ぎずに、チャンスが来たら飛び込んでみればいいよ」
とアドバイスをくれました。
私はこの手の話を「無責任だな」と半分受け流してしまっていたのですが、これはライフイベントと仕事をなんとか両立させてきた先輩たちが経験から習得した計画的偶発性理論そのものだったんだと今は思います。
以前このLAXICのインタビューに答えてくださった、株式会社Lifull FaMの秋庭麻衣さんや津田塾大学学長の高橋裕子さんなど、予想外のライフイベントと仕事の両方に真摯に向き合い、柔軟に歩んでこられた先輩たちの経験からは励まされることがたくさんあります。
仕事を3つ掛け合わせて希少性を高める
藤原和博先生のキャリアの三角形(GLOBIS知見禄より)
キャリア目標に固執せず、積極的にチャンスをつかむことに加えて、「異なる分野の仕事を掛け合わせて自分の希少性を高める」という視点を持つと、さらにキャリアは飛躍します。
奈良市立一条高校校長の藤原和博さん(リクルート出身、東京都で初めて民間人として公立中学の校長も務められました)は、2017年に出版した著書「10年後、君に仕事はあるのか?」で、
「仕事を3つ掛け算して自分の希少性を高めよう」
と語っています。
具体的には
- 1つの分野で100万人のトップになるのはオリンピックのメダリスト級の難しさ
- だが、例えば2つの分野でそれぞれ100人に1人ぐらいの人材になり、それらの分野を掛け合わせる仕事ができたら、1/100 × 1/100 =1/10000の人材になれる
- 3つ掛け合わせたら100万人に1人の人材になれる
ということです。
しかも、3つ目の仕事はそれまでとまったく違う分野に挑戦することを勧めています。
1つ目と2つ目の仕事を結んで底辺とし、3つ目の仕事を三角形の頂点とする図を使い、3つ目の仕事をできるだけ底辺から離れた仕事にすることで、大きなキャリアの三角形を描ける、としています。
そしてその三角形の面積が他者からの信頼と共感の大きさだと説明しています。
100万人に1人とまではいかなくても、この理論に学ぶことは多いですよね。
希望しない仕事でも、それが自分に希少性をもたらしてくれるという見方ができればどうでしょうか。
仕事への取り組み方もポジティブなものに変わりますよね。
自分で希望する仕事というのは、どうしても同じ分野に偏ることが多いと思います。
そして、例えば個人営業の次は法人営業、経理の次は本部企画...... というように、顧客層が一段レベルアップしたり、同じ分野で権限が大きくなったりするような仕事の担当になれば成功、と思いがちです。
でも藤原先生の指摘にもとづいて考えると、これだけでは底辺が伸びてもキャリアの三角形は描けません。
そして同じようなパフォーマンス集団の中で希少性を獲得しようとすると、長時間労働などこれまでと同じ働き方に頼ることになってしまいます。
希望しない仕事の担当になれば誰もが落ち込むと思いますが、こうした考え方でチャンスにもできるのです。
これまでのキャリアを線から面にして、希少性を獲得できる機会かもしれません。
この理論のポイントは、自分の希少性を見つけられるかどうかだと思います。
希少性のイメージについて、藤原先生は、
- 需要が膨らむ分野で供給が少ない仕事をする
- 需要が膨らむ分野でなくても、その地域で自分しかできないという仕事をする
と説明しています。
こうした目線で自分のキャリアを見ることができれば、システム構築に強い営業担当者、新規事業立ち上げに詳しい人事担当者など、会社の人材育成方針にとらわれずにより広い世界で自分の価値を知ることにつながります。
そのためには、キャリア論が専門の高橋俊介教授(慶應義塾大学大学院)が
「これからは、仕事ばかりしていると仕事に必要な能力が身に付かない」と指摘しているとおり、幅広い視野を持っていると可能性が広がります。
前回のコラムで紹介した「ライフ・キャリア・レインボー」の考え方のように、キャリア=仕事ととらえず、
「仕事や家庭や自分の時間を統合して作り上げていく生活の連続がキャリアを作る」
という視点が希少性を見出す手助けをしてくれるのではないでしょうか。
子どもに「働く背中を見せる」ということ
少し話が逸れるのですが、藤原先生の著書は高校生向けのような文体で書かれていながら、実際には40代、50代の親世代に向けた本だそうです。子どもに考えを押し付ける前に自分でやってみよう、ということなのでしょう。
私は大学生の就職活動支援もしていますが、親御さんからの時代錯誤のアドバイスに苦労する学生をたくさん見てきました。
女性が家庭を持っても続けられる仕事だからと管理栄養士や薬剤師の勉強をさせられたり(いずれも最近はサービス化が激しく、勤務時間が長かったり土日出勤が求められる職場が増えています)、
大人しい性格だからのんびり仕事できるところがいいと言われて、再編目前の地方銀行に入社するしかなかった学生もいました。
親なら誰でも、子どもに安定して長く働いてほしいと願うと思います。私もそう思います。
ただ、私たち親自身が、これらの時代に必要な力とは何なのか試行錯誤する姿を見せること、そして自分の意見としてそれを伝えるにとどめることが子どもにとっては一番役に立つのかもしれませんね。
キャリアは私自身のもの
今、あなたの目の前にあるのは、希望した仕事ではないかもしれません。
ワーキングマザーの中には、「きみに重要な仕事は任せられない」という雰囲気の中で悔しい思いをしてきた方もたくさんいらっしゃると思います。
一方でマスコミが取り上げるのは、同じ子育て中なのに責任の重い仕事をこなしていたり、起業やフリーランスで自由に働く、きらきら輝くママばかりです。
焦りますよね。
でも、転職や起業だけが解決策ではありません。
どういう形で働くかではなく、今の仕事でどう自分の力を発揮していくかを考える方が、現実的な解決策になることもあります。
キャリアは自分のものなので、会社の言う「重要な仕事」はできなくても、「自分の希少性を高める」という考え方で改めて仕事と向き合ってみると、視点が変わって焦りやもやもやから解放されるのではないでしょうか。
その結果、今の会社で待遇が変わるかもしれませんし、より広い世界で活躍することになるかもしれませんね。
計画的偶発性理論も、キャリアの三角形理論も、これからの時代の働き方のヒントです。
時代の変化や人生の変化の中でも、「私は何が起きても自分らしく働いていける」、そう思える自分でいたいですね。
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キャリアカウンセラー小橋の「越えていこうよ、ワーママもやもや期」
小橋友美
米国CCE, Inc認定
GCDF-Japan
キャリアカウンセラー
1979年香川県生まれ。お茶の水女子大学卒業後、信託銀行に10年勤務。
病気と結婚を機に退職し、キャリアカウンセラーとして活動を始める。
採用実務経験を活かした若年層向けの就職支援を行う一方で、ワーママ、プレワーママが抱える「働くことへの悩み」を共に解決したいと考え、
仕事も生活も楽しむためのキャリア支援活動を行っている。
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ワーママを、楽しく。LAXIC
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LAXICは、「ワーママを、楽しく」をキャッチフレーズに子育ても仕事も自分らしく楽しみたいワーママやワーパパ、彼らを取り巻く人々のための情報を集めたWEBメディアです