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2015年12月13日 02時35分 JST | 更新 2016年12月11日 19時12分 JST

幹細胞とは何か?(4)「クローンES細胞」で拒絶反応を回避!?

「ES細胞(胚性幹細胞)」の技術的な問題を克服しようとして提案された「仮説」について述べてみます。

前回は、胚からつくった多能性幹細胞である「ES細胞(胚性幹細胞)」についてお話しましたが、倫理的な問題だけでなく、技術的な問題もあることを述べました。今回は後者を克服しようとして提案されたのですが、結局のところ、科学と社会に禍根と教訓を残した事件につながった「仮説」について述べてみます。

たとえES細胞から、患者の治療に役立つ細胞をつくることができたとしても、その細胞は患者とは遺伝的に異なるため、移植しても免疫機構による拒絶反応が起こる可能性があります。

前回述べたように、1998年、アメリカのジェームズ・トムソンらがヒトでのES細胞作成を世界で初めて報告したのですが、その論文が掲載された同じ『サイエンス』には、やはり幹細胞研究者であるジョンズホプキンス大学のジョン・ギアハートが興味深い解説を書いています。彼はそこで拒絶反応を回避するためのアイディアを提案していたのです。その1つがクローン技術との組み合わせでした。

その前年である1997年、英国ロスリン研究所のイアン・ウィルムットらは、世界で初めてクローンの哺乳類を誕生させることができたと報告しました。有名なクローンヒツジ「ドリー」です。つまり、ある個体の体細胞を、核を取り除いた卵子(除核卵)に移植(核移植)してできた「クローン胚」を、雌の子宮に移植すれば、体細胞の持ち主である個体とほぼ同じ遺伝情報を持った個体が生まれる、という方法論が確立されたのです。その後、ウシやマウス、ヤギなどほかの動物でもクローン成功の報告が相次ぎました。

ヒトでこれを行なえば、「クローン人間」が生まれてしまうことになります。しかし、ヒトへのクローン技術の応用は、別のことがねらいでした。

体細胞を除核卵に核移植してできた「クローン胚」からも、理論的にはES細胞をつくることができるはずだと研究者らは考えました。そうしてできたES細胞からさらに、その多能性を利用して移植用の細胞をつくれば、それはもとの体細胞の由来者と同じ遺伝情報を持つことになります。だとしたら、患者と同じ遺伝情報を持つ移植用細胞をつくれば、拒絶反応のある程度回避できるだろう、という仮説(アイディア)が生まれました。この仮説は「セラピューティック・クローニング」と呼ばれました。

2001年、その基礎技術として、マウスのクローン胚からES細胞を作成することに成功したのは、若山照彦・現山梨大学教授らでした(若山は1998年に世界で初めてクローンマウスの誕生を成功させた研究者でもあります。そして最近、たいへんな惨事にかかわってしまったことは、この連載でまた触れたいと思います)。

クローン胚からできたES細胞は、「ntES細胞」、「体細胞核移植ES細胞」、「体細胞由来ES細胞」などさまざまな名称で呼ばれていますが、ここでは簡単に「クローンES細胞」と呼んでおきましょう。

「クローンES細胞」を使う「セラピューティック・クローニング」という仮説は、ある時期までは、多くの幹細胞研究者がその実現を本気で目指していました。しかし2005年、ある事件によって、この仮説は大きな打撃を受けることになります。次回はその大事件についてお話します。

Written by 粥川準二(かゆかわ・じゅんじ)

1969年生まれ。ライター・編集者・翻訳者。日本大学、明治学院大学、国士舘大学で非常勤講師も務める。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(E・テナー著、早川書房)など。博士(社会学)。

元記事は▶▶幹細胞とは何か?(4)「クローンES細胞」で拒絶反応を回避!?

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